京都レース場に多くの人々が詰めかけている、本日のメインレースはG1レースのエリザベス女王杯。だがそれだけの理由で15万人を超える程の人々は集まる訳ではない、此処に集う人々のお目当ては出走するウマ娘達の顔ぶれ故。
『本日のメインレース、G1、エリザベス女王杯!!そのレースを見る為に此処京都レースには15万人を超える大観衆が集まっております!!それもそのはず、今年のエリザベス女王杯は一味違うのです!!』
実況の赤坂も思わず熱くなりながら語ってしまう。このレースに出走するウマ娘達が熱くさせるのだ。前年の覇者にして天皇賞(秋)を制した事で無敗での十一冠という最早意味不明の実績を上げているメジロランページ、そのランページと何度も何度も競い合い続けて最も勝利に近いとまで言われるイクノディクタス、そして今年のティアラ路線を制したトリプルティアラのツインターボが出走する。同じカノープスでも三強と言っても過言ではない激突が起ころうとしている。
「アタシは除外か~まあダービーウマ娘と三冠ウマ娘とじゃ格が違うからしょうがないかなぁ」
そんな事を言いながらもウマ娘レース新聞を流し見しながらも今回のレースの人気を確認するネイチャ。やはりというべきか前年覇者であり無敗継続中のランページが1番人気、そして2番人気はターボ、イクノは意外な事に3番人気だった。この辺りは活躍の鮮度の違いという奴だろうか。
「それでトレーナーはどう思う、誰が勝つと思う?」
「それを私に聞きます?私は一応全員を応援するつもりなんですが」
「ライスは、お姉様……かな」
「あたしはターボ先輩!!」
「う~ん、私はイクノさんかなぁ」
チーム内でも誰が勝つのかの予想はバラけている。お互いの手の内は完全にバレているような物だし対策方法も知っている、そうなると一番の対策方法が小細工なしの真っ向勝負なランページが辛い所だろうが……搦手を使うと逆に自分の首を絞める事になるという大逃げウマ娘にあるまじき奥の手を隠している。
「まあ、それも直ぐに分かりますよ」
その言葉通りに間もなくゲートインだ。結果が間もなく知れるというもの……。
『さあ間もなくゲートイン、日の丸とユニオンジャックに見守られ、淀のターフでエリザベス女王杯を掲げるのは誰だ!!三番人気には安田記念にて念願のG1制覇を成し遂げたイクノディクタス。その勢いのまま打倒メジロランページを目指します!!』
『2番人気は今年のトリプルティアラ、ツインターボ!!誰もが夢見た大逃げ対決に期待です』
『そして大本命、1番人気は完全無敗の最強ウマ娘、メジロランページ!!メジロ対決の次はカノープス対決、此処でも最強を証明するのか!!?さあゲートインが完了しました、今―――スタートしました!!』
エリザベス女王杯の幕が切って落とされる。始まりと同時に飛び出したのは3人のウマ娘、正確に言えば2人が飛び出したのを1人が追う構図になっている。
『好スタートを切りました、がそれよりも先に駆け出して行くのはやはりこの二人だった!!トリプルティアラ同士が早くも激突します、ツインターボとメジロランページだ!!大逃げウマ娘同士の対決が開始します!!そしてその後ろには機械の如く正確なペースを刻み続けるイクノディクタスが続いて行きます!!』
「ターボ全開~!!!」
「相変わらずのバカペースだなお前は、最初からドッカンターボとは……完璧に物にしてやがる!!」
「やはり、此処ですね」
秋華賞と同じようにスタートダッシュでの真・ドッカンターボに成功したターボ、完全にコツを掴んだと言わんばかりの飛ばし方。先頭を走り続けるのが常だったランページが今回ばかりは2番手にいる。そしてそんなランページの背後で力を温存して勝負の時を待ち続けるイクノ。
『だが、このペースで持つのでしょうか!?ツインターボ、これは暴走なのかそれとも作戦なのか凄まじいハイペースです!!だがこのペースにメジロランページ、イクノディクタスの双方は確りと付いて行っております!!同じカノープスだけに慣れていると言わんばかりの貫禄のある走りです!!既にこの3人のウマ娘と後続とは10バ身差はあるでしょうか!!』
「ふえぇっ~……三人とも凄い」
「三人揃っての10バ身差って……」
「先輩達凄い~!!!」
「イクノもよく付いて行けるよ……」
ハッキリ言って異常としか表現が出来ない状況になっている、恐らくイクノは逃げているつもりはなく唯々二人のマークについているというだけなのだろうが、他のウマ娘達からしたら大逃げが3人もいるという状況。間もなく1000mだが、全くスピードが落ちる素振りもない彼女らに焦りが後方で募り始めていく。
『今1000mを通過しました、通過タイムは―――57.2!!』
このタイムは秋華賞でターボが叩きだした57秒5よりも早いペース、それだけターボも成長しているのもあるだろうが……G1の舞台で二人に完全に追走されているからだろうか……それでもターボの足はまだまだ衰えない。まだまだ逃げ続けていく。
『さあ淀の坂へと入るが、此処でメジロランページがペースを上げていく!!急坂なんてなんのその!!芝の女王が遂に牙を剥いて来たか、イクノディクタスも続いていく!さあツインターボを捉えに掛かる!!』
「や、やっぱり此処で来たぁ!!」
ターボもきっと此処で二人が来る事は分かっていた、あの二人は自分よりもずっと坂を駆け上がる事が得意、特にランページなんて自分が使っている物よりも遥かに重いシンザン鉄を使って坂路を駆け上がる事が出来るのだからパワーの差が如実に出ている。イクノだってそれに負けないように鍛えたパワーを決め打ちされたペースで駆け上がって来る。
「いよぉっターボ!!」
「捉えましたよ!!」
「くぅぅっ~!!」
『第4コーナーに入る前にツインターボにメジロランページとイクノディクタスが並び立ったぁ!!後ろからはグランルーブル、リンリンリリー、メジロティファニーも追うが7バ身差を詰められるのか!!?さあ先頭の三人が第4コーナーを曲がり切って直線に入ったぞ、さあエリザベス女王杯を天へと掲げるのは一体誰だぁ!!』
後方から迫ってくるウマ娘なんてまるで眼中にないかのように、先頭を走り続けている三人は駆け抜けていた。そしてその一人、ツインターボは一気に抜け出そうと最後のターボを掛けようとした。
「ダリャアアアアアアア!!!!」
『ツインターボが此処で加速した!!秋華賞を制したこの二段加速でイクノディクタスとメジロランページを抜き―――されない!!メジロランページとイクノディクタスも全く同じように加速している!!ツインターボ全く差を付けられません!!』
「やっばっ、タイミング、ちょっとミスったぁぁっ!!!」
「ハッ気合入れて煽った甲斐があったな!」
「作戦通りです」
ランページとイクノは何年もずっとターボと走り込み続けている、それ故に彼女の弱点も承知している。ターボの走りはスタミナが切れて疲れる前に走り切ってしまうという物、その為の真・ドッカンターボでもあるのだが、それは最高のタイミングでなければうまく機能しない。ならば其処を阻害してしまえばドッカンターボは不発に終わる。
「生憎、こっちの脚は残ってんだよなぁ―――ついて来れるか、お前らぁ!!」
『メジロランページだぁぁ!!此処でメジロランページが抜け出した、ツインターボの先頭は此処で終わり!!矢張り無敗の女王が来るのか!?いやイクノディクタスも迫っていく!!』
「愚問ですね、今日こそ勝ちます!!」
「タ、ターボだってぇぇぇ!!!」
『ツインターボ懸命に食いしばるが厳しいか!?イクノディクタスがツインターボを完全に抜いた!流石に苦しいか、イクノディクタスとの差が開いていく!!』
それでもターボは走り続けている、まだまだ諦めていない。だが二人はどんどんと先へと進んでいく、イクノはどんどんと追い上げていく。ランページとの差を後1バ身という所まで到達する事に成功する。
「此処で一気にぃっ!!!」
「悪いが先頭はやらねぇ、背負っちまった夢の分は走るって決めたからぁぁ!!!」
一気に全身の連結度を上げる、そして姿勢を低くする。やはりこの走りをする時は低姿勢の方が加速できる、そして地面を蹴った。その時、近くに居たイクノは見た。芝が抉られていく光景を、一歩、また一歩を踏み出すたびに芝が宙を舞う。
『メジロランページ、メジロランページが更に伸びる!これこそ女王の走り、メジロランページ王者の貫禄を見せつけて今ゴールイン!!!無敗の女王が2年連続でエリザベス女王杯を制しました!!2着にはイクノディクタス、ツインターボは3着、4着には1バ身差でグランルーブル!!』
「走りが、ますます完成に近づいて行っているかのような……これは、益々倒しがいがありますね」
圧倒的な力を見せられながらもイクノは笑い続けていた。無敗のまま勝ち続ける彼女の姿が何処か誇らしく、嬉しかった。そして次こそは自分が負かすのだと決意を胸にする。