貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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174話

ファンファーレが高らかに鳴り響き、ゲートインが開始されていく。

 

『砂上の戦いを求める猛者が集まるダート王決定戦、チャンピオンズカップ!!今年のチャンピオンズカップはその名に相応しく、海外の王者が殴り込みをかけて来ました。昨年のダートの世界王者、アンブライドルドが来日し嘗てない程の賑わいを見せております。それを迎え撃つのは日本の精鋭、その筆頭が無敗の王者、驚異の二刀流、メジロランページ!!』

 

今回ばかりはレディセイバー達は自らに注目が集まらなくてもしょうがないと思っている、流石に格が違い過ぎる。彼女も天皇賞の一件で掲示板入りを果たしている為に3番人気だが、今回ばかりは少々重圧に感じられる。

 

『2番人気には8枠16番アンブライドルド、ブリーダーズカップクラシックを制した剛脚がチャンピオンズカップを席巻するのか!?』

『1番人気は無敗12冠ウマ娘、1枠1番メジロランページ!!此のチャンピオンズカップを制覇すれば芝砂国際競走勝利という偉業を達成しますが、どうなるのか!?』

『各ウマ娘、ゲートイン完了しました、今―――スタートしました!!』

 

勢いよくゲートが金属音を立てて開く。始まったチャンピオンズカップ、文字通りの頂点を決める戦いが始まった。最初に飛び出したのはやはりというべきかランページ、それに続くようにアメイジングダイナ、ナリタイーグル、レディセイバーが続いて行く。多くのウマ娘が前へ前へと出ようとするのはダートでは定石。

 

「今日のランページさん、気合入りまくりぃ!?」

「何時も以上に……!!」

 

『先頭はメジロランページ、気合が入った走りで既に独走状態です。そこから8バ身程でしょうか、離れた所には天皇賞(秋)で好走したレディセイバー、そしてアメイジングダイナ、ナリタイーグルと続いて行きます』

 

そんな言葉を思わず呟いてしまう程にランページの走りには力が入っていた。それ故か普段以上に飛ばしている、基本的に先行か逃げを取るレディ達ですら振り切るような加速を最初から行っている。何かを恐れている訳でもなければ待っている訳ではない、来い、早く来いと誘っているかのようだった。

 

「へぇっ……挑発、してくれるじゃん」

 

『そして大注目のアンブライドルドは最後方で様子を伺うかのように沈黙を保っております。しかし、メジロランページとの差は15バ身以上!!この差を覆す事が出来るのか!!?』

 

 

アンブライドルドの脚質は追い込み、ランページとは真逆の脚質。最後の最後まで力を蓄え、解き放つ事で一気にトップに立つ戦術を取る。

 

「でも、この差は幾らなんでも……」

「ええ……間もなく半分を過ぎますが、この辺りで少しは上がらないと難しいです」

 

ネイチャの言葉にイクノが同調する。幾ら追い込みとはいえこの辺りで仕掛けなければ間に合わない。しかも相手はランページだ、2400の距離を逃げ続けた末のワールドレコードを叩きだした世界に誇る事が出来る王者。そんな相手にこのままで勝てるのかと疑問の声を上げてしまった。

 

「出来るから、ブリーダーズカップクラシックを制して世界王者の称号を勝ち取ったのですよ。彼女は」

 

レースを見守り続けている南坂がその言葉を聞きながら思わずそんな言葉を呟いた。その言葉にカノープスの全員が振り向いた、南坂はアンブライドルドの事を知っている。彼女のレースはチェックした、そこから取られるデータである程度の実力は把握している―――彼女は此処から勝ちに行く。そんな確信がある。

 

 

向こう正面へと入っても未だにランページはトップを走り続けている、その圧倒的なペースはジャパンカップを彷彿とさせるような破滅的なペース。超ハイペースに流石のレディ達も驚きを隠せない。

 

「何てペースなんだ……!!」

「一息入れる、事も無く走り切る気なんだ……!!」

「こんなペースで、それが出来るというの……!?」

 

―――出来るからやってるんだよ、負けず嫌いな暴君様だ。

 

「「「っ!!?」」」

 

第3から第4コーナーの境目、そこで思わぬ声が聞こえて来た。三人が一斉に振り向くとそこには―――王者が居た。最後尾にいた筈のアンブライドルドが最ウチを突っ切る様にしながらも5番手にまで上がっていた。

 

『並んだぁ!?並んでる、並んでいる!!既に5番手にまで上がっているぞアンブライドルドォ!!どういう事なのか!?一体何時の間に此処まで上がって来たというのか、まるで魔法だ、これは魔法にしか見えなかったぁ!!!そしてそのまま、アンブライドルドが一気に三人を抜いて2番手、そしてそのまま一気にメジロランページへと迫っていくぞぉ!!!』

 

言葉も出ない程のあっという間の出来事だった。此処まで溜め続けた力を解き放った時、アンブライドルドは一気に加速しながらも最ウチのギリギリ、3cmも無いような位置取りのまま駆け抜けて来た、魔法という表現も強ち間違っていない、寧ろそうとしか思えないようなとんでもない走りを見せ付ける。第4コーナーが間もなく終わろうとした時―――世界王者の牙は暴君へと届こうとしていた。

 

『捉えられたぁ!!メジロランページ、アンブライドルドとの差は僅か2バ身!!このまま昨年の世界王者が意地を見せ付け、世界の壁を見せ付けるのか!?それとも日本の暴君が世界へとはばたく力を見せ付けるのか!?残り400mを通過して直線に入って坂を駆け上がる駆け上がる!!』

 

中京レース場の最後の坂、3.4mの起伏は中山、京都に次いで全場3位。中山には及ばないが阪神や東京より急な坂を駆け上がってなお、ゴールまでは200m余りあるというタフな設定がなされているレース場。一般的な話をすれば差しや追い込み型のウマ娘が活躍しやすい、だが―――

 

「随分と遅かったじゃねえか……」

「待っててくれてたんだ、嬉しいよ―――じゃあ」

「「勝負っ!!」」

 

アンブライドルドは一気に加速する、まだ残していた力を一気に解放してランページを一気に抜きに掛かった。この走りで自分は世界を掴んだのだと言わんばかりの堂々とした走りがランページへと迫っていく。リードは徐々に縮まっていき、遂にはランページと並び立った。そのまま抜きに掛かるかと思った所でアンブライドルドの加速が停止した。

 

「止まっ―――いや違う、まさか……!!」

 

加速が止まった訳ではない、走る相手が、並び立つウマ娘が自分と同じだけ加速しているのだ。

 

「舐めるなよ、俺がどんだけ走り込んだのかもしらねぇで、南ちゃんに何を教わったのかを、今見せてやらぁ……!!!」

 

瞳が輝く、血流が加速する、力が漲る、スイッチを入れる、連結していた全てを、更に密に、滑らかに、淀みなく動かして行く。踏み込んだ脚が砂を捉える。シンザン鉄、砂浜での走り込み、それを全て注ぎ込んだ一撃で連続で放つ。同時に―――アンブライドルドが放っていた闘気すら飲み込んで自分の力に変える。

 

「テメェが南ちゃんの何なのかなんて如何でもいい、だがな―――譲れねぇモンは譲れねぇなぁ!!」

 

亡き魂よ、共に暴れよう。

 

視界から彼女が消えた、いや違う、姿勢が低くなったのだ。そのまま駆け出した彼女は先程とまるで違う走りをしていた、なんなんだあの走りは。この坂を平地のように走っているじゃないか、坂を何とも思っていないのか、だが負ける訳には行かない、王者として南に教えを乞うた者として負ける訳には行かない!!

 

『メ、メジロランページ、メジロランページが再び此処で行ったぁ!!1バ身から2バ身、いやアンブライドルドも必死に喰らい付くぞ!!差を縮め返して行く、さあ坂を完全に越えたっ!?こ、此処でメジロランページが一気に伸びていく!!凄まじい走りだ、世界王者が如何したと言わんばかりの激走だメジロランページ!!アンブライドルドはもう苦しいか、世界王者を完全に過去にした!!メジロランページがダートの世界王者を捻じ伏せた、王者が完全に覚醒した!!日本の王者は世界の王者へと駆け上がる、これはその第一歩だぁぁぁ!!!!メジロランページ一着ぅぅ!!!』

 

ダートの世界王者を完全に抜き去っての一着、メジロランページの大勝利に18万人の大歓声が巻き起こって中京レース場が揺れ動く。

 

『これでG1勝利は13勝!!芝ダート国際競走勝利という大偉業を達成したぞメジロランページ!!そ、そしてタイムが1:46.1!!レコードタイムを叩きだしました!!!これが日本の王者、メジロランページだ!!このチャンピオンズカップでもレコードタイムを達成しました!!』

 

「―――如何だ世界最強」

「……アハハッ凄いね本当に、完敗だよ」

 

荒い息のまま、差し出された手を握り返した。勝敗は間違いなく時間の差なのだろうな、とアンブライドルドは理解した。自分よりも遥かにずっと長く南坂に指導を受けている彼女と自分では大きな差があるのだから……ある意味必然の勝敗だ。心から満足が行けるレースが出来た。




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RPG-7様から新しいランページを頂けました、有難う御座います!!

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