貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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198話

遂に開幕したドバイワールドカップ、何処か日本のダートにも似ている地面を強く蹴って全員がゲートから飛び出していく。遅れはなく、全員が抜群の好スタートを切った。

 

『スタートしましたドバイワールドカップ、揃って出現しました。スタンド前の先行が起こりますが、それを真っ先に飛び出していくのは大外8枠10番メジロランページ、矢張りこのウマ娘は大逃げしかあり得ないと言わんばかりの走りを見せます。だがそれに競り合うように世界のウマ娘達も飛び出していく、先頭に立ったのはメジロランページ、いやその直ぐ隣には1枠1番アームドリンクス、8枠9番アメイジングダイナ、7枠7番レディセイバーも続きます。そのまま第1コーナーへと入ります』

 

先頭を取る事が出来たようで出来ないランページ、その理由は既に分かっている。開始直後からデバフの嵐があったのにも拘らず、リンクスは影響を全くと行っていい程に受けていない。自分ですら受けているのに……これが白いイレギュラーと言わしめる所以なのか、ブルボンの勝負服にも似たボディスーツを纏った彼女の瞳は変わらず天真爛漫。純粋、故の強さ。余りにも強い光は他の色が混ぜられたとしてもそれすら飲み込んで白に変える。

 

「これが世界の舞台―――この重圧も、それなのか……!!」

「これは、利きますね……!!」

 

身体中を締めあげる様な重圧(デバフ)、日本ではそこまでメジャーではないが海外では他者に向けての重圧戦術はベター。スーちゃんや南坂からそれを聞いたランページは、競走馬の世界でも海外では同じ馬主で同じ厩舎から負けてもいい馬を出す事を思い出した。それに近く、デバフは日本以上に多い。それにダイナとレディは思わず声を漏らすと、後方から迫って来る者たちが一気に食い破ろうと迫る。一瞬の隙も見せられない、それが世界の舞台だと気を引き締め直す中で平然と走り続けていくランページに改めて感嘆の息を漏らす。

 

『先頭にはメジロランページ、アームドリンクス、その後方にはシュタールアルメコア、アメイジングダイナ、レディセイバー、リスフルーヴが一塊。それを右後方から伺っておりますのはヒューペリオン、アルカンシェル。そしてその後ろに付けるのはバニッシュ・アウト、アイリーン』

 

「はっやぁ~い!!」

「よく言うぜ全く!!」

 

強者に強い理由などはない、唯強い。それが納得できるだけの走りをするリンクス、あのデバフを全くを受け付けない領域を最初から展開し、常に自分の最高の全力を出す事が出来る。これほど恐ろしいのもないだろう。だが、自分だってまだまだ走れる、まだ中盤にも入っていない。唯、自分は走るだけ。

 

「待ちやがれってんだよぉ!!」

 

後方からの大声、シュタールも一気に地面を踏み込んで迫って来る。だがその時、僅かに彼女の身体がブレて内へと切り込んでいった。思わずダイナが声を上げて進路を修正するが、彼女も彼女で内に寄っている感じがする―――ランページは気を引き締めシンザン鉄を付けているつもりで一際強く地面を踏みしめた。その時に気付いた、自分も僅かに外へと身体がヨレ始めていた。

 

「こりゃ……」

「気付いたんだ、流石ランだね!!」

 

リンクスが愉快そうな声を上げる中でリンクスを除いた全員にその影響が現れている事が分かった、特にレディとダイナはそれを大きく受けてしまっている。他の皆もヨレてしまい、バ群に穴が出来たその瞬間、そこを一気について上がってくるウマ娘が居た。

 

『アイリーン!!アイリーンがバ群の中央をかき分けるかのように一気に上がって行きます、 アメイジングダイナを抜いて今4番手に上がりました!!そして今シュタールアルメコアに並び立った!!』

 

 

「何、―――初歩的なことさ(Elementary Mirage)、アルメコア君」

「テメェッ……!!」

 

最後方に居た筈のアイリーン、何時の間に上がって来たのか。自分達がヨレた瞬間を狙って一気にぶち抜いて来たという事なのか。

 

「少々はやめに仕掛けさせて貰ったよ、この前の併走で君にはこの位の揺さぶりが最も適切だと分かったからねぇ!!」

「このくそ野郎がぁ!!」

「おやおやおや、いけないねぇボクは男ではないんだけどねぇ」

 

そんな風に笑うアイリーンだが計算違いもあった、予定ではアームドリンクス以外のすべてのウマ娘がヨレる筈だったのに肝心要のランページは道を開けてはくれなかった事だった。アイリーンとの勝負に持ち込むつもりだったのにこれは計算外だ……だがそれはもう一つある。

 

「それは、君さバニッシュ・アウト!!」

「バッレちゃった~!!」

「ってぇっ何時の間に!!?」

 

思わず声を上げるダイナ、先程まではいなかった筈なのバニッシュ・アウトが何時の間にかアイリーンの背後にまで上がって来ていた。アイリーンよりも僅かに自らの領域の発動を遅らせる事で彼女に気付かれないように背後に付き、そのままスリップストリームで上位集団にまで上がって来ていた。

 

「甘いわね」

「ピェ!?」

「またですか!?どんだけ行くんですかまだ第3コーナー前なのに!!」

 

それに続いたのはリスフルーヴ、次々と上がって行く最後方に居た二人に触発されたのは自らも前へと飛び出していた。しかもその走りは二人と違って先程よりもずっと活力に溢れており、シュタールを越えてランページとリンクスに並びかけている。

 

『これは激しい競り合いが続きます、先頭は未だメジロランページとアームドリンクスが譲りませんが、その挑戦権を奪い合うかのように目まぐるしく順位が変化し続けております!!リスフルーヴ、バニッシュ・アウト、アイリーンが迫ります!!アメイジングダイナとレディセイバーはその争いの煽りを受けてやや気後れしているか!第3コーナーへと入っていきます、そのまま直後ろにはアルカンシェルとヒューペリオンが控えております、もう一塊と言っても過言ではない!!誰が抜け出すかの勝負になって来た!!』

 

第3コーナーを越えて間もなく最後のコーナー、此処から最後の追い込みを掛けるウマ娘が多い筈だ。此処まで殆ど足を緩めずに走り続けているランページ、脚色は衰えていないように見えるがデバフの影響はある、脚が徐々に重さを増してきている。だがこの程度で根を上げる訳には―――

 

「走ることに囚われたウマ娘諸君…準備は良いか?……そんじゃ…ショータイム!!」

 

 

刹那、視界に奇妙な物が浮かび上がった。

 

「ンだ、こりゃ……!?」

 

その言葉は自分だけのものではなく、周囲の皆にも見えているようだった。それは、とある村に見える廃工場、それが何故、今此処で、ドバイの地で見るのか理解出来ない。だがそれ以上に不可解なのは周囲にいるドリルやプロペラが体に付いた人型の何かが自分達を狩りの獲物とするかのように迫ってきている事だった。

 

「何々何これぇ!!?」

「奇怪な……!?」

 

ダイナとレディの悲鳴が木霊する、だがそれはアイリーンやリスフルーヴも同じ。本能に訴えかけるかのようなそれらに自然と脚が前へと出る、自分に出せない筈の速度をカーブで出してしまう。それを理性が反射的に抑え込もうとして二つがぶつかり、余計な体力とスピードが削ぎ落ちる。

 

「アハハハッすっご~いね―――でも、それだけだね」

「ンだとぉ……!!」

 

そんな幻想を一気に打ち破るかのように抜け出したのはリンクス、彼女に揺さぶりなんて意味がない。彼女には揺るがない強さがある、強い者は強い、極めてシンプルな答えだけが彼女の道標、そして彼女はそれを疑う事を知らない。

 

『此処でアームドリンクスが抜け出した!!アームドリンクスが先頭、メジロランページは来るのか!?流石に苦しいか!!?さあラストの直線に入る―――こ、此処でアルカンシェル!!アルカンシェルが一気に抜け出していや、ヒューペリオン!!ヒューペリオンも来た!!真夜中の激戦に太陽が昇るのか、虹が掛かるのか!!?』

 

同じく、幻惑を抜け出すかのように駆け出していくアルカンシェルとヒューペリオン。二人は此処まで最後まで温存していた切り札を切った。此処しかないタイミングで切った。虹を煌を纏うアルカンシェル、漆黒のオーラを纏うヒューペリオン、対照的な二人が先頭を行くアームドリンクスを追う。ランページは一気に4位に落ちた。

 

『メジロランページ4番手!!先頭を争うのはアームドリンクス、アルカンシェル、ヒューペリオン!!さあ誰が勝つのか、どうなるんだ!!』

 

「ハァハァハァハァ……!!」

 

決死の想いで走り続ける、重く成り続ける脚、今にも食い破って来そうな精神に掛かる重圧、迫って来る無数の気配。これまでに無い苦しさ、喉の渇き、辛さを味わう。一歩でも足を置く場所を間違えたら崩れ落ちそうな感覚すらある。今どこを走っているんだ、この村は、どうやったら抜けられる、怯える様に委縮したこの身体はどうやったら動くのか。何もかも分からなくなっていた。

 

「(無謀、って奴だったかな……)」

 

無敗神話の王者と謳われて、憧れを受けて、夢だと言われ、慢心をしていたのか―――自分は此処で果てるのか……そんな考えを持った自分を即座に一蹴する。違う、自分はそんな弱くは無い筈だ、自分は既に一度負けている、負けなんてそれだけで十分じゃないか、そうだ、自分は、俺は―――ランページに……

 

 

 

―――違うでしょ。そんなんじゃ、ない筈だよ。

 

 

今の声は何だ、何処から聞こえて来た。誰の声だ、でも聞いた事のある声だ。

 

あの時、私がいったのは違うよ。

 

この声は……顔を上げると必死の声援を送っている日本の応援団、その近く、ラチに腰掛けているウマ娘が居た。彼女の姿は見えていないのか、近くのスーちゃんも気付いていない様子だった。そんな彼女は―――自分だった。

 

貴方は、貴方だよ、メジロランページ

 

そうだ、あの子は―――幻想の世界が晴れる、稲光がそれを走りその輝きが自分と彼女を照らした。

 

自由に生きて、楽しんで、私の分まで―――ねっランページ!!

 

「ああ、そうだな……そうだったな!!!」

 

地面を強く踏み込む、迷う事なんて一つもない、敗北なんて自分になんてない。今自分にあるのは―――この、身体の内で暴れ狂う熱狂の渦のみ!!それに全てを委ねた時、身体の奥底に眠っていた全てを開放した。その瞬間―――解放されたかのように、ランページは再び疾駆した。

 

亡き魂よ、共に暴れよう。

 

『メ、メジロランページが一気に上がって来た!!無敗の王者はまだ死んではいなかった!!』

 

全身を縛っていた鎖は既に砕け散り、彼女の力となった。一気に駆け出していくその背中を追走するようにリスフルーヴが行くが、その背後からもシュタールが行く。

 

「やっぱり、あの人は―――凄い!!」

「そうだ、私達はこんな所で立ち止まってちゃダメなんだ、あの人に挑戦する為に、此処に来たんだぁ!!!」

「あの人に、遅れて堪るかぁ!!!」

 

『さあ此処でアメイジングダイナとレディセイバーも上がって来る!!日本のウマ娘達の瞳に炎が灯る、大和魂が、闘魂となって彼女に注入されていく!!メジロランページが4番手から一気に迫っていく!!アルカンシェルを捉える!!!』

 

「これはっ、この走りは―――!!」

「あれだけ受けて……!!」

「すっごっ!!」

 

我、熱狂の渦を巻き起こす!!

 

「俺を観ろ、感じろ、こっからが俺の―――スタンピードだぁぁ!!!」

 

『メジロランページが、メジロランページが越えていく!!先頭は抜け出たアームドリンクス、だが今3番手に上がってそのまま太陽すら飲み込んで、白いイレギュラーに手が、届いた!!いや今抜いたメジロランページ先頭!!1バ身を抜け出た!!後ろからも砂塵の騎士と砂の超特急が意地を見せる!!このドバイで日本が夢を我々に見せようとしてくれている!!』

 

レディは超前傾姿勢走法を切った、もう後の事なんて如何でもいい。今この瞬間に全てを駆けると言わんばかりの走り、ダイナもそれは同じ。全身全霊を込めて最後の強襲。二人が伸びる中、アームドリンクスは一際笑った、そして再度ランページへと襲い掛からんと迫っていく。

 

『アームドリンクスが迫る!!アルカンシェル、ヒューペリオンの逆襲が来る!!ランページに届くか!届くのか!!?いや、届かせない!!メジロランページ、メジロランページ、やったぁぁっメジロランページ、今先頭でゴールイン!!!ドバイワールドカップ優勝はメジロランページィ!!!やりました、日本ウマ娘が海外で勝利したのはこれで4度目、そしてG1勝利は史上初の快挙!!!世界の一冠をその手にもぎ取りましたぁ!!!2着はアームドリンクス、3着にアルカンシェル、4着にはなんとレディセイバー!!5着にヒューペリオン、アメイジングダイナは7着と、日本勢大健闘、世界の舞台で堂々の走りを見せ付けました!!!』

 

無敗の神話を築き続けた王者、極東の島国の無敗の王者などと嗤った者もいただろう。だが、そんな者達の言葉を全て覆し、今―――世界の一冠を取った。世界の扉が日本へと向けて開かれた瞬間、そのカギを抉じ開けたのは暴君と言われるウマ娘、メジロランページ。日本の王者が世界の王者となった瞬間に世界が驚愕し、日本中が沸いた。

 

「これが、挑戦の本懐……真の意味だ!!!」

 

掲げ挙げられたその腕と声に、熱狂が起きる。俺に続けと言わんばかりのその姿に、誰もが夢を見て、憧れを抱き、その背中に続こうとする炎が、一人、一人の胸の内に灯されていく。その憧憬の炎は、何れ形なる未来の大火となる。それを―――彼女は確信していた。




ドバイワールドカップ

1着:メジロランページ
2着:アームドリンクス 
3着:アルカンシェル
4着:レディセイバー
5着:ヒューペリオン
6着:リスフルーヴ
7着:アメイジングダイナ
8着:シュタールアルメコア
9着:アイリーン
10着:バニッシュ・アウト
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