12月というのは年末、ウマ娘にとっては特別な月でもある。その一年の総決算、最強のウマ娘を決める有馬記念があるというのもあるが、ジュニアクラスのウマ娘達にとってはクラシックを迎えるに当たって最後の追い込みを掛ける機会でもある。その筆頭と言われる二つのG1が阪神ジュベナイルフィリーズと朝日杯フューチュリティステークスである。
『さあ先頭を行くのはミホノブルボン、二番手にはマイネルレッド、三番手にはシップウマリーネ、四番手にはマチカネタンホイザ』
阪神ジュベナイルフィリーズから時間を置かずに行われた朝日杯フューチュリティステークスへと挑むタンホイザ、ジュべナイルではニシノフラワーが制しクラシックを引っ張るのは彼女とこのレースの勝者なのではないかと言われている。そんな期待の中で挑んだタンホイザ、ステイヤー気質であるタンホイザとしてマイルのこのレースはやりづらいかもしれないが―――
「よし、この辺りからぁ~!!」
『さあ800を通過しました、此処でマチカネタンホイザが上がって行く!!今年もやって来たカノープスの新星マチカネタンホイザ、ぐんぐんと順位を上げていく。シップウマリーネを抜きました!!』
スタミナに優れている彼女が取ったのはネイチャのロングスパートを真似て早めに仕掛けを行った。ぐんぐんとペースを上げていく彼女に周囲は焦りながらも無理に自分のペースを上げていくが、タンホイザはマチタンフォームがあるが故にそれが可能なのであっていきなり上げても対応しきれない。スタミナの一点に限ればイクノともそれなりにいい勝負をすると南坂が太鼓判を押すタンホイザは好き勝手にペースを上げて順位を上げていく。
「後は、ブルボンちゃんだけ!」
「マスターの指示通り、ですね」
先頭を走るのはミホノブルボン、トレセンの龍という異名を取る程のスパルタトレーナーの黒沼トレーナーに鍛えられたウマ娘である彼女。ランページの様な逃げを打ちながらもそのペースは極めて一定であり全く乱れていない、それはランページとよく走り込んでいるタンホイザも感じている事であった。
『さあラスト400を切る!先頭はミホノブルボン、そしてその1と半バ身という所にマチカネタンホイザ!!朝日杯フューチュリティステークスの勝敗はこの二人に絞られたか!?』
「ランさんとイクノさんが合体したみたい……!!」
今日までずっと走り込んできたが、ブルボンの走りは本当に凄い。逃げウマ娘の対策として大逃げウマ娘であるターボとイクノに併走相手をお願いして走って来たが、その二人とも違う走りをする。ランのような破滅的なペースではないがそれでもハイペースなのは変わりはない、それなのに全くペースが落ちる気配がない。ランの逃げにイクノのペースが合体したようだと感じてしまった。
「でも、此処からぁ!!」
ロングスパートを掛けていたが、それでもまだ力は残っている。これが最後の加速、これで追い抜けなければ勝利は厳しい、勝負の仕掛け所を間違えてはならない、その一瞬を絶対に見逃してはいけないと集中力を高める、そして直線に入り目の前に誰もいない広々としたコースを見た時にタンホイザは最後の加速を掛ける。
『さあ内からミホノブルボンが行くが、そうはさせるかとマチカネタンホイザが上がって来た!!また伸びて来た、カノープスの新星は矢張りただ者ではないのか!?後1バ身、そのまま抜く事が出来るのか!?さあ如何だ如何だ、行けるのか!?さあ200を切りましたっ―――こ、此処でミホノブルボンだ!!』
あと少し、半バ身差に迫った時にブルボンが加速した。これまで一定のペースを守り続けていた彼女がペースを速めて加速を試みた、その加速はタンホイザのそれを上回って差を縮める所か逆に差を広げていく。負けじと必死に食いしばるように走るが―――既にロングスパートを掛け続けていた彼女に再び加速しきるだけの力はない。
『ミホノブルボンが行くぞっマチカネタンホイザとの差を3バ身にしながら、そのままゴール!!!2着はマチカネタンホイザ、3着にシーディーマッハ。来年を引っ張るのはミホノブルボンなのか、またもや逃げウマ娘が時代を築き上げるのか!!無敗での朝日杯フューチュリティステークス制覇、3年連続で三冠ウマ娘の誕生に期待が寄せられます!!』
「ハァハァハァ……ブルボンちゃん、あんなに速いなんて……」
タンホイザは荒い息をしながらも前に居るブルボンを見据えるのだが、彼女は既に呼吸を整えているのか観客席に居たトレーナーに向けて礼儀正しく頭を下げていた。あれ程のハイペースを維持し続けて最後に加速する……それを間近で見たタンホイザは理解できていた。
「あれって、ターボの……ドッカンターボ……?」
「正確に言えば違うだろうがそれに近いだろうな……」
「同感です」
同じように観客席でタンホイザのレースを見守っていた南坂とランページは二人揃ってブルボンの走りを分析していた。フォームとしてはカノープスの全てを複合したタンホイザのマチタンフォームに近い物がある。
「一定のハイペースで逃げまくりながらも最後にターボのドッカンターボ宜しく爆発させてるな」
「ですね、最高のタイミングで解放するのと違いますがラストの追い込みとしては十分です」
「う~ん……正しく逃げて差すだな」
ハイペースを維持するというのはかなりきつい、だがブルボンはそれを黒沼のハードトレーニングでそれに耐えられるだけの身体を作り上げたのだろう。そしてとどめに最後の末脚の爆発、逃げウマ娘でこれをやられるとかなり厄介な事になる。
「黒沼さんが最近一周何秒で走れるかをかなり綿密に計測していたのは知っていましたが……これを身体に叩きこむ為のトレーニングだったわけですか……距離ごとに適切なペースを作っておいたということですね……」
「イクノとは別の意味で厄介だなおい……」
「フフッですね、これはこれで対策のし甲斐があるという物です」
何処か燃えている南坂に思わず肩を竦める。挑戦させる側だったが、今回ばかりはする立場になったからだろうか。燃えているのはタンホイザも同じ事。今回は負けたが次は絶対に勝つと闘志を燃やしている。
「まあマイルはタンホイザからしたら不得意な場だからな、本番は次だ」
「ですね。さて次はライスさん―――の前に、ランページさんの有馬記念ですね」
「だな。気合入れて走るとするよ」