「という訳ですので私の家に来てくれませんか?タキちゃんが是非お話したいと言ってきまして」
「待て待て待て、何がという訳なんだよ。何も話されてねぇよ何も分からねぇよ」
昼食を取っている時に突然声をかけられたランページ、声をかけて来たのは先日のジャパンカップで見事勝利をして初G1勝利をもぎ取ったフローラだった。自分への当てつけだと言わんばかりにフローラの勝利は大々的に報道された。ランページとティアラ路線の覇権を争って走り続けて来た彼女が漸く掴んだG1勝利、それはライバルが伝説を作り上げた舞台での勝利。これで漸く自分もG1の称号を掴むことが出来たとやや大げさな程に誇張された。
『アグネスフローラさん、今回の勝利の要因は!?』
「ランページさんのお陰ですね。私はあの人に勝つ為だけに走ってきましたから」
『海外からのウマ娘の皆さんは眼中になかったと!?』
「だって向こうだって私の事ガン無視してたじゃないですか、ランページさんの時もそうだったのに……あっこれ私舐められてるな、と思ったので私がマークされるなんて事ないと思ったので、存分にランページさんとの勝負に集中出来た事は感謝してますよ、まあそういう意味だと私たち全員がランページさんに負けてることになりますけどね」
だがフローラは一切自分の勝利を誇らなかった、確かにジャパンカップで勝利はしたが彼女が目指していたワールドレコードを越える事は出来なかった。それは他のウマ娘と同じ敗北と同じ。そのストイックにも見られる姿勢で益々評価を上げたのだが……彼女的には若干卑屈になっていただけなのでなんとも言えなかった。
『それでは次走についてお聞きしても宜しいでしょうか!?』
「これで私もG1を取れました、私はこれまでG1の看板を取れなかった、だけどこれで漸くあの人達に並ぶ事が出来た……有馬記念に出走します」
これで漸くスタートラインに立つ事が出来た、此処からが始まりなんだ、本当の意味でライバルだと胸を張って言えるような段階にまで来る事が出来た。しかしこれで有馬記念に出走する面々は錚々たる顔ぶれになった事になる。
メジロの三冠 メジロライアン。
ルドルフ以来の無敗三冠を成し遂げ、真の王者は自分だと挑戦を叩き付けた
帝王 トウカイテイオー。
3代目トリプルティアラ。唯一無二の大逃げウマ娘
爆速ターボエンジン ツインターボ。
ティアラ路線の最前線で暴君と覇権を争った乱れぬ貴婦人。
鉄の女 イクノディクタス。
無敗の帝王に敗北を突き付けかけた
もう1人のダービーウマ娘 ナイスネイチャ。
メジロの四天王、最初に盾を掴み取り、名を知らしめた
名優 メジロマックイーン。
太陽のような笑みがその名が如く。
太陽の走り屋 ダイタクヘリオス。
ライバルに続けと言わんばかりに世界の強豪を打ち破った
ランページ世代最後の大物 アグネスフローラ。
誰も知らぬとは言わせない、この勝利を胸に世界へと挑戦の旅路へとする
独裁暴君 メジロランページ。
これだけのメンバーが結集する事になっている。これ程迄のメンバーが集まる有馬記念も無いだろう、特にクラシック三冠とティアラ三冠が4人も集結するなんて後の歴史でも早々起こらない奇跡だろう。まだまだ有馬記念には時間があるというのに世間ではそちらにばかり注目が行ってしまっている、まあ国内最後のレースがそんな顔ぶれになるのだから分からなくもないのだが……。
「まあ私もジャパンカップを取れたのでランページさんのライバルという看板を気兼ねなく掲げられるようになった訳です」
「それは分かる、それ自体もマスゴミがぎゃあぎゃあ騒いでただけだけどな」
「そのジャパンカップの出走前にタキちゃんと電話で話してたんだけど是非話したいっていうから、お願いに来たんです」
「脈絡なさすぎんだろ……」
結局、妹のアグネスタキオンが会いたがっているから自分を連れて行きたいという所に帰結するらしい。まあ自分の立場だと家族の為にサインを強請られたり、自慢する為に写真を取らせて欲しいというのは沢山あったので応えるのも吝かではない、ではないのだが……その相手がアグネスタキオンという一点が極めて不安なのである。
「……お前の妹ねぇ……」
「ちょっとタキちゃんはいい子です!!ちょっと、好奇心旺盛で自由奔放で放っておくと何するか分からないだけです!!」
「それを世間一般だと問題児って言うと思うんですよ」
概ね、自分が想像しているウマ娘のタキオンと何ら変わらないという印象で間違ってないらしい。自分に興味があるというのも無敗で勝ち続けているから身体のデータを取りたい云々という事なのだろう……変な薬を飲まされるのはごめんなので絶対に行きたくはない。
「大丈夫です、タキちゃんはとても頭がいい子ですから変な事しませんって!!」
「信用がねぇんだよなぁ……まあ通話位なら考えてやる」
「え~……」
「結局俺に負けたって自分から言ってるんだ、この位で満足しとけ」
これでフローラがワールドレコードを出したのならばその要望にも素直に応じただろうが、自分から負けたことを認めている相手の言葉を素直に受けるつもりはない。
「というかこっちはこっちでチャンピオンズカップに向けて調整中だ、今その話を持ってこられても俺は応じんぞ」
「あっそっか……すいません浮かれてました」
「沈んでしまえ、地の底深くまで」
「だから酷くないですか私の扱い!?」
普段からこんな扱いをしているのだから好い加減慣れればいい、そしてそれが嫌ならば改善するつもりを見せればいい。
「まあ取り敢えず、俺はお前の妹に会う気はない。今のところはな」
「そんな~タキちゃんの頼みなのに~!!ジャパンカップの賞金いくらか出しますから~!!」
「要らんわンなもん、寧ろ余ってるわ」
そんなやり取りをしながらもランページは食堂を後にした。腹ごなしにと学園内をうろついていると三女神の像の前に到着していた、何気なくその像を見つめる。
「ダーレーアラビアン・バイアリーターク・ゴドルフィンバルブ……三大始祖、じゃなくて三女神か……アンタらから見たら俺はどういう存在なのかね」
ヒトソウル配合なウマ娘である自分は彼女らから見たらどう映るのだろうか、異端なのか、それとも許容出来るのか。それとも面白がっているからこそ自分の運命に細工でもしたのだろうか……細工するならするでせめて因子継承辺りに留めて欲しかった感はある、レジェンド連続遭遇は心臓に悪すぎる。
「俺はアンタらの内、誰に近いんだろうな」
意味もなく、そんな呟きを残して去ろうとした時―――耳にこんな言葉が聞こえて来た。
―――そりゃ十中八九、俺だろうね。
「……気のせいか?」
聞こえてきた声に首を傾げつつも歩き出した、そんな時に吹いた風は何処か笑うように愉快そうな音を奏でていた。