ファインモーション。アイルライド生まれの競走馬でデビューから無敗で秋華賞、更にはエリザベス女王杯のGI二連勝という破竹の勢いで6連勝の活躍を見せつけていた。6戦目での古馬GI制覇は史上最短の記録とされている。その才能の強さにはあの岡部騎手も認めており、レジェンド騎手の武豊に至っては一瞬牡馬と間違えてしまったという話も存在する。
そんなファインモーションと出会ってしまったランページ、日本の皇族だけではなく今度はアイルランドの王族。自分の運命というか、流れは一体どんな風になってしまっているのだろうか……兎も角、その場はファインモーションと軽い談笑をし、今度お礼をしたいのとお友達になりたいというので連絡先を交換する程度に収めた。自分が天皇との会談もある事を理解してくれているのか、SP隊長が何度も何度も頭を下げつつもその場を終わらせてくれた。
「……ピルサドスキーってこん時、幾つだっけなぁ……」
不意に思い出される彼女の姉に当たるウマ娘のピルサドスキー、年代的な話をすればピルサドスキーはフジキセキやマヤノトップガンなどの同期に当たる。これから大変な事になりそうだなぁ……と思いながらも天皇皇后両陛下との会談に臨む事になってしまった。
「本日のレース、素晴らしかったです。貴方が世界挑戦をする前にこの目で見られて良かったと思っております」
「光栄です」
「ライブの後でお疲れだとは思いますがサインは頂けませんでしょうか、それとお写真も一緒に」
「努めさせて頂きます」
無数のフラッシュが焚かれる中でサインを書き、陛下方との写真を取るという色んな意味でとんでもない経験をしてしまったランページ。その日はもう何も考えられなくなったのでラモーヌに肩を借りて部屋まで連れて行って貰って爆睡した。そして世間が自分と天皇との会談でとんでもない騒ぎになっている中でランページは何も考えたくなくなったのか、インプレッサに乗り込んでドライブに出掛ける―――筈だった。
「―――筈だったのになぁ……なぁなんで俺こんな事してるのかね」
「私が連絡したから?」
「だよなぁ……殿下、御忍びって言葉の意味分かる?」
「ジャパニーズニンジャ!」
「アイエェ……そうじゃないよぉ……」
インプレッサに寄り掛かりながら一緒にジュースを飲んでいる少女―――ファインモーションはニンニン!!と笑いながらもポーズを取っている、普段ならば微笑ましいなぁと思うのかもしれないが今はそんな気分にはなれなかった。
「このまま帰る気ある?」
「ない、だって退屈なんだもぉん」
「もぉんじゃねえよ、仮にも殿下なんだから……昨日のSPさん慌ててるだろ」
「大丈夫、お姉ちゃんの所に連絡して来たから」
『お友達の所に行ってきます』
「ファインンンンンッ!!?」「殿下ぁぁぁぁぁ!!!??」
「何か少し不安ではあるが……放っておく訳にもいかないかぁ……どっか行きたいところある?」
「連れてってくれるの?」
「連れて行ってあげるから、その後はちゃんと連絡して帰る事、ユーコピー?」
「は~い♪」
返事だけはいい返事をする……まあ良いだろう、自分は変装しているしファインだって御忍びで来ている事もあって身なりの良いウマ娘程度にしか思われないだろう。ある程度遊びに付き合ってあげたら満足して帰る気も起きるだろう。
「んで何処行きたいんだ?」
「えっと、何処か!!」
「んっ~未定!!さては何も考えずに出て来たな?」
「えへへ~ランページさんに会いたくて」
「それは嬉しい事で」
運転しつつも適当に話を聞いてみると、彼女と姉のピルサドスキーが自分の配信をよく見ているのもあって自分のファンであるらしい。加えて、母親が日本に行く用事があったので無理を言って同行させて貰って天皇賞(秋)を観戦したとの事。
「お姉様もランページさんに会いたがってましたので、きっとこうしてる事が分かったら凄い反応するんだろうなぁ♪」
「良い性格してる殿下だよ全く……」
「それ程でも~♪」
曰く、ピルサドスキーは自分の事を麗しの女王陛下と呼んでいるらしい。何れ、ジャパンカップで自分のような走りで勝利する事を目標としているとファインの口から聞かされるのだが……その舞台でエアグルーヴが負けた*1のかぁ……と色んな事を考えたりするのであった。
「んじゃ、お姉さん用にサインとか書いた方が良いか?」
「あっきっと喜ぶ!!私の分もお願いね」
「はいはい」
「―――何だかお腹すいちゃったぁ……そう言えば、朝ごはん食べてなかった……」
そう言いながらも、チラリと此方を見つめて来る。
「……はいはい分かった、分かりましたよ……丁度この辺りに俺の友達がバイトしている店があるからそこで良いか?まあ殿下が行くような高級店じゃなくて庶民的な店だけどな」
「苦しゅうない、そこまで厚かましくないよ私」
「十分厚かましい事をご理解下さい殿下」
「貴様~そんな事を言うか~」
そんなやり取りをしながらも入った店はアイネスがバイトをしている中華料理店へと入ると、丁度アイネスが出迎えてくれた。
「あっランちゃんいらっしゃいなの!!あれっお連れ様がいるね」
「ああ、ちょっち一緒になってな。2名様で頼むわ」
「は~いそれじゃあテーブル席にご案内なの~」
史実では既に引退をしているアイネスだが、此方ではまだまだ現役を続行中。同時にバイトも継続しているらしく、看板娘としてこのお店に貢献し続けているらしい。なので自分も売り上げに貢献する事にする。
「俺はチャーシュー麺でいいか。殿下は如何する?」
「えっとお任せで」
「アイネス~注文頼むわ」
「は~い♪」
と注文を取るのだが……やって来たラーメンをランページの食べ方を真似るようにして食べてみたファインは大きく目を見開きながら蕩けたような表情で満足気に笑った。
「おいひぃ~……初めて食べたこんな美味しいの!!」
「そりゃ良かった」
そして美味しい美味しいと絶賛するのでアイネスも機嫌を良くしてチャーシューと煮卵をサービスで出して上げたり、ランページも追加オーダーをしたりとしていた。そして二人が満足した顔で店を出ると……
「で、殿下漸く見つけました……!!」
汗だくで疲労しきったSP隊長が此方を見つめていた。ウマ娘である彼女の膝が完全に笑っている辺り、かなり駆け回った事が伺える。
「連絡したとか言ってなかったっけ……」
「したよ?」
「置手紙をしただけじゃないですか!!しかもたった一文だけ!!」
「……ファイン殿下?」
「えへっ♪」
こうして、御忍び殿下の珍道中は終わりを告げる事となった。SP隊長は何度も何度も頭を下げつつもサインを抱えてご満悦なファインを連れて車に乗ると去って行った。この後、ファインの連絡先から母親とピルサドスキーの感謝と謝罪のメッセージが届くのだが、そこには嬉しそうな自分の書いたサインを抱えているファインの姿があって思わず苦笑した。
「困った殿下だ……んっラーメンを喰ったの初めてって言ってなかったっけ、もしかして……ラーメン好きにしたのって俺が原因?」