『だぁぁぁぁバケモンかよおまえぇ!!』
ドバイの最高級ホテルに備え付けられたウマ娘の練習コースにそんな大声がこだました、普通ならば迷惑に思うかもしれないがそれには同意の意見を浮かべている者も多かった。何故ならばそんな大声を上げたウマ娘はドイツ出身のウマ娘、ドバイワールドカップに出走予定のシュタールアルメコア、その隣では同じように荒い息をしながらもマスクを外しながらドリンクを飲んでいる日本の暴君、メジロランページの姿があった。
『マスク付けたうえで坂路を走れんだよぉふざけてんだろ!?』
『それは俺も思うわ、いやぁ慣れって怖いな』
『いや、これは良い経験になったな……』
同じように荒い息を吐き続けているのはアイリーン、彼女もアメリカでは砂塵の蜃気楼とまで言われる程のウマ娘だ。ランページやシュタールと違ってダートはまさしく自分の領域、自分の世界、本領発揮をする場。そんな坂路も何度も登ってきたつもりだが……ランページのペースは坂路を走っているとは思えないほどに速い。
『可笑しいだろ何であんなハイペースで坂路走れんだよ!!?分かった、さっき打ってたその蹄鉄に秘密あんだろ!?』
『まあ確かに秘密といえば秘密だな、すでに秘密になってないけど』
『ンだそれ揶揄ってんのか!!?』
『んじゃ……使ってみる?』
無造作に蹄鉄を外して差し出してみる、無敗の暴君が自分から秘密を差し出してきた、言ってみるもんだ、これでお前の秘密は白昼の下、お前は俺に負けるしかないと思いながらも蹄鉄を手に取ろうとすると思わず蹄鉄を受け取った手、いや腕どころか身体ごと持っていかれる重さが下りてきた。ドバイに来たばかりの疲れと坂路を走ったことで疲労していたシュタールは必死に食い縛りながら抗い、何とか耐えきった。
「Wie läuft es!!?」
思わず母国語が飛び出す、和訳すれば何だこりゃ!!?という意味になるがそんなことを考える間もなく彼女の表情と挙動でそんな事は丸分りであった。
『いやはや……噂に聞いていたが君がそこまでになるなんて……とんでもない重さなんだね、日本の重量蹄鉄というのは』
『ア"ア"!?じゃあ日本のウマ娘は皆こんなもんつけて鍛えてるってのか!?サムライの国ってだけあってジャパンってのは修羅の国か!?』
『ンな訳あるか、流石にこんな重さを使ってるウマ娘なんざ日本でも俺を含めて二人ぐらいしかいねぇよ』
秘密の証明は済んだしこれで納得もしただろうと蹄鉄を返してもらいながら打ち直す。然も当然のように持ち上げ、当たり前のように着け心地を確かめるように腿を上げる姿にシュタールは目を白黒させた。
『もう一人、いるってのか……そんなすげぇウマ娘が、誰だそりゃ!!?お前の次はそいつだ!!』
『そりゃ無理な話だな、その人はもう引退してるし―――俺に勝てねぇ位じゃあの人には絶対勝てねぇよ』
これに関しては紛れもない本音だ。シンザンとはこれまで何度も走ったが、勝てたことはないし勝てるというビジョンがどうしても巡ってこない。勝負という舞台では彼女に勝つ事は出来ないだろう、だからこそ自分はシンザンを越えたい。この彼女の名を冠する蹄鉄を使って。
『じょ、上等じゃねえか……レースで待ってやがれ!!お前の事ブッちぎって勝ってやっからな!!』
『おやおやおや?それはボクの事を無視しての宣戦布告ということかな?気に食わないな~?』
『ハンッ!!テメェなんざぁ俺の敵じゃねえんだよ!!』
『それなら一度コースで走ってハッキリさせてあげようか?』
『上等だ!!来やがれ!!』
そう言いながらも一足先にコースへと走っていくシュタールにアイリーンはシメシメ……とあくどい笑みを浮かべた。ワザと焚きつけて直ぐ傍でシュタールの走りを目に焼き付けて分析でもする気なのだろうか……何方にしろ性質が悪い。
『ランページさんはいかがです?』
『遠慮しとく。ドバイ入りしたばっかなんだ、あんま虐めてやるなよ』
『それは向こう次第ですね』
肩をすくめる彼女に呆れたような視線を向けつつも一応メニューはやり終えたので上がろうとコースから出てラチに沿って歩いていく。矢張り調整を行うウマ娘が多くいるので極めて賑やかだ。そんな空気を感じつつもコースから完全に出ようとしたときに一人のウマ娘と会った。ぶつかりそうになってしまったので一歩引いて道を譲るのだが……彼女は静止し、此方をじっと見つめてきた。
「あ~……なんぞ、なんか用でもあるのか?」
そんなウマ娘は葦毛を通り過ぎた完全な白い髪、そして瞳は差し込み光によって輝く色を変えている。どこか不可思議で神秘的な雰囲気を纏ったウマ娘だ、そんな彼女はしばらく自分を見つめていたら花が咲いたような笑みを浮かべた。
『貴方がメジロランページね、会えて嬉しい♪仲良くしましょうね』
『んっああ…まあ、いいぜ。宜しくな』
握手を求めると彼女は更に嬉しそうにしながらも手を握ってきた、かなり無邪気で裏表のない印象を受ける。どこかマヤノトップガンに似ている感じがする。
『あっごめんトレーナーに呼ばれちゃった、それじゃあねランページ。私のことはリンクスって呼んでね!』
『あいよ、またなリンクス』
『またね~♪』
元気いっぱいに立ち去っていくリンクスと名乗ったウマ娘、それを聞いて真っ先にランページが思ったのは
「身体は闘争を求める……みてぇな名前してんなぁ……」
そういえば新作の発売日が決定していたな、絶対に買わなければ……発売と同時に配信でもやろうかな、なんてどうでもいいことを考えつつもスーちゃんのもとへと戻ってくると二人のウマ娘はスーちゃんと会話をしていた。二人は何やらひどく緊張している様子だった、何事かと思ったがその二人の正体が見えた時にランページは思わず声を上げてしまった。
「ダイナ!!セイバー!!」
「あっ……ラ、ランページさん……!!」
「よ、よかった合流できました……」
何処か疲れ切ったような二人は自分の姿を見て嬉しそうな声を上げた。いったい何があったのだろうか……と思ったが、スーちゃんと会話していたからだろう。自分はいろんな意味で麻痺してしまっているがスーちゃんと話すなんて普通はあり得ない。まあそんなこと言ったら天皇陛下と話しちゃってるのだが……。
「疲れすぎだろお前ら……」
「い、いやだってついさっきドバイ入りしたばっかりなのに加えてあのスピードシンボリさんとお話しするなんて……もう頭爆発するレベルの事なんですよ!!?」
「海外挑戦するだけでもこれまでの私達からすれば遠い世界まで来てしまった感じですよ……あとぶっちゃけ移動疲れがありまして……」
「だったら身体休めとけよ、時差ボケ対策に寝るのは夜にしとけよ」
そんな二人に軽く呆れているが―――ランページは笑みを深めた。
「フェブラリーステークス、おめでとうなダイナ」
「いや、あはははっ……なんか勝っちゃいましてそのまま勢いでドバイまで来ちゃっただけですよ」
そう、ドバイワールドカップのステップレースでもあるフェブラリーステークスを制したのはアメイジングダイナ。同じくレディセイバーは東京大賞典で勝ち星を挙げてドバイ入りを果たした。ここにいる3人のウマ娘が日本から世界へと飛び出し、ドバイの地で雌雄を決することになる。
「半端ねぇぜ世界の舞台は、覚悟はいいな?」
「一応国際G1を勝って此処にいるんです、その覚悟で来ました」
「砂塵の騎士の名、世界に知らしめて見せますとも」
ガンバスター様よりアームドリンクスを頂きました。有難う御座います!!
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