貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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192話

練習コースを疾駆するランページ、その姿を見つめる視線の数は多い。知名度の事もあるが彼女が今走っているのはダートの坂路、キツいメニューの筆頭とされる坂路を既に何本もこなしている。しかもマスクを装着した上でのそれなのでその注目度は普通のそれではない。

 

『なんだあれは……マスクを付けた上であのスピードで坂路を駆け上がるのか……!?』

『動画サイトに彼女の練習風景という物が流れていたりするが……あれは本当だったという事なのか……』

 

トレセン学園ではブルボンというある種彼女以上のスパルタメニューに取り組んでいるウマ娘が居るので自分のこれはそこまで目立つ事は無かった……いや、シンザン鉄云々を明かしてからは騒がれた。それでも日々の積み重ねもあるだろうがそこまでではなかった、こんな風な反応を向けられるのは極めて新鮮である。

 

『あのようなメニューではレースが始まる前に潰れてしまいますよ!?』

『大丈夫よ、山登りに比べたら楽なもんだって言ってたし』

 

善意でそう声を掛けてもスーちゃんは方針を一切変えない。普通のウマ娘ならば潰れてしまうというのは正論だがドバイに来るまでトレセン学園でランページのメニューを見て来た彼女からすればこの程度は問題ない。

 

「にしてもドバイは暑いなぁ……日本だとまだ肌寒い頃だろうよ今の時期って」

「そうね、現在気温は28度。日本だと7月辺りの気温になるわね、でも元気そうでいいわねランちゃん」

「この程度ならまだまだ平気よ」

 

ヒトソウル時代もそうだが、メジロになる前の住居にはエアコンなどを動かす余裕も無かったし扇風機も無かった。それでも働かない訳には行かないと走り回っていた、その時の苦しみに比べたらこの程度の暑さなど苦にもならない。だがスーちゃんはそうはいかない、ウマ娘は暑さにはそこまで強くないしスーちゃんは孫もいる歳、日本との気温差が身体に響いているかもしれない。

 

「まだまだ大丈夫よ、塩キャラメルも持って来てるし心配されるほど老いてないわよ」

「これは御無礼致しましたマダム―――んでさスーちゃん」

「そうね、そろそろいいかしら」

 

許可が下りずに溜息を漏らす、ドバイに来て間もなく1週間になるがランページはまだ一度もシンザン鉄を用いたメニューをやっていない。既に暦は3月、後3週間もしたら本番のレースが待っているのに中々許可が下りない事にランページは不満を漏らしていたのだが、漸く下りた許可に拳を打ち鳴らした。

 

「そろそろドバイの気候にも適応した頃の筈だし、元のペースに戻してもいい頃だものね。ランちゃんってばシンザン鉄が使いたくてうずうずしてたなんてそんなに好きなの?」

「好きって訳じゃねえけどさ、普段から使ってたから変な気分になるんだよな。シンさんが普段使い用に軽めのシンザン鉄を作って貰った気持ちが分かったぜ」

 

好き嫌いの好みの問題ではない、身体に染みつくのである。次第にその重さに安心感と自信を見出すようになっていく、これによって今の自分がある、走りがあると思うとレースの時の軽さはその時だけで良くて後は重い方が落ち着くようになっている。そして了解を得てから靴の蹄鉄を外してシンザン鉄を打ち直す事にする。

 

「此方ノ蹄鉄、ドウします?」

「あ~そうだな……俺の配信でドバイで使った蹄鉄プレゼントキャンペーンでもやるかな」

「応募方法は」

「欲しいのか……エリちゃん」

 

速攻でメモ帳を取り出してペンを構えるエリック、なんだか昔のTVの懸賞やらに応募しようとした時の事を思い出す。兎も角それは後にしようと思いながら打ち直しを行っている影が生まれて急に涼しくなった。顔を上げるとそこには一人のウマ娘が此方を見据えていた。エリックが間に入ろうとするのを手で止めると彼女は語り出した。

 

『日本の暴君、まさか君の戦う舞台が日本のトレセンではなくドバイの舞台になるとは思いもしなかった。いや君の実力を加味すれば此処に立っているのは当然の結果だろうし必然だというべきなのかな?』

『どいつもこいつも暴君暴君って、本格的にコート新調コースか?』

 

困ったような顔を作りながら上げてみるとそこに居たのは自分ほどではないがウマ娘としては高めの身長、サイドの髪を編み込んで後ろに流している鹿毛のウマ娘は何処か嬉しそうな顔を向けて来る。そして何処かワザとらしく礼をする。

 

『これは失礼、噂名が高きメジロランページと会えてボクも少々興奮してしまっているようだ。ボクはアイリーン、君と同じドバイワールドカップの出走ウマ娘さ。つい、蹄鉄を打ち換えている君の姿が目に入ったものでね、それが噂に聞く日本の重量蹄鉄という奴かな?』

『そんな所だな、その為だけに話しかけたのか』

『フフッ君程のウマ娘が大事そうに蹄鉄を扱っているのだよ、しかも随分と重そうだったからね。気になるのは当然さ』

 

何というか、ドラマに出て来る探偵のような喋り方という印象を受ける。個人的には探偵より刑事コロンボの方が馴染みがある。

 

『折角だ一緒に走るか、つっても坂路だけどな』

『君程のウマ娘に誘われるとは、是非お願い―――』

 

『遂に見つけたぜぇ!!!』

 

一緒に練習に向かおうとした所にバカにデカい声を張り上げながらやって来たウマ娘が居た、それは自分を見つめると極めて好戦的な笑みを作りながらどんどんと此方へと迫って来る。何というか、気が合いそうな感じはする。へそ出しのチューブトップにホットパンツという衣装とその獰猛な肉食獣を連想させる笑みには女らしさの欠片も感じない。

 

『よぉっ探したぜ、テメェがジャパニーズタイラントのランページだな』

『暴君ねぇ……あんま呼ばれ慣れちゃいねぇがそう呼ばれる事が多いのは確かだな。如何にも俺がランページさんだが、其方さんは?』

『ハッ耳かっぽじって俺の名前を覚えな、シュタールアルメコア、今日ドバイ入りしたテメェの無敗神話を終わらせるウマ娘だ!!』

 

コース中に響く様な大声量で叫ぶシュタール、不敵且つ勇ましい表情、個人的には日本のダートウマ娘を思い出すような勢いがあって個人的には彼女と仲良くなれそうな気がする。

 

『シュタールアルメコアか……だったらその名前を覚えさせるぐらいにインパクトある走りを見せてみな、これから走るんだが一緒に如何だ』

『そりゃいい、願ってもねぇ誘いだ。独裁者 メジロランページ、練習だろうが何だろうが関係ねぇ、負ける準備は良いか』

『ぬかせ、アイリーン構わないか?』

『勿論。しかし自信がないのかな、声の大きさにそれが現れているのかな?』

『ア"ア"ン!!?喧嘩売ってんのかテメェ!!』

『いきなり喧嘩してんじゃねえよ』

 

獣と同じようなグルルルという唸り声をあげてアイリーンを威嚇するシュタール、なんというか此処まで荒っぽいウマ娘も初めてだ。気性で言えばエアシャカールよりも荒っぽいのではないだろうか……。

 

『というかシュタールさんよ、ドバイ入りしたばっかなのに走っていいのか。トレーナーの許可とか』

『良いんだよンなもん、座りっぱなしで身体が鈍ってんだ。解すのにちょうどいいってもんだ、後さん付けなんかすんな気持ちわりぃ、俺の事はアルで良い』

『あいよアル』




幽姫兎様よりアイリーン、マイスイートザナディウム様よりシュタールアルメコアを頂きました。有難う御座います!!

現在活動報告にて皆様からのご意見を募集中です。
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https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=294978&uid=11127
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