ドバイ行きも迫る中、ランページは特に目立った特訓などはしていない。カノープスは基礎を重視するのもあってか日常的に行うものを淡々とこなすだけ、ランページの場合は特注のシンザン鉄をマスクをつけた状態で坂路を走る。他から見ればとんでもない位のトレーニングだが、慣れとは訪れる物でこの重い蹄鉄にもマスクによる心肺強化にも慣れている自分が居る、過去の自分が見たら嘘だろ……というのが目に見える。
「気付けばシンザン鉄マスク付きで坂路を駆けるのが当たり前になってしまったな……トレセンの龍の事言えねぇなこれじゃ」
ブルボンはブルボンで自分のメニューの監修をした黒沼トレーナーによって手直しされた基礎メニュー中心の練習を積み続けているらしい、しかもシンザン鉄も導入済みだとか……ブルボンにシンザン鉄、一体どうなってしまうのだろうか……今年のクラシック戦線は史実以上に荒れる事は確実だろう。そんな事を考えていると何やら練習場が騒がしくなってきた、取材に来ている報道陣が妙に大騒ぎをしている。
「うるせぇな……ちょっと注意してくるか」
取材に来るのはいいがマナーぐらい守れと言いたい、自分達の取材によって此方がペースを乱されたらそっちも迷惑する事が分かっていないのだろうか……自分の配信でそのことに触れて大いにマスコミ界を大炎上させてやろうかな、と考えながらも其方へと向かう。
「おいさっきからうるせぇんだよ、テメェらが思うよりこっちは健康なんだ少しはマナー守りやがれコノヤロー。でないと俺の配信である事無い事ぶちまけて大炎上引き起こすぞ」
それによってうるさかったマスコミ達が一斉に沈静化した。最早、ウマ娘のG1レース中継並かそれ以上の視聴者が居るランページの配信。その内容はその日の間処か配信中にネットニュースになって流される、そしてそれを多くの人達が見る。何せ、レジェンドウマ娘が頻繁に出没する化物チャンネルなのだから……最近は任天堂からの案件配信だっただろうか……。
「んで何で騒がしかったのやら……」
「はぁ~いランちゃん♪」
「あれま、スーちゃんじゃないの。どったのこんな所で」
そう、マスコミが騒いでいたのはスーちゃんことスピードシンボリ御大がいたからである。ウマ娘界の重鎮であるシンボリ家、その中でも特に力のある存在としてURAにも深くかかわっているウマ娘が居るのだからそりゃ騒がしくもなるかと納得する。そんなレジェンドをスーちゃん呼びしつつもお互いに楽しそうに手を合わせる、完全に孫と祖母の光景、これも本当の孫がやってくれない弊害である。
「やっと調整が付いたのよ、全く久しぶりに張り切っちゃったから肩が凝っちゃったわね。後で肩揉んで貰えないかしら?」
「どうせならシリウスにお願いしたら?」
「あらいいわねそれ、やだランちゃんってば天才~♪」
「ヤダ俺ってば天才~♪」
「っ!!?な、なんだこの悪寒は……!?」
「まあ本当のことを言うとね―――」
「ちょっち待って、そこにいる連中に聞かれていいん?」
と指を指す先にはマスコミ、一応自分のお気に入り出版社が大部分だがそれでも聞かれていい事なのかは確認しておかなければならない。流石はお気に入りだけあって、カメラを納め始めたりしているのだがそれを止める。
「大丈夫よ、どうせ公になる事だから」
「そなの?」
「ええ、だって予定が付いたから見に来たのよ。貴方の練習を」
「―――あ~そゆこと」
「そゆ事」
其れでは全く分からないと苦い顔を作っているのを見るとランページはマスコミの前に躍り出るといつもの調子で声を出しながらも発表を行う。
「さてさて皆々様、既にご存じかと思われますが私ことメジロランページは間もなく海外遠征を行います。ですが最愛のパートナー、南ちゃんにはカノープスの面倒を見るという大切な役目がございます。幾ら暴君やら独裁者と言われても大切なチームメイトたちのトゥインクルシリーズを邪魔してまでしようとまでは思いません、そこでトレーナーの代理を立てる事となりました」
その話を即座にレコーダーを回したりメモを取り始める、それを聞きつつも納得。それに海外挑戦するウマ娘に代理として別のトレーナーが付くというのは珍しい事ではなく海外でも取られる手法。なのでランページにもトレーナー代理が付くのも納得である、だがその人選に納得が行くかは別問題。彼女は今や日本という国を代表するウマ娘になってしまった、そんな者の代理を一般トレーナーに務めさせるわけにはいかない。
考え着くのはリギルの東条トレーナーやスピカの沖野トレーナーだが、彼らだってお抱えのチームがあるので海外に行けるわけがない。では一体誰が……と思った時、極めて自然にスピードシンボリの腰に手を回して抱き寄せ、抱き寄せられた当人は嬉しそうにしながらもランページに抱き着いた。
「っつう訳でトレーナー代理を引き受けてくれたスーちゃんです♪」
「引き受けたスーちゃんです♪」
『ええええええっっ!!?』
まさかすぎる宣言、そしてある意味最強のトレーナー代理。凱旋門賞に挑戦した数少ない日本ウマ娘の一人にしてシンボリ家の重鎮のスピードシンボリ、彼女が供をすることに文句を言える人物なんてそうは言えない。
「し、しかしスピードシンボリさんはトレーナー資格を―――」
「あらっ持ってるわよ?はいこれ」
そう言いながらも懐の高級そうな財布から取り出したのは紛れもないトレーナーの資格証とトレーナーバッチ。一体何時の間に取ったんだ……といいたくなったのを察したかのように語り出した。
「取ったのは随分昔の事よ、シリウスが海外挑戦するっていうから一緒に行ってあげようと思って受験したのよ。でもあの子がこれが自分の挑戦だから甘える訳には行かないって断られちゃったけどね……取っておいて正解だったわね、こうやってアーちゃんの孫の付き添いが出来るんだから♪」
「その為に練習見に来てくれたって訳ね、んじゃまず知っといて貰おうかな?」
重すぎる音を立てながらも振り下ろされた右脚、単純に強く踏み込んだという訳でもない。唯脚を重量に任せて落としただけの事、それだけでこの音を立てる。それを聞いた者達が息を呑む中でスピードシンボリだけが何処か不敵で楽し気、そして炎を瞳の中に映していた。
「俺がやってる練習メニュー、数年かけて築き上げた物の重さをな」
「見せて貰うわよ、貴方が海外で通用する意味を」
二人は笑い合いながらもコースへと向かって行った、マスコミ達はそれ以上追いかけなかった。此処からは彼女らの世界だ、深入りする事は許されない。自分達がしていいのは……この高揚感を伝える事だ。
誘導式白羽の矢がシリウスに放たれる。
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