「ハッハッハッハッ!!」
早朝、まだ日も完全に登り切っていない朝早くにウマ娘走行レーンを駆ける姿があった。レーンを駆けるのはトウカイテイオー、昨年の無敗の三冠ウマ娘。そんな彼女は休養期間が終わってから毎日早朝の走り込みを行っていた。
「う~ん……なんか違うんだよなぁ……ランページのはもっとこう、全身がガッチリ一つになってた感じなのに……何が違うんだろ?」
長距離レースに向けてのスタミナづくりというのもあるが、打倒ランページの為に研究していた彼女の走りの更なるパワーアップ。全身を一つにして疾駆する走法はテイオーのステップの泣き所、膝への負荷を大幅に軽減させてくれる上に走りのレベルを上げる正しく求めていた物。トレーナーと見つけた時は本当に大はしゃぎだった。
本格的にその走法を始めた秋華賞からのレースを徹底的に研究して、その走法を身体に叩きこんだ。そして出来るようになった、沖野からは乾いた笑いを向けられた。確かに焚きつけはしたが、此処まで出来るとは思っていなかったらしい。だからこそ、その元祖というべきランページに負けた自分がすべき事とはその走法の強化なのだ。
「やっぱり一回聞くべきかなぁ……でも自分でやれる事はやった方が良いし……」
自分の走りはランページの走りの真似事の域を出ないレベルでしかない、完全な下位互換。この先のレベルアップには如何してもランページに直接指導を受けるか話を聞くしかないのだが……間もなく彼女は海外に行ってしまう……そのためにスピードシンボリと練習をしている彼女の邪魔は出来ないとテイオーは自分の力で何とかしなければと頑張っている。
「ン、何やってんだお前」
「えっランページ!?」
突然声を掛けられたと思った先に目を向けると、そこには青い車に寄り掛かるようにしながら水を飲んでいる件のウマ娘、ランページがいた。汗だらけになったマスクを外しながらも新しい物を取り出そうとしている彼女に思わずテイオーは駆け寄った。
「ランこそ何やってんの?」
「お前と同じ朝練に決まってんだろ、じゃなきゃこんな時間に居る訳ねぇだろ」
「ああまあ、そっか……」
曰く、夏休みの合宿でシンザンとやったメニューを自主練にして朝早くに起きて走っているらしい、そのメニューはシンザン鉄とマスクを付けた上での山登りである。それを聞いてテイオーは思わずワケワカンナイヨー!!という甲高い声を上げてしまった。此処が山の駐車場だからよかった物の普通ならば苦情物である。
「俺の走りの特訓って所か」
「えっ何で分かるの!?」
「有馬でのあれはまだまだだったからな、それを仕上げてシニアでも戦い抜こうってのは見え見えだぜ」
「あちゃ~……それじゃあもしかして……」
「聞きたいんだろ、如何やるのか」
「……うん」
控えめな声でテイオーは頷いた。意地を張ってもしょうがないと観念したようでもあった。年度代表ウマ娘の授賞式でもテイオーは聞こうとは思っていたのだが……ドバイに向けての追い込みをしたいという理由で授賞式はランページは欠席していた。その代わりの記念配信を近々する予定、尚、また勝負服を送られたのだが……まだ見ていない。
「教えてやりたいのは山々なんだけどな……俺の一存じゃ無理だ」
「何で!?教えてよ~僕の師匠になってよ~!!」
「お前はターボか……あいつと似たような事言いやがって……単純な話だ、あの走りはモンスニーさんに教えて貰ったもんだからあの人の許可がないと俺も無理だ」
「ピェッ!?モンスニーってあの怖いメジロのウマ娘!?」
「怖いってお前……まあ大体合ってるが」
まあ確かに雰囲気は怖めだし顔もどちらかと言ったら厳つい方に入るので怖いウマ娘と言ったらその通りだろう。当人にこの事を言ったら確実に凹むだろうが……。
「俺が仲介してやってもいいんだが……モンスニーさんが教えてくれるかどうか保証出来んな」
「ランが教えてくれればいいじゃん~!!」
「あほたれ、俺はもう直ぐドバイに行くんだぞ。時間がねぇよ」
「あっそっか……」
それじゃあモンスニーにお願いするしかないのかなぁ……と溜息を漏らすテイオー。その姿を見るランページはある事を想いながらも、シガーを銜えて煙を吐く。
「どうしてもって言うなら俺が頼んでやってもいいぜ」
「ホント!?」
「ああマジだ、その代わり―――あの人はキツいぜ~その覚悟はあるか?」
「あるっ!!」
即答且つ真っ直ぐと自分の瞳を見つめ返してくるテイオー、淀みも揺らぎも無い綺麗な瞳にランページは思わず魅入る。
「ボクは君に負けた、でも負けて凄い物を貰えた。ボクはもっともっと、走っていける。その為にならボクは今の何倍だって努力して見せるよ、そして―――何時か君に勝ってみせる」
「良い啖呵だなテイオー、お前も何れ海外に挑め。名実ともに皇帝を越える帝王になる為にな」
それを聞いた瞬間、これまで感じた事ない程の武者震いをしてしまった。自分が憧れの会長を、シンボリルドルフを越える……何処か漠然と目標というか、絵空事でしかなかった言葉が今では間近に思えている自分がいる。
「お前は確実に皇帝を越えられる、無敗の三冠になってお前は会長に並んだ。なら次は越える事を目標にすりゃいい、その為なら力を貸してやる。如何だ?」
「ボクが会長を越える……」
テイオーにとってルドルフは絶対的な存在だった。心の中に常にあった夢その物、今、自分はその夢と肩を並べられるところまで来ているのだとランページの言葉でそれを自覚する。皇帝を越えた帝王……それになりたいと心の奥底からの欲求が沸き上がって来るのを感じた。
「越えたい、いやボクは越える!!カイチョーを越えてみせる、それでボクが帝王だって知らしめる!!」
「良い答えだ。モンスニーさんには話を通しておく、そっからはお前次第だけどな」
「頑張る!!」
それを聞くとランページは酷く安心したように煙を吐いた、心の落ち着けるハーブシガー、この時程美味い瞬間も無かった。
「頑張れよテイオー」
「頑張って来てねラン!!」
二人は手を打ち鳴らした、そして―――遂に、ランページは世界へと飛び出す。