貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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165話

エリザベス女王杯の制覇、これによって合計勝利数は22勝、G1勝利数は12勝にまでになったランページ。表彰台とウイニングライブの中央を今度はカノープスで独占する事になった。やはりというべきか彼女を追い込むことができたのは同じチームで長い事走ってきたイクノ、本格的に国内に彼女に黒星をつけることができるウマ娘がいるのかどうかさえ疑問視する声すら上がり始めてきたのだが、その一方である疑問が浮かび上がってきた。

 

『メジロランページの海外挑戦の理由は国内では負けなしなので、見切りをつけたのでは?』

 

勿論の根も葉もないくだらない噂でしかない、がランページが二社以外の出版社に対して全く取材を受けなかったりするので国内のメディアに辟易しているのでは?といった風に考える者もいない訳でもない。一部からそんな噂が流れることもあって読者は二社と比べてどこか違うのかを見るようになって購入する雑誌を更に選ぶようになり、ランページの嫌う出版社の雑誌はさらに低迷していったとか……。

 

「エリザベス女王杯、優勝おめでとうございます」

「あんがとさん」

 

トレセン学園の一角、大樹のウロの近くに寝っ転がるランページに声をかけるフローラ。これで合計十二冠、本当に遠い所にまでライバルは行ってしまって少しだけ寂しい思いを抱いてしまっているフローラだが、ランページの勝利を祝いたいという思いに偽りはない。それを分かっているからか、邪険にしがちな彼女の言葉も素直に礼を言いながら受け取っている。

 

「これで無敗記録も更新ですね、全く貴方という人は……」

「嫌になったかい?」

「いえ、つくづく思い知りましたよ。本当に倒し甲斐のある方です」

 

イクノもそうだがそんな風に考える事が出来るフローラのようなウマ娘はどちらかといえば希少だろう、客観的に考えれば自分という存在は極めて厄介でしかないし出来る事ならば戦いたくはないし回避するのが賢い判断。回避しようがない場合にのみ戦い、その時には如何するべきかと頭を悩ませるという通常エンカウントする裏ボスのような存在だと以前タイシンから言われて妙に納得してしまった自分がいて笑ってしまった程。

 

「次は私のジャパンカップですね」

「自信満々で結構な事で、ンで俺に何の用だ」

「用がなければ話しかけてはいけないと?」

「ダチならいいんだがお前さんだと妙な寒気が身体に走るんだよなぁ……」

「心外です」

「これまでの行い」

 

グサリと鋭い刃が突き刺さったように何も言えなくなる、本当になんであの時はあの言葉をチョイスしてしまったのだろうという今更な後悔が押し寄せてくるのだが……表現としてあれが最適だったという思いもある。故に何とも言えない。

 

「いっそのことマジになれば貴方に引かれないんですかね」

「諦めが付くだけで引く事は引くぞ俺は」

「私はどうしたら……」

「知らね」

 

そんなバカみたいな会話をしつつもフローラは隣に座り込んだ、それをランページは特に何も言わずに受け入れる。

 

「改めて思いますが、やはり貴方のワールドレコードは凄まじいです。何度挑戦しても破る処か並び立つ事すらもできません」

「簡単に並ばれちまったら俺の立つ瀬がねぇっての」

 

トレセン学園には様々なコースが用意されているが、最も使用されるコースは東京レース場と同じ条件で作られているのでジャパンカップを想定した練習をするにはもってこいの場所。そしてそんな場所でフローラが挑んでいるのはランページが叩き出した2:22:0というワールドレコード。彼女の走りを守り抜くというのであればそれと並び立つか超える位の気概で行かなければならないという覚悟の表れでもある。

 

「いうなれば世界中のウマ娘が挑んできた記録だぜ、簡単に越えられたら堪ったもんじゃねぇよ」

「そうですね、ですがあなたに勝つならばその位はクリア出来ないと無理だと思いませんか。誰にも邪魔されず選び放題なコース上で」

「言いたい事は分からなくはないけどな」

 

ランページ的には自分の領域(固有スキル)は他者がいなければ成立しない類のものなので何とも同意しづらい、もう一度2400を走ったとして同じ記録が出せるとは限らない。あれは自分に対して重圧(デバフ)を仕掛けてくる相手がいるからこそ発揮出来る力なのだから。

 

「それでも私は一つ一つ記録を積み上げていくだけです、生憎貴方のようにはなれませんから」

「なんだ皮肉が上手くなったじゃねえか、真面目なフローラさんがやさぐれたか」

「何処かのウマ娘に負け続けていたら誰だって真っ直ぐだったものが曲がったりはしますよ」

 

私を変えたのは貴方ですよ、と暗に言うフローラの瞳はどこか妖しく光る、それを見て本当に彼女はそのままなんだということを察する。あまり察したくはないが……。

 

「そんな俺に捻じ曲げられたフローラさんよ、次は何時戦うよ」

「そうですね……有記念なんて如何ですか、ジャパンカップの後でしたらそれが一番現実的だと思いますが」

「やれやれやっぱりその名前が出るか」

 

年内最後のレースにして、その年で一番速いウマ娘を決めるレースといっても過言ではない有記念。テイオーとの対決もそこだし、何だったらそこにはターボやイクノ、それにネイチャ、ヘリオス、そしてライアンにマックイーンまでもが出走を考えている一大レース。そこにフローラまで加わるのか……と思うと本当にとんでもないお祭りになる事だろう。

 

「2500は無理ですか」

「いやその位なら許容範囲だ、いいだろうそこでやろうじゃねえか。逃げるんじゃねえぜ?」

「昨年の有を回避した貴方にそれを言われたくないですね」

「元々ローテに組み込んでねぇから回避にならねぇっつの」

 

先ほどのお返しと言わんばかりの表情で言葉をぶつけてくる彼女にあっけらかんとした物言いをする。なんとも今から年末が楽しみになってきてしまったじゃないか、本当にてんこ盛りのお祭りレースだ。三冠が4人も出走するなんて前代未聞だろう、今から人気がどのように分かれるのかが気になってきてしまった。

 

「さてと、それじゃあ俺は飯でも食いに行くかなぁ……ジャパンカップに向けて調整中のマックイーンの前でパフェを食う仕事があるからな」

「なんなんですかその嫌がらせ……それで彼女が成績悪くなったら笑えませんよ?」

「冗談だよ、せめてジャパンカップが終わってからにするわ」

「それはそれでどうかと思いますけど……」

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