「おっ今日はちゃんと食っとるなぁ~?」
「あれだけ言われましたからね」
「それだけの身体ですもんね、確り食べないと」
「ああ、私みたいにな」
「お前は食べ過ぎや」
食事をしていると、そこへタマ、オグリ、クリークの三人が声を掛けながらも席に着いて来た。あれ以降、ちょくちょく食事を一緒にするようになっていた。
「はい、私のおすすめですよ」
「ああどうも」
「私はこのサラダを」
「ああいやもう十分食ってるんですけど……」
「何言うとんねん、デビュー近いんやからもっと食って力を付けるんや」
そう言いながらも自分のアジフライを一つ置くタマ、彼女らのお陰でランページの少食はかなり改善されている。それでも三人はもっと食え食えと自分達のおすすめを渡してきてくれる、恐らく可愛がってくれているつもりなのだろう。
「それでデビュー戦は何時なんだ?」
「6月を予定してますね」
「6月か~……よっしゃ、日にちによっては応援に行ったるわ」
「でも、6月には宝塚記念が」
「そんなん気にせんでええって」
味噌汁を啜りながらもタマモは決定と言う。G1レースの宝塚記念に既に出走が決まっているのに其方を優先せずに自分の応援に来てくれるというのだろうか、それはそれで嬉しい気もするが、それなら普通に自分の調整に当ててくれた方がいいと思うのだが……
「気にしないで良いですよ、休養日がその日に当たる様に此方で調整できますから~」
「クリークさん、いえでもなんか悪いんですけど」
「気にしなくていい。私達がそうしたいからそうするんだけだ」
「せや、だから自分は気にしないで集中してればええねん」
これ以上は意見は聞かないと言わんばかりのタマにランページも諦めたように言葉を引っ込めた。
「まあ先輩方が良いならこれ以上言いませんけどね、と言うか言った所で聞かないんでしょ」
「ハッよく分かっとるやないか」
「ウフフフッ物分かりが良いですね♪」
「だから、何で頭撫でるんすかね……」
事あるごとに頭をクリークに撫でられるランページ。クリークも理由は分からないらしいが、どうにもこうしてあげたいという何かに駆られてそうしているらしい。悪い気分はしないが、どうにも子ども扱いされている気がして落ち着かない。
「そう言えばランページ、自分なんかスーツ姿で出掛けたらしいな」
「なんで知ってるんすか」
「話題になっとったで、トレセン学園で見た事も無い大人のトレーナーが居るって」
「うっわ……」
如何やら新入生が自分がスーツ姿で外出した自分を見た時に、同じ学生とは思わずにトレーナーだと思われたらしい。それで現在新入生を中心に中等部ではその話題で持ちきりになっているらしい。それを聞いて思わず頭を抱えてしまった、女物の服を嫌ってスーツを着た結果がこれかと。
「ウチらも聞かれたけど、そんなトレーナー居ったか?って首傾げてしもうたわ」
「ああ、六平にも聞いたけどそんなトレーナーいないぞって言われた」
「私も同じでした、そしたらアイネスちゃんがそれってもしかしてって」
「なんてこった……」
第一候補として、上げられたのがリギルの東条トレーナーだったのだがその日は理事長と共に行動していたのでそれは無いと言われた結果、色々と尾ひれがついてしまった。
「なんでスーツなんかで出掛けてんねん…と言うか、何でスーツ持っとんねん」
「……ちゃんと着れる身長になったんで、着たかったんですよ」
「プレゼントされた、とかなのか?」
「いえ、勝手に着ただけです―――父さんのスーツなんですよあれ」
そう、ランページが来たスーツは父親の物。彼女の下に残された数少ない両親との繋がりの一つ、大半は叔父と叔母が持って行ってしまったが僅かに残ったものも存在はしている。その一つが父のスーツだった、ヒトソウルには会社勤めだった記憶もあったのでスーツを着る事に抵抗はない、というか寧ろ落ち着きすら感じていた。それは父と共に居るという事を感じているのもあった。
「まあお父様の、それじゃあきっとお喜びになってますね♪」
「普通娘は父親の服を嫌がる物やからな、着るなんて嬉しく思うかもしれんな」
「確かにな」
「ええ、多分喜んでますよ」
そんな時、時計を見て思った以上に時間が経ってしまった事に気付いたのかランページは食器を持って席を立った。三人に頭を下げて去っていくを見送りながらも今度のレースは負けないと闘志を燃やすタマモに対して望む所と返すオグリ、それを見ながらも笑みを零すクリーク。が、そんな時に思わずタマが声を上げた。
「んっ?ちょっと待てや」
「如何したんだタマ、ランに何か用事か?」
「そうやない、なんか可笑しくなかったかさっきの話」
「何がですか?」
「そもそも、なんでランは親父さんのスーツを持ってたんや。このトレセン学園にまで、しかも何で着たんや?」
「「言われてみたら……」」
確かに可笑しい。仮にこれが送ったのが母親ならまだ分かる話だった、娘が大舞台に立つときの為にスーツを送りましたと言うのならばまだ理解出来るのだが……ランのスーツは父親の物。それを持って来た上に何で着たのか、それが今更ながらに引っかかってしまった。そして同時にタマはランページの少食を思い出した。
「(あいつ、前に此処でなんて言うとった?家が裕福じゃなかった、これでもご馳走……しかも、バイトしてたってのも聞いたな。トレセンに入る前からって……それで親父さんのスーツ……)まさか、あいつ……」
「如何したんだタマ?」
「何か思い当たるんですか?」
「……オグリ、クリーク。絶対にあいつの応援行くで、あいつを一人になんかしちゃいけへん」
その言葉に一瞬、二人は呆気に取られるが鬼気迫るタマの言葉に即座に頷いた。彼女は冗談でそんな事は言わない、きっと何かを感じ取ったのだと二人も感じた。決して一人にしてはいけない、その言葉の意味を二人は考えながらもトレーナーに日程を調整して貰うように頼むのであった。
「おいっす~謎のトレーナーさん」
「おいおいネイチャ勘弁してくれよ」
この世界だとまだタマは現役続行中。