貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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170話

『昨年、この府中の舞台で伝説が生まれました。その伝説に挑まんと世界のウマ娘が、我こそ次の伝説になるのだとジャパンカップの府中に集いました』

 

最早伝説と化したメジロランページのジャパンカップ。最初から全力全開で駆け抜けていった彼女、シンボリルドルフ以来となるジャパンカップ制覇は世界の記憶に残るワールドレコードとなり、再び日本に誇りを齎した。ならば今年は如何なのか、様々な思いが載せられて間もなくスタート。

 

『ジャパンカップが今―――スタートしました!!各ウマ娘綺麗なスタートを切りました、レッドモナークが先頭、真っ先にハナを取りに行きます。その後方にはメジロマックイーン、フジサンガク、メジロアルダン、アグネスフローラが続きます。ゴールドフェザーン、ソーサリーシュバリエが内と外からそれぞれ行きます、が此処でアグネスフローラが抜け出して行く、早くにレッドモナークを捉えようという腹積もりか!!』

 

開始されたジャパンカップ、フローラは先行。ではなく、彼女はスタートは平凡的な技術しか持たないので抜群のスタートを決める他と比べると見劣りするだけ、今回の彼女に先行や差しと言った作戦は一切あてはまらない。何故ならば―――

 

「やっぱり速い―――このジャパンカップの舞台だからこそそれが分かる……!!」

 

彼女の目には遥か前方を駆けていくランページの姿が見えている。それぞれが牽制し合っている間に突き抜けていくかのように駆ける彼女の背中だけを見ている、それ以外になんて興味はない。今日、自分は此処を走る彼女と走る為にいるのだ。その為にフローラは客観的に見れば逃げ戦法を取っているかのように見えるような走りをしている。

 

『さあ先頭のレッドモナーク、を今アグネスフローラが抜きました。アグネスフローラが先頭、イクノディクタスと並び立つ程にメジロランページと競い合った彼女がこのジャパンカップの舞台でどのように輝くのでしょうか』

 

完全にノーマークだった相手の突出、それに海外勢の脳裏にある事が過った。それランページの駆ける姿、あの時も彼女は人気薄でマークを全く受けていない状態だった。それによって縦横無尽に走る事を許してしまった事がワールドレコードを出した大きな要因だったとも言われる、今のこの状況も酷くあの時と似ている……思わず、意識せざるを得なかった。

 

『おっと此処でゴールドフェザーンが少しヨレました、いやソーサリーシュバリエ、ターフホッパー、スターオブカラー、海外のウマ娘達が一瞬ヨレましたが直ぐに立て直しました。だがその隙をついてメジロマックイーンとメジロアルダンが抜け出ていく!メジロマックイーンが3番手、アルダンが4番手に上がります』

 

「居ない相手を意識して、勝てる程ジャパンカップは甘くありませんわ」

「今の内に……!!」

 

同じメジロの令嬢故か、周囲が何かを考えているのかは感じ取れた。海外のウマ娘達はランページの影に恐怖している、ワールドレコードを叩きだした化物の姿をフローラに投影させてしまっている。その気持ちは分からなくはないのだが、アプローチの仕方が致命的に間違っているとも思う。やるならばフローラのようにやらなければ意味がない。

 

「ハッハッハッ……!!」

 

呼吸音と心臓の音が聞こえてくる。そこにいる、異常とも言えるペースが奏でる地面を駆ける音が聞こえてくる。自分の目の前に貴方はいる、このジャパンカップに刻まれた影の貴方がそこにいる。

 

 

「ボクシングにはシャドーボクシングというものがあります。戦う相手を想定して自ら拳や脚を動かして行うメニューの一つです、フローラさんはそれをやっていますね」

「言うなればシャドーレースってか?俺に合わせればゴーストレースか」

 

見えない筈のものが見えている、自分にも見える。フローラが見える事のない筈の影をそこに作り上げている、それを目指して走り続けている、過去の自分の走りをこうして見る機会なんて滅多にない故に感動を感じてしまう。

 

「2400という舞台において最強のゴーストを追っているんです。如何ですご気分は」

「やっぱあいつってこぇぇわ、色んな意味で」

「同情します」

「同情するなら助けてくれ」

 

『さあ第4コーナーからカーブ!全く一団のまま入っていきます、さあ直線に入った!!ウチを突いてメジロマックイーンが来る、メジロアルダンも必死に食いつくがソーサリーシュバリエも並びかけて来る!!大外からゴールドフェザーンが来る!!一気にごぼう抜きの体勢だが、メジロマックイーンとメジロアルダンも必死に粘る!!その先の、その先のアグネスフローラ懸命の疾走!!2バ身差を守り抜けるのか!?ついに念願の初G1勝利をその手に抱けるのか!?このまま逃げ切れるのか!!』

 

「逃げる、違う、私は私は―――追いかけているんだ!!」

 

あの時から、ずっと追いかける立場だった。目の前を走り続けているあの人を常に追いかけて来た。多くのレースを走ってきた、だけどこれで証明する。私だって、あの人の、あの人の―――力を一番知っているのは私なのだから!!

 

「私がメジロランページのライバルだぁぁぁぁ!!!」

 

『此処でアグネスフローラが更に加速した!!3バ身から4バ身!!ゴールドフェザーンが迫るがこれは厳しいか!?メジロマックイーンと激しく争っています!!これはもう決まった!!そのまま、ゴールイン!!!アグネスフローラ、ジャパンカップを制しました!!ジャパンカップの舞台に満開の花が咲き乱れました、前年のメジロランページが掴み取った日本の誇りを、見事に死守しましたぁ!!!』

 

ゴール板を真っ先に駆け抜けたのはフローラだった。守り抜きたかったものを守り切ったフローラがゴール板を駆け抜けた後には新たな一歩を踏み出す力も無かった。だが、それでも幻想のランページを追い抜かす事が出来なかった。それでもいい、本物の勝利は真実に打ち勝った時にこそ貰い受ける。そう思った時に、幻想の彼女が振り向いて手を差し伸べて来た、こんな場面在っただろうかと首を傾げていると―――声が聞こえて来た。

 

「何呆けてんだよ、さっさと手を取れよバカ」

「あっえっうぇっ!?ランページさん!?えっ何で!?」

「前年度覇者が来ちゃ悪いか」

「い、いえそんな事は!?」

 

取り敢えず手を取って立ち上がる事にした、そしてランページは顎で観客の方を示した。そこには自分の勝利を祝福してくれる大歓声に溢れていた、その中には東条トレーナーも混ざっており、その表情には涙混じりの喜びを浮かべていた。念願の初G1制覇、刻まれた自らのタイム、2:22.9。それを成し遂げたのだという実感が漸く湧き上がって来た。そしてこの喜びを表現し分かち合う為にランページに抱き着こうとするのだが―――簡単に躱される。

 

「ちょっ!?其処は受け止めてくれる所じゃないですか!?」

「身の危険を感じたので、つい……」

「ジャパンカップに勝ったのにこういう扱いなのですか私!?」

 

そんな寸劇が目の前で繰り広げられている中で2着のゴールドフェザーンは愕然とした表情で此方を見つめていた。完全無警戒、しかもランページに負け続けていたウマ娘に敗北したという事実を上手く認識できない。そんな自分に、いや海外からやって来た全員にランページが言った。

 

『如何だったよ、俺のライバルは―――強かっただろ』

 

その言葉を、誰も否定出来なかった。彼女の伝説に挑戦しに来たのに、それすら許されなかった。

 

「お見事でしたわ、素直に勝ちを認めるしかありませんわ」

「はい、とても素晴らしかったです。G1勝利おめでとうございます」

「い、いやぁなんか……照れますね」

「マックイーンもアルダンさんもお疲れさん、ほれっもっと胸張れやフローラ」

「私はランページさんみたいに無いんですから勘弁してくださいよ!ねえマックイーンさん!!」

「そこでどうして私に振りますの!?嫌味ですの、嫌味ですの!!?」

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