先頭で駆け抜け続けているターボ、このレースの先頭を開始からずっと駆け抜け続けている。そのペースは文字通りのハイペース、最初から最後まで全力が良いという思いのままに走りたいがままに走り続けている。
「(っ来た来た!!)」
走り抜けながらもターボは身体の中に溜まる力がもう直ぐ限界まで来るのを感じていた。自分にとっても2500というのは長丁場、オークスよりも長い距離だがこのレースに出たいという思いは誰にも負けていなかった。そんな彼女の精神的な漲りはトリプルティアラを掛けた秋華賞にも勝るものがあった。故に―――真・ドッカンターボの二段加速の訪れを図らずも早めていた。
『第3コーナーへと差し掛かるが未だに先頭は爆速ターボエンジンツインターボ!!このまま逃げ切る事は出来るか!?』
まだ第3コーナー、こんな所でドッカンターボを使ってしまっても自分は逃げ切れるのかと自分らしからぬ不安を抱いた。それは背後にいる海千山千のウマ娘がいるから。これまでのように大きく差を付けられている訳でもない、しかも此処は中山、ラストの急坂を越えられるのか、それだったらせめて坂道を超える為にこのターボは取っておいた方が……
「違う、そんなのターボじゃない!!」
きっとランページにこの事を聞いたら笑って頭を撫でて褒めてくれるだろう、思慮深くなって自分で使い方を考えるようになった。そう言う事だろう、だが同時にこういうだろう―――自分らしくするのが一番だと、ターボらしく走り抜けるのがいいと。後の事なんて知らない、自分は唯走りたいように走るだけ、なるようになるだけ。
ブーストゲージは輝きに満ちている、自分でも思っていた以上に脚が溜まっている事に驚いた。この脚ならもしかしたらという思いが自分の背中を押した、もしかしたらではない、もしではなく、形にする。……幻覚だろうか、SDのランページがブーストゲージに座って挑発するように『やってみせろよターボ、やりたいようにやっちまえ、何とでもなる筈だ』と言ってくれた気がした。
「ダリャアアアアアアア!!!!」
一気に加速する、真・ドッカンターボの二段階目が火を噴いた。後方のパーマーとヘリオスが思わず驚いたように目を大きくした。間近で初めて見たというのもあるが、まだ第3コーナーの入り口であるのにも拘らず勝負を仕掛けるという事に驚いていた。
『ツインターボが此処で勝負を仕掛けたぁ!?その名が如くの二段ブーストを掛けました!!差を生み出す、ツインターボが独走、3バ身から4バ身!!このまま逃げ切るつもりかツインターボ!!』
「溜まっちまったか」
「発動しちゃいましたか」
その事を思ったのはチームメイトのランページとイクノのみ。真・ドッカンターボはその性質上、最高のタイミングで発動しなければ効果は薄い。だからターボは使ったのだろうが……これこそがオークスでランページが危惧していた事態その物。
「おいパーマーにヘリちゃん、驚いてたらぶち抜くぜ?」
「あっと危ない!ぬかせないからね!!」
「アハッ何あれマジ卍じゃね!?ウチもやりてぇ~!!」
声を掛けられた二人は正気に戻ったかのように走りに集中するが、大逃げウマ娘としてのターボのあの急加速は憧れる。それ程までに魅力的に映るのだ、今のターボは。だがその魅力も諸刃の刃である事には変わりない、矢張りまだまだ発展途上、だが大きくなることは間違いない。ランページはターボの走りを見ながらも思った。
「ターボ、お前は絶対に強くなれるぜ。何せ―――お前は俺達ですら憧れを抱かせるウマ娘だからな」
夢を見せるウマ娘、その走りに夢を映し憧れを持つ。自分に憧れるエアグルーヴがそうであったように、きっとターボに憧れる者は絶対に現れる。だからこそ―――自分は走ろう、先輩として、次の世代を更なる高みへと連れて行く為に。
『ツインターボがいく、ツインターボが、ツインターボが間もなく第4コーナーへと差し掛かる所、おっと後ろからトウカイテイオーも上がっていやメジロマックイーンとライアン、ナイスネイチャも来た!!さあいよいよ勝負どころが来たのか、ツインターボの走りが起爆剤となったか有馬記念!!次々と上がって行く!』
後方からもテイオー達が上がって来る、このレースの終わりも見え始めてくる中でランページは冷静に自分のペースのままで走り続けていた。それを見続けて何処か不気味さを感じていたのはその背後に居たイクノとフローラであった。幻惑逃げを仕掛ける訳でもなければペース変化を活かしてオーバースピードを狙っている訳でもない。
「捉えたよ、ラン!!」
その時に、ランページはギアを漸く引き上げた。それまで4番手に居続けた王者が漸く重い腰を持ち上げた瞬間だった。
「逃がさないよ、クフッ……貴方を捕まえるのは私だからね!!」
「それは私も同じです、それに時間を言えば私の方が上です」
ランページが遂に動き出そうとした瞬間に同時にフローラもイクノも上がって行く。テイオーはランページと勝負をしたがっている、だがそれを簡単にさせる程自分達の時間だって軽かったわけではない。戦いたいと思う気持ちならば自分達の方が上だ言わんばかりに駆け抜けるランページへと続いて行く。
「アタシだって!!」
「テンアゲって行っちゃうよ~!!」
『遂に王者が動き始めた!!今、ツインターボが、ツインターボが第4コーナーへと入った所でメジロランページが一気に上がって行った!!それに続くかのようにイクノディクタス、アグネスフローラ、トウカイテイオーも続いて行く、いやメジロパーマーもダイタクヘリオスもだ!!後方からはメジロマックイーンとライアン、ナイスネイチャも来ている!!』
これまで唯の大逃げを打ち続けて来たランページ、破滅逃げでもないそのペースで溜め続けた脚で大地を疾駆する。目指すはただ一つ、先頭のみ。流石に早く出し過ぎてしまった真・ドッカンターボ、最高のスピードを維持し続ける事も難しくなり徐々にだが減速し始めているターボをあっという間に捉える。
「ハァハァハァ……負けない、もんんん!!」
「こっちの台詞だ!!」
『さあメジロランページがツインターボを抜きに掛かる、流石にブーストを維持しきれないか、メジロランページがツインターボを抜いた!!ツインターボの先頭は此処で終わりか!!後ろからはトウカイテイオーが迫る!!今年の無敗の三冠が一気に迫って来る、そのまま抜きに掛かるのか、自分こそが真の無敗の三冠だと挑戦状を叩きつけに掛かる!!』
テイオーの走法は変化していた。ランページの走りを研究した末に修得した全身を連結した走り、それで一気に駆け上がっていく。その走りはイクノも認めるしかない程にあの走法だった。
『メジロランページへの挑戦者はトウカイテイオーか、いやまだツインターボも粘る粘る!!トリプルティアラの意地を見せております!だが同時に同じくメジロの三冠、ライアンも迫る!!マックイーンも来た!アグネスフローラも負けてはいない!!イクノディクタスも参戦!!』
激しい競り合いの中で遂に中山レース場の最大の山場である急坂へと入った。最大の急坂に入って全員が思わず息が詰まりそうになる中でランページはそんな坂を寧ろ加速するような勢いのまま駆け上がっていく。
「ボクだってぇぇぇ!!!」
同じ走りなんだ、それならボクにだって出来る筈だ!!それを証明してみせると言わんばかりにテイオーは叫びながらも駆け上がる、以前よりもずっと早く力強い走りは登るのも楽だった。だが―――同じ挑戦者であるライアンやマックイーン、フローラにイクノを振り切れない、それ所か……息も絶え絶えで今にも倒れそうなターボを抜き去る事も出来ずにいる。
「ランを、行かせてたまるかぁぁぁぁ!!!」
ライアンの叫びが木霊する、一段と力強くなった走りで一番に抜け出していく。
「あの人と、走る為にジャパンカップで勝ってんだぁぁぁぁ!!!」
「此処で勝負しなくて、何時するのか!!」
「私だって、負ける訳には行きませんわぁ!!!」
フローラが行く、イクノが行く、マックイーンが行く。自分を置き去りにして走り抜けていく。全力で走っているのにそれを踏み越えて彼女らが行く、それに信じられずに更に力を込めて走る。目標だった背中は坂を登り続けていく、自分を置き去りにして。
「如何して、如何して―――ランページィィィィ!!!!」
「うあああああああああ!!!!」
叫びを打ち消すかのような声が隣から響いた。そしてその声は次第に自分よりも前に出ていた。
「テイオーの、テイオーの、ライバルは……ターボだぁぁぁぁ!!!!」
ターボが最後の最後の力を振り絞った、叫びを上げながらも坂を駆け上がっていく。ほんのハナ差程度を追い抜いた位しかなかった。きっとそれも長続きしない、だがターボはテイオーの全力の走りを僅かな間でも上回ってみせた。そして自分に突き付けていた、テイオーのライバルは自分だろう!!?
「こんのぉぉぉぉっ!!!」
背後から響いてくるネイチャの声、それでテイオーは気付いた、前を見過ぎて足元が疎かになっていたことを。そして、この時からこそ本当のテイオーの成長が開始される事となる。
『さあ残り100m!!先頭はメジロランページ、このまま逃げ切りか?!それともメジロの三冠ライアンが差し切るか!?名優マックイーンか!?それとも今度こそ貴婦人イクノディクタス、大華アグネスフローラがこの王者に敗北を突き付けるのか!!?もうスタンドは総立ち状態!!』
誰がこんな展開を予想しただろうか、此処まで激しさを極めるなど思いもしなかった事だろう。もうこの機会を逃したら来年は彼女と戦えないかもしれない、そう思うと自然と力が沸き上がるのだ、この瞬間を後悔して堪るか。その思いが強い物こそが勝つ。
「ラァァァアアアアアンペエエエエジィ!!!」
その思いが強いのは矢張りフローラか、此処まで敗北を積み重ね続けて来た彼女が一歩一歩と迫っていく。もう間もなく届く、並び立てる、漸く同じ場所に立てる!そう思った時に、自分よりも先に迫った影があった。ランページの力を最も知っているのはフローラでもイクノでもない―――
『ライアンだぁぁぁ!!メジロライアンがメジロライアンが、メジロランページに並び立ったぁぁ!!クラシック三冠とトリプルティアラを共に飾ったこの二人だ!!』
「「勝負だぁぁぁぁぁ!!!!」」
二人は分かっている、互いが互いの力を最も熟知している。そんな二人が駆け抜けていく、それぞれがお互いの力を増幅させているかのように伸びていく。フローラもイクノもマックイーンも振り切るかのように伸びていく。このレースの決着は二人に絞られた。
『メジロランページだぁぁぁい、いやライアンが差し返す!!なんという底力だ、このままライアンが行くのか!?行けるのかいやまたランページも伸びてきたそのままそのまま行けるのか!?有馬記念を制するのはどっちなんだ!?大接戦のまま、今ゴォォオオオオオル!!!どっちだどっちが先に行ったんだ!?勝利の栄冠を手にしたのは何方なんだ!!?3着にはアグネスフローラ!!4着にイクノディクタス、5着にはメジロマックイーン!!』
「「がぁっ……!!」」
互いに、自分の全てを出し切った。ゴール板を駆け抜けて少しの間、二人は走り続け、限界を越えた所で漸く脚を止めた。膝を付くように座り込むライアンと倒れこむランページ。死力を尽くし切った激走の大混戦、何方が勝ったのか、ダービーのような同着だったとしても可笑しくないと言える程。二人は暫しの間何も考える事も出来ずに呼吸をし続けていた。
「「ハァハァハァ……」」
疲れ切った呼吸のまま、互いの視線は交錯しつつも何処か呆れたようでありながらも称えるような瞳を送る。そして遂に決着は明らかとなった。そこにあったのは―――
『確定しました、第36回有馬記念を制したのはメジロ―――ランページ!!!メジロでもランページです!!無敗の王者が、遂に有馬を制し日本のウマ娘の頂点へと立ったぁぁぁぁ!!メジロライアンとの差はなんと2センチ!!2センチ差で勝利をもぎ取ったぁぁぁぁ!!!』
「ハ、ハハハッ……やっぱり強いなぁランは……」
「よく言うぜ……お前だって、凄かったぜライアン……」
疲れ切った表情のまま、互いを称賛する。そして立ち上がるのに手を貸して立ち上がる。その時に実況が更に大声を張り上げた。
『そしてタイムは―――2:28.7!!この中山の舞台で、有馬の舞台でワールドレコードを達成したぞメジロランページィィィ!!!国内最後の舞台で世界に轟く記録をまた一つ達成しました!!世界の王者としての名声をまた一つ築き上げました、そしてこの錦を纏い彼女は世界へと羽ばたきます!!!』
「ホント―――ランって凄いよ」
「褒めるなよ、お前のお陰だよ」
「ううん、ランの力だよ。ランの強さはアタシが知ってる、頑張ってよ海外でも」
「応!!」
この有馬は紛れもない伝説となった。
現在のワールドレコードはルックトゥワイスが2019年の目黒記念で達成した2分28秒2。東京競馬場での記録になりますが、更に上がいます。
世界的に見ると2500というのはかなり少ないらしく、他にはオーストラリアやフランス位でしかないとの事です。
現在活動報告にて皆様からのご意見を募集中です。
詳しくは↓のURLからお願いします。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=294978&uid=11127