貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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177話

チャンピオンズカップという大舞台を終えたランページは次のレースに向けて身体を休めていた、1年前に比べて身体が鍛えられているせいかあと少しでジョギング程度ならば許可は出せる程には回復している。そんな彼女が今しているのは―――

 

「タンホイザ、気合入れてけ~!!」

「は~い!!」

 

他のメンバーの練習を見る事だった。レースの勘を忘れない為というのもあるが、カノープスは次のレースが近づいている。タンホイザが出走する朝日杯フューチュリティステークスである、此方はあと1週間に迫っている上に出走相手も強敵。何せあのミホノブルボンが出走するのだから。

 

「ターボ、タンホイザをじっくり揉んでやれ!!」

「おっ~任せろ~!!」

「タンホイザ、ターボに追い付ければブルボンにだって戦える筈だ、気合入れて走れ!!」

「分かった!!よ~しターボ、勝負だ!!」

「望む所だ~!」

 

トレセンの龍とも言われる黒沼トレーナーのハードトレーニングを行い続けているブルボン、しかも今年からは方針を変えているのか基礎もミッチリを鍛え込み始めている。カノープスの活躍に触発されたという事だろうか、黒沼にはランページの練習メニューを一部監督して貰っていたりもするのでそのノウハウを利用している可能性は大。ブルボンは史実以上に強敵である可能性は高い。

 

「タンホイザ、お前は脚質的にはステイヤー。マイルの舞台だと如何してもブルボンには劣る、だからこそマイルでの体力の使い方を身体にしみこませる必要がある事は承知してるな?」

「はい!!その為にターボとイクノにお願いして走り込んでるだもん!!」

「よく言った、イクノも頼むな」

「お任せください、チームメイトの為ですので幾らでも付き合います」

 

生憎自分はまだ南坂からの許可が下りていないので練習には参加できない、なので代理としてイクノにそれを頼んでいる。トリプルティアラと自分と覇を競い合い続けているイクノが相手、不足だという事はないだろう。

 

「それじゃあ行くよっ~!!」

「負けないぞ~!!」

「その意気ですタンホイザさん」

 

その傍らでネイチャとチケット相手に凄まじい集中力を見せながら練習に励んでいるウマ娘がいる、ライスであった。

 

「ライス、良い集中力だ。だから身体に力が入り過ぎた、少し抜いてみろ」

「う、うんやってみるねお姉様」

「う~ん……ホントに走ってる時とのギャップがやばいんだよなぁ……」

「別人ですもんね……」

 

一方のライスはホープフルステークスに出走を予定している。ライバルであるブルボンの力を一度体験してみるという事も考えたのだが、ライスはタンホイザ以上にステイヤー向き、故に無理にマイルをやらせるよりもG1の経験を積む事を優先させてホープフルステークスへの出走をする事が決定した。

 

「集中力は素晴らしいんだけどな……集中し過ぎてるのが不味いんだよな」

「え、えっと……どういう事?」

「言うなれば、ライスは前だけを見て走ってるって事だ。俺が言える義理じゃないがレースは周囲との駆け引きとかもあるだろ、周囲の策略とかに気付けなくなりやすいって事だ」

「そっか……それじゃあ、気を付ければいいんだね?」

「そゆこと」

 

ライスのスイッチはマークする分には良いだろうが、される側としては弱点が多い。クラシックを挑むに当たってはそこを上手く改善していけばどんどん伸びていく。無意識的にも周囲が分かる様になれば完璧と言ってもいい、いきなりは出来ないので集中のレベルを下げて周囲を把握することを勧める。

 

「ネイチャ、チケット。ライスをマークする感じでやってみてくれ」

「はいはいお任せ~寧ろそっちの方が得意だからね」

「は~い分かりました、ライス先輩!遠慮なく行きますからね!!」

「う、うん。ライスも頑張るからお願いね……?」

 

直向きに自分がやるべき事に臨んでいる二人、これは必ずいい結果を出す事だろう。指示を飛ばしていると隣に南坂がやって来る。

 

「良い指示を出しますね、引退後はトレーナーになりますか?」

「進路の一つとして考えとくわ、つっても糞難しいって聞くしなぁ……」

「言われる程の物ではありませんでしたよ?」

「いや、元FBIが言っても説得力ねぇから」

 

実際問題としてトレーナーに転向するウマ娘というのは殆どいない、トレーナーの試験が極めて難しいというのもあるが、矢張り自分が走るのとは全く違う世界である為に実りを付けられる者は殆どいない。名選手が必ずしも名監督になりうるという訳ではない。

 

「というか、ランページさんはどうするんですか?ドリームトロフィーリーグに行くつもりはあるんですか?」

「全然考えてねぇよ」

「だと思ってましたよ」

 

ドリームトロフィーリーグに興味がない、という訳ではないのだが……DTLは基本的に夏と冬にしか開催されない。年に二度しかレースで走らないというのがなんというか、これまでの自分としては想像出来ない。ジュニアクラスですら6レースを走っていた身として興味がそそられない。

 

「しかもドリームトロフィーリーグのダート版がない訳じゃん、全然そそられないわ」

「寧ろあれば出ると?」

「それが春と秋にあれば春夏秋冬で退屈せずに済むからな」

 

ケラケラと笑いながらもスポーツドリンクを飲んでいるランページを見つつも南坂はURAからの連絡を思い出していた。元々ランページが二刀流を始めた影響でダート人気が加速度的に増している所に今回のチャンピオンズカップを勝った事で日本のダート熱が更に高まっているらしく、ダートの三冠が設定される事が正式に決定、設立に向けて話が進んでいる事に加えてドリームトロフィーリーグのダート部門の設立も開始されたという話が来ていた。

 

「俺は唯、俺がやりたい事をするだけだぜ南ちゃん。一応、後に続く後輩たちも楽しめるように気を配ってるだけだ」

「一応ですか」

「自分が一番よ、他人優先なんて出来る程人格者じゃねぇからな」

 

確かに、愉快犯的にサーバーを落とすウマ娘は人格者とはとても言えないだろう。だが、その後の言葉を聞いて少しだけ感動してしまった。

 

「ダートの方が走れるのにダートは人気がない、つまらないから走りたくないって走れない芝を走らせる訳には行かないだろ。ダートも気兼ねなく楽しめるようにするのが役目だろ、本当はURAのバカ共の仕事だけど全然仕事しねぇから俺が重い腰を上げてやってんだよ」

「重い腰……?」

「応南ちゃん何処見てんだコラ」

「その御立派な足回りと腰ですかね」

「いやんまいっちんぐ♪」

「古いです」

「俺もやってて古って思ったわ、マルゼン姉さんと電話したせいだな」

 

なんだかんだ言いつつも彼女の言葉は正しい。確かに本来はURAが芝とダートの格差を無くす為に動くべきなのに何もせずにいる、ランページという存在が居たからこそ漸く重い腰を上げた。流石のURAも配信で突かれる前に何とかしようと思ったのかもしれない、彼女の配信を見ている者は全世界に居るのだから、彼女がうっかりURAの愚痴を言っただけでURAが大爆発しかねないから溜まったものではない。

 

実際に、彼女がとある出版社の事を口にしたらその出版社の雑誌が全く売れなくなった事があったので影響力がとんでもないのである。

 

「あっそうだ南ちゃん。今度配信でカノープス、スピカ、リギルのトレーナー対談みたいな事やるから出てくれよな」

「分かりました、空けておきますね」




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