貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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173話

中京レース場、愛知県にあるこのレース場にはこの日多くの人達が押し寄せていた。この日行われるのはG1レース、チャンピオンズカップ。日本初のダート国際招待競走としての顔を持つ、ダートのジャパンカップ。だがダートというのもあってかジャパンカップに比べて客の入りは悪い筈なのに今年ばかりは違っていた。

 

『さあ此処、中京レース場で行われるメインレースがいよいよ開幕しようとしておりますがそれを前にして途轍もない賑わいが起こっております!!なんと入場規制が敷かれる程の大観客、18万人を超える人々がこの一戦を目に焼き付ける為に押し寄せております!!』

 

普段ならばあり得ない程の大盛況っぷりに関係者は言葉を失った事だろう。これもかの暴君の采配のお陰なのかと思うと有難くて拝みたくなってくる。そして何より、今年のチャンピオンズカップにはとんでもないビッグネームが参戦する。それと暴君との激突がどんな結果になるのかと誰もが気になっている。

 

『さあレディセイバーに続くのは―――去年のブリーダーズカップクラシックを制し、今年では3着の好走を見せたダートの世界王者、アンブライドルド!!2番人気です!!』

 

パドックに姿を見せたその姿を見た時、一瞬、世界から音が消えたように静寂が広まった。その全身から溢れ出す王者としての気迫と覇気、それとは裏腹に何処か人懐っこい笑みを浮かべているアンブライドルドからは発せられる不気味にも思える不思議な重力、これが世界を制したウマ娘なのかというのがひしひしと感じられる。それを見つめていたカノープスの面々も息を飲んだ。

 

「あれが―――アンブライドルド」

 

思わずターボがその名前を反芻する。彼女とて王者として称えられて追いかけられる立場、だが雰囲気が全く違う、これこそが本当の王者なのかという格の違いを思い知った気分になった。

 

「笑顔浮かべてるけど、それがまた不気味……」

「な、何だか怖い……」

 

ライスの言葉には皆が同意した。殺気にも似た圧倒的な覇気を発しているのに浮かべられた天真爛漫な笑み、その激しい落差に身震いをしてしまう。あの相手と、ランページは戦うんだ。その思いが導かれるようにランページとアンブライドルドは視線を交錯させていた。何方も笑みを浮かべながらも何処かピりついた空気を立ちこませながら……パドックでの第一ラウンドは終わりを告げた。何処か不穏な雰囲気を醸し出す―――

 

「ねえねえ、貴方が南の相手?此処であったが百年目って言うんでしょ日本だと」

「間違ってんぞ色々と」

 

と思っていたのだが、出走前、地下バ道を越えた直後にアンブライドルドに話しかけられたランページは余りにも気軽に話しかけられたので拍子抜けしてしまった。

 

「アハハッごめんごめん、日本語って面白いよね。色んな表現があってさ、南の母国語って言うから勉強してるんだけど手強いんだよねぇ~……」

「まあ日本に住んでる身としても分からねぇ言葉なんて幾らでもあるからな……」

「アハハッやっぱり面白い、南そっくりだね日本って」

 

人懐っこく爽やかな笑顔のまま語り掛けて来る世界王者、周囲のウマ娘達は自分達の会話にドキマギしているのか息を飲んでいる。同じようにアメリカからやって来たウマ娘であるテンポも平然とタメ口を使う自分に恐れ戦いているように見える。

 

「改めまして初めましてだねメジロランページ、アタシはアンブライドルド。これでも去年のブリーダーズカップクラシックウマ娘だよ、まあ今年は3着だったから世界王者から降りちゃったけど」

「んな事は関係ねぇよ、あんたは紛れもない世界王者だ。俺と同じな」

「―――へぇっそう言う事言ってくれるんだ、ちょっと嬉しいな」

 

その時、アンブライドルドの瞳が一瞬鋭くなると共に周囲の空気が一段冷たくなったようになった。彼女が纏っているカリスマとしてのオーラが一瞬が変貌した。敵意と闘志へと変換されて一気に襲い掛かって来た。

 

「南ちゃんからあんたの話は少ししか聞いてねぇけどな俺は、デビュー前に担当したって事は聞いたぜ」

「まあね、南はうちのお父さんと仲良くてその縁で見て貰ったんだよね―――私は今でもトレーナーは南だと思ってるよ」

「……へぇ」

 

その瞳に迷いも戸惑いも無い、アンブライドルドは本気でそう思っている。彼女にも今、確りとしたトレーナーはいる。だがそんなトレーナーよりも南坂の事を思い続けている。彼女にとってのオリジンは南坂、だがそれは自分にとっても同じ、何処まで似ているんだと苦笑する。

 

「生憎、今は俺のトレーナーだぜアンブライドルド。俺が口説き落としたトレーナーだ」

「フフッ私が居ない間に、でしょ?もし私が居たら絶対に口説けないもん」

「だろうな、NTRなんて大っ嫌いなんでね。だけどな、もしとかたらとかれば、そんな言葉に惑わされるような軟な人生は送ってねぇんだよこちとら」

 

二人を中心に嵐のような物が吹き荒れ始めていく、それを見つめるウマ娘達はその空気に呑まれまいと必死になる。

 

「寒くない、筈なのに震えが止まない……」

「武者震い……違う、分かってしまってるんだ……」

「フフッ……挑戦のし甲斐があるという物ですが、こればかりは……」

 

アメイジングダイナ、ナリタイーグル、レディセイバーはその震えの正体に直ぐに気付いた。そこにいるのは格上、そして自分達が何度でも挑戦して戦いを挑みたいと望む相手ではある―――が、今の自分では敵わないという事を身体が、脚が理解したが故に震えている。

 

『昨年の世界王者、アンブライドルドと日本の王者、メジロランページが早くも激突しております!!チャンピオンズカップ、一体どんな結末を迎えるのでしょうか!!?』

 

どのような結果になったとしても後悔はない、つもりだったが負ける気はない。あれだけの事を言われてしまったら現在進行中で契約をしているウマ娘として、シリーズを彼に預けた身としても絶対に負ける訳には行かない。だが一瞬それを忘れて手を出した、それをアンブライドルドは取って固く握手する。

 

「―――来な、世界最強。こちとら世界最速だ」

「―――望む所だよ世界最速、君よりも早く駆けてみせるから」

「ハッ上等だ……」

 

勝つ理由が一つ増えた。アンブライドルド、お前には負けたくなくなった。

 

『さあチャンピオンズカップ、間もなくゲートインです!!』




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