貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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196話

この日、夜遅くにもなるというのにトレセン学園にはまだ灯りが灯り続けていた。本来であれば授業時間も終わり、チームでの練習やトレーナー管理の元での練習も終わった筈なのにトレセン学園の教室や体育館には明るさと活気があった。何故ならば―――

 

「さあ今の内もう一回練習~!!」

『ランページお姉様ファイト~!!!』

「もっと大きな声で~!!」

『ランページお姉様ファイト~!!!』

 

体育館に集ったウマ娘達はその手にペンライトやランページの写真が張り付けられた団扇を持ちながら声を張り上げている。本当ならばドバイの地でやるべき事なのだが、それも出来ない。ならばせめて精一杯の声援を日本から送ろうと努力している。そんな彼女らの姿を生徒会長であるルドルフは苦笑しながら見ていた。もう11時を回っているというのに本当に元気な物だと、一種の感心を送っていると隣の壁に寄り掛かる様にシリウスが立った。

 

「ハッ目出度いもんだなあの暴君、これならどうせ負けても大騒ぎでそれで敗北が無かった事にされる。流石は無敗の王者様だ」

 

日本時間の1:35、現地時間の20:35。それが出走時間。ドバイワールドカップがスタートする瞬間。体育館のスクリーンではドバイワールドカップミーティングの放送が行われている。本命は日本勢が出走するドバイワールドカップ、だがそれ以外のレースに興味がない訳ではない、世界最高峰のレースに興味がないウマ娘がこのトレセンにいるわけがない。どのレースも食入るような瞳で見つめている。

 

「仮に負けたとしても、彼女は受け入れるさ。そしてそれを糧にして更に前へと進む、それに彼女は勝ちに行ったのではないさ―――挑戦とは何たるものかを私達に見せる為に行ったのさ」

「チッ……お婆様の事もそうだが、嫌味かよ」

 

思わずそんな言葉を口にする。2年間行った海外遠征、結局彼女は一度も勝利を得る事は出来なかった。当時は海外遠征を行うウマ娘など全くいなかった、慣れない環境での戦いをし続けたシリウス……だがそれは決して無駄になっていない。それをルドルフは祖母から聞いていた。

 

『まだまだ未成熟で海外挑戦すら暗中模索だった日本のウマ娘。長期間の海外遠征のノウハウなんて全くなかったのに欧州武者修行……結果こそ振るわなかったけど、あの子(シリウスシンボリ)の残した実績とデータの価値は途方もない財産なの。だからねルーちゃん、私はシーちゃんの事を貴方と同じ位に評価してるの。そしてシーちゃんの挑戦があってこそランちゃんのドバイの今があるの』

 

「兎に角見ようじゃないか、私達の代表の雄姿」

「チッ……不甲斐無い走りしやがったら承知しねぇぞあの野郎……」

 

悪態を付きながら、シリウスはハーブシガーを銜えて火を灯した。一度だけランページの物を借りて吸った事があるルドルフは直ぐ分かった、彼女と同じ銘柄―――同じ配合の物だ。なんだかんだ言いながらランページの勝利を願っている事に笑みを零してしまった。

 

「あら、随分と皆頑張るのね。それだけランちゃんの事が大好きって事ね」

 

そこにラモーヌも入って来る。その手には紅茶の入ったカップがあり、それをルドルフへと差し出す。自分達も当然ランページの出走を見るつもり、眠気覚ましの為なのか香りが強いのもありがたい。

 

「よく言うぜ、ある意味同室のあんたが一番あいつの事がお気に入りなくせによ」

「否定はしないわ、あの子はいい子だからね」

「さて、世界の強豪とどんな走りをするのか―――見せて貰うぞランページ」

 

 

「うぅぅぅっ……」

「だ、大丈夫ターボさん?はい、珈琲」

「ありがとライス……」

 

カノープス専用の一室に集まった一同、自分達のチームメイト且つリーダー的な存在であるランページの海外初戦が間もなく始まる。それを見ようと全員が集っているのだが……時間も時間の為に眠気との戦いも始まってしまっている。

 

「ターボさん、あと少しの辛抱ですよ」

「良い子はもう寝る時間……なんで夜なんだぁ……」

「昼は昼で私達授業だから困るよ~」

「まあドバイとの時間差は5時間あるからこれはしょうがないよ、加えて向こうは日中暑い訳なんだから夜にレースやる訳だし」

「うぅぅぅ……にっがぁ……」

「頑張って先輩!!」

「ぅ~……チケットの声でかぃ~……」

 

ライスから受け取った珈琲を頑張って飲み干すターボ、ターボだってこのレースを見逃すつもりはない。普段は完全に寝ている時間ではあるが……頑張って起きようとはしている、一応レース中は海外のウマ娘の走りに興奮しているのだが……合間合間の時間に睡魔に襲われてしまっている。

 

「はいトレーナーコーヒー淹れたよ」

「すいませんネイチャさん」

「にしても……本当に良かったの、あそこに居なくて」

 

ネイチャの珈琲を啜りながらもドバイを見る、本来であればあそこにいるのは自分であった筈だった。考えようによってはスピードシンボリにカノープスを頼んで自分が海外遠征を共にするというのもあったが……カノープスは既にかなりの大所帯、それをスピードシンボリに任せるのはリスクが高い。遠征経験があり仲も良い上に一対一の関係で集中出来るランページを任せた方が合理的。

 

「私はカノープスのトレーナーですから、それに―――私とランページさんの心は繋がっていますから、私はドバイに居るという事です」

 

その言葉にネイチャは少しだけキョトンとした、そしてすぐに笑った。

 

「これはまた、惚気られちゃったねぇ。流石ランが惚れたトレーナーですわ」

「恐縮です」

 

 

「んっ……」

「如何したのランちゃん」

「いや、南ちゃんと今心が繋がり合った気がした」

「あらあら、ランちゃんは南さん大好きっ子よねぇ」

「よせよスーちゃん、照れるじゃねえか」

 

控室で勝負服に袖を通している最中の事、唐突にランがその手を止めた。だがそれはほんの一瞬で直ぐに再開する。黒いコートが彼女の身を包んで靡く、此処まで走り続けて来た彼女の勝負服、こうなったら最後の最後までこの勝負服で駆け抜けてやろうと思っている。まあURAが送って来た新しい勝負服を着て心機一転、というのも考えたのだが……着慣れている此方を無意識的に手に取ってしまった。

 

「もう直ぐ始まるのね、ドバイは私も初めてだから何だか緊張しちゃうわ」

「スーちゃんらしくもねぇ、何時も通りにドォンと構えてくれてりゃ俺は安心して走れるだからそうしてくれ」

「フフフッこれは失敬」

 

それでも不安は大きい。海外G1勝利、自分も挑んだ偉業への道。だがそれは全く振るわなかった……次こそは、次こそはと思って海外に行くウマ娘はいた。世界にも通用する強いウマ娘を目指して……だが、何時からかそんな流れは下火になりつつあった。それはその為のジャパンカップですら勝つ事が出来なくなったからでもあった―――だが、今は違う、そんなジャパンカップを制した上で2400のワールドレコードを達成したウマ娘が今、世界の舞台で駆け出そうとする。正しく、日本の夢を背負い、誰もが願った海外G1勝利を目指す。

 

「スーちゃん」

 

知らず知らずのうちに顔を伏せてしまっていた自分に声を掛けて来る、顔を上げるとそこには満面の笑みを作ったランページがいた。

 

「笑顔で行こうぜ、夢を見せる為に」

「そうね、行きましょうか」

 

手を取って立ち上がる、自分がリードしてあげなければいけないのに自分がされてしまった。自分も老いて弱くなったという事か……らしくないな、と思いながらも時間を告げたエリックの言葉に従ってランページが行く。堂々とした足取りで遂に、一歩を踏み出し、満員のメイダンレース場へとその姿を露わにした。星空の下で行われるレース、感じた事も無い充実感に力が籠る。

 

「さあ行くぜ」

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