貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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180話

遂に始まる、数々の勝負が行われたこの中山の地で。

 

今日という日を待ち焦がれた、その為に走ってきたと思うウマ娘達。

 

決着を着ける為、もう一度戦う為、約束を果たす為、夢を叶える為、走りたかった自分の為に。

 

それぞれの理由が今―――実現する。

 

『さあ場内にファンファーレが響き渡ります、今年の№1を決める有記念。各ウマ娘、次々と枠入りしていきます。それぞれが応援するファンの声援に背中を押されているかのようです。全員が真剣な面持ちでスタートの時を待ちます』

 

「遂に、遂に始まる……!!」

「ああ……この日をどれだけ待ち望んでいた事か」

 

観客席で思わず拳を握り込んでしまいながらも視線を釘付けにさせている、これから始まるレースは瞬きすら許されない至高のプライドのぶつかり合い、熱狂に時間が間もなく始まると思うと武者震いを抑えきれなくなってしまう。思わず、フェンスに置いた手に自然と力が籠り、フェンスを拉げさせていく。

 

「ブライアン、少しは落ち着け……気持ちは分からなくはないが」

 

姉であるハヤヒデが諫めるような声をかけるが、そんな言葉程度では収まらないのか彼女は視線を外そうとしない。無理はない、彼女にとってこのレースは本当に特別だ。憧れの存在にしてなりたいと思う目標、無敗の王者であるランページが走るのだ。熱狂的と言ってもいいファンである妹にとってはこれ程までに刺激的な時間はない。

 

「(まったく、嫉妬しますよ先輩)」

 

そんな思いをランページへと向けてしまう。臆病な妹は何時も自分の後ろをついて来ていた、能力こそあるがその臆病さ故に自主的に前に出られないから自分も一緒に踏み出していた。そんな妹からは憧れの目で見られていたのにそれを取られてしまったような気分、だが不思議と悔しさはない。何故ならば自分だってあの背中に憧れているのだから。そんな時に、遂に来た。

 

『さあスタートしました、G1有記念。出遅れはありません、流石選ばれた猛者たち、優駿であります!』

 

「真・ドッカンターボォ、ダァアアアアシュ!!」

「このメンバーで先頭争いとか、マァジテンアゲェ!!」

「爆逃げぇぇぇ!!」

「ハッ! やっぱりこうなるよなぁ!!」

 

開始された有記念。優駿達が駆け抜け始めた中から一気に抜け出す4つの影、予想通りの展開になったとボルテージが上昇。先頭を真っ先に取ったのは爆速ターボエンジンのツインターボ、スタートダッシュでの真・ドッカンターボを成功させて一気に抜け出していくが、それは今までの様な大成功とはいえずに背後に3つの影がピッタリと付いている。

 

『矢張りこのウマ娘が行きます、ツインターボが行きました!そしてダイタクヘリオス、メジロパーマー、メジロランページと続いて行きます!大逃げウマ娘が早くも先頭を奪い合う大接戦となりました。その背後にはイクノディクタスとアグネスフローラが少し離れてついております』

 

大逃げが4人いるというとんでもない状況が作り出すのはハイペースレース、そんな状況にも拘わらず着いて行けているのは破滅逃げやらを連発する怪物と覇を競い合い続けていた二人のウマ娘。その二人のペースを目安としながらも4~6バ身程度のところに固まってウマ娘達を伴いながらもそのまま正面へと入る。

 

『トリプルティアラのツインターボがペースを作ります、太陽の走り屋ダイタクヘリオス、大逃げステイヤーメジロパーマー、そしてターフの王者メジロランページ、メジロが並んで続いて行きます。そしてそこから少し離れて貴婦人イクノディクタス、日本の大華アグネスフローラ。その後方にメジロマックイーンとメジロライアン、ナイスネイチャとトウカイテイオーと二人のメジロと二人のダービーウマ娘が続きます』

 

大逃げの4人が作り出すハイペースレースの流れはこれまでもあってあろうハイペースとはまた違う緊張感を作り出している。何せ、何時誰が飛び出して新しくペースを作ったとしても可笑しくはない。その全員が開始から大逃げを打つ故に、全員が警戒心を募らせたままで駆ける。

 

『さあスタンド前を通過して第1コーナーへと入っていきます。トップは依然ツインターボ、そして2番手は変わりましてメジロパーマー、3番手にダイタクヘリオス。王者メジロランページは4番手のままです』

『彼女にとってこれまでの最長は2400。2500は初の距離ですからね、100mの距離しかないと言えばそうですがスパート勝負ではこの差は大きいです。其処を警戒して抑え気味になっているのかもしれませんね』

『そしてその後方にはイクノディクタスとアグネスフローラが続きます。虎視眈々と王者との戦いの時間を伺っているようにも見えます。そしておっとナイスネイチャが上がり始めて来たか、それに続くようにとメジロマックイーンとメジロライアン、トウカイテイオーも上がって行く。ロングスパートの準備が早くも開始か?』

 

「さぁって、そろそろかな」

 

まだまだ道のりはあるが、菊花賞の3000を逃げで走り切れているネイチャにとってはこの距離からのスパートは問題ない。少しずつ上がって行こうというのかギアを入れ始めていくが、それを防ぐかのようにマックイーンとライアン、そしてテイオーも上がり始めていく。

 

「流石にそう簡単にやらせてはくれないよね……というか、流石にバレバレか」

「貴方のスタミナには目を見張るものはありますわ、ですが長距離という舞台で負ける訳には行きませんわ」

「まあこの辺りって言うのは良い勘してると思うけどね―――ランを捉えるなら、ここら辺りで一気に行かないと……!!」

 

その中で姿勢を低くしながらも踏み込んでいくライアン。あの大逃げを捉えるにはそろそろ上がらないと厳しい、脚を溜めつつも上がって行くにはこの辺りが最適だとライアンがマックイーンを抜きながらも突き進んでいくのを更に追い抜くように一人の影が飛び出す。

 

『向こう正面に入りましたっ此処でトウカイテイオーが抜け出していく、トウカイテイオーが上がって行く!!メジロライアンを抜いていく、同じ三冠でも自分の方が上だと言わんばかりのタイミングで上がって行く!!』

 

「悪いねライアン、ランと勝負するのはこの僕だ!!」

 

テイオーは一気に駆け上がってイクノ達の後方へと着こうとしていく。今日という日を心待ちにしていたんだ、無敗の三冠を目指そうとしていた時から彼女はいたんだ。そして―――自分よりも先に、無敗の三冠という称号を手に入れたウマ娘、メジロランページ。デビュー前からずっと対戦したくてしたくて堪らなかった。

 

「(僕にとって、君は唯の目標じゃないんだよ)」

 

自分の夢を先に叶えたというだけではない、テイオーにとってはそれ以上の意味を持つ。尊敬するルドルフよりも強いという事を証明したから?ワールドレコードを達成したから?違うとは言い切れない……でも、自分はシニアに行く為には絶対に一度でいいから本気の舞台で彼女と戦わなければいけないと思った。そしてこの有記念が最初で最後の機会、正直言ってチャンピオンズカップが終わった後に出走するという言葉を聞いてこの上なく安堵していた。何せ彼女は以前言っていた。

 

 

―――今年一年はその為の下地を作る為だ。だから俺と戦うなら今年戦うのが一番だ。

 

 

そう、この一年間を彼女は完全に自分を鍛える為の時間だと割り切っていた。海外遠征を行う為の準備期間として……そして、このレースを最後に海外へと向かってしまう。故に此処しかチャンスはない、そして彼女は約束通りに出て来てくれた。本当に嬉しかった、だから全力で挑む、そして打倒する、真の王者はこのトウカイテイオーだと宣言する為に。

 

「小生っ意気ぃ!!」

「そうはさせませんわ!!」

「アタシらは眼中にないって事かな、それはちょっと聞き捨てならないんだよねぇ!!」

 

激戦の地となった中山、その中山にちらほらと雪が舞い降り始める。肌に突き刺さるような寒さがまた一段と厳しくなり始めていく、それを感じながらもレースは更に熱狂していく。伝説の有として語り継がれる事になるこの一戦―――その決着は、間もなく。




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