貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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206話

「生憎そういう柄じゃないんでねぇ……それに、そっちに付くとこっちが応援出来なくなっちまう。俺としては後輩を応援してやりたい」

「ターボも~それに何言ったらいいのか分からないし」

『そうですか……分かりました、上には上手く言っておきます。すいません皐月賞もあと少しだというのに……』

「構いやしねぇよ、アンタみたいに筋を通してくれるんなら話は聞いてやる。だが勝負服は変えねぇってデザイナーチームの連中に言っといてくれや」

『これはまた、頭を抱えそうなことを……分かりました、伝えておきます。それでは失礼します』

「あ~い、んじゃね~」

 

通話を切ってスマホを胸ポケットにしまうランページに部室内で雑誌を読んでいたネイチャは視線を其方へと向ける。大きなソファにまるで王様の様にふてぶてしく腰掛けながらリラックスしているランページとそんな彼女の膝の上で座りながらも大きな胸をクッション代わりにするようにしながらゲームに興じているターボ。傍から見ると本当の姉妹のように仲がいい。

 

「何の電話だったの?」

「後3日もすれば皐月賞だろ?そこで解説を頼まれたんだよ」

「あ~成程、そういう系の電話だったわけね」

 

所謂イベント出演系の電話というのはネイチャも経験した事がある、まあその大半が自分を可愛がってくれている商店街のイベントの物だったりするわけなのだが……。

 

「というか、せめて桜花賞の時にしろやと思うわ。なんで皐月賞に俺とターボを呼ぼうとする訳?俺達ぁトリプルティアラだぜ」

「呼ぶならどっちかと言えばテイオーとかライアンの方が合ってるよね」

「確かにそうですね、其方に断られたのでしょうか?」

 

だとしたらなんとも大きな保険としか言いようがない、ランページは配信をやっている訳だから話を回すのは得意分野だしそういうのも出来るかもしれない、だがターボは如何見たって其方に向かないのは誰だって分かる事。だからこそランページとセットして色々と補おうとも考えたのかもしれないが……それならせめて桜花賞の時に呼べと声を大にして言いたいのは良く分かる。

 

「解説に回ったら中立を保たねぇといけねぇからな、そうなったら応援が出来ない。そんなの御免だな、ライスとタンホイザだって応援された方が良いだろ?」

「う、うん。ライスはその……お姉様に応援して欲しい、かな……」

「私も応援して欲しい~ターボは解説席でも普通に応援してくれそうだけど」

「何か分かる、というか絶対ターボ先輩はそうしますよね~」

「なんかムッとするぞチケゾー!」

 

まあ色々と言いたい事はあるだろうが、ターボなら絶対そう言う事をするという謎の信頼感があるのも事実だ。

 

「だけど、次の皐月賞はどうなるだろうねぇ……新聞だと一番人気はミホノブルボンだよ」

「ライスさんとタンホイザさんで2と3番人気か……」

 

テーブルの上に広げられた新聞、そこには次の皐月賞の記事がある。1番人気に推されているのは2枠4番のミホノブルボン、2番人気は5枠9番のライスで3番人気が7枠15番のタンホイザという状況になっている。

 

「ランページさんはこの評価如何思います?」

「ブルボンさんが1番人気ってのが如何も解せないです、ライスさんはホープフルステークスでレコードだったのに」

 

ローレルの疑問とドラランからの疑問に近い憤り、それを向けられつつも苦笑する。そこへエアグルーヴが母が送ってくれたというお茶を淹れてくれたのでそれを受け取る。

 

「おっいい香りだな……良いセンスだな」

「あっ有難う御座います、母も喜びます」

「宜しく言っといてくれっとまあ妥当だとは思う、確かにライスはホープフルステークスをレコードで勝ってるし今の所無敗でブルボンと互角だ。だがブルボンはタンホイザに勝ってる、カノープスっていうライスと同じ枠組みに勝っている事になる訳だ。恐らくそっから来てる一番人気だろ、タンホイザに勝ってるからライスにも勝てるんじゃないかな?っていう希望的な観測が大部分(ズズズッ……)って所から来る一番人気だ、まあそれに恥じない力を持ってるのがブルボンだがな」

 

それに加えるならば、此処まで無敗のウマ娘であるミホノブルボン。彼女の脚質は逃げ、彼女を見つめる視線が、先駆者である二人の姿(ランページとターボ)に思わず重ねてしまうのだ。あの二人のように、今度はこのクラシック路線で無敗の三冠が生まれるのではないだろうかという期待が生まれている。

 

「で、ですが中距離というのは御二人が本領を発揮する場面です。今度こそ勝てますよ!!」

「エアグルーヴちゃんありがと~!!うん、フューチュリティステークスのリベンジをするぞ~!!えい、えい、むん!!」

「え、えいえいむんっ」

 

気合を入れるタンホイザに続くようにえい、えい、むんを口にするライスに思わず和みつつもお茶を啜るランページだが……不安もある。確かに中距離からこそステイヤーである二人の本領発揮の場面ではあるが……それでも2000は短め、ブルボンもこの距離でも問題なく自分の強みを発揮出来る筈。そこを如何攻略するかに掛かっている。

 

「何にせよ、楽に勝てる相手じゃねえってこった。気合入れて臨めよ」

「はいっ!!」

「うん、ライス頑張る!!」

 

二人を応援ムードになっていくカノープス、当然ランページもその中にいるつもりでいるのだが……恐らくだがブルボンは史実以上に強くなっているという確信がある。それは勿論ライスもタンホイザも強くなっているとは思うのだが……ブルボンの伸び幅はそれを上回っているように思えてしまう。

 

 

 

「ちぃ~っすトレセンの龍の伯父貴にお届け物でごぜぇやす」

「ランページか、その呼び方はやめてくれ。俺は堅気だ」

「その見た目で堅気とか言われたら余計にそっち系によるだけだから止めとけよ」

「えっ?そうなのか……分かった」

 

あれは、黒沼トレーナーが南坂経由でとある物を発注した事があった。その時には南坂は忙しかったので暇だった自分が配達を担った。

 

「ランページさん、ドバイワールドカップお見事でした。私も何れ、海外に挑戦したいと思っております」

「お~そりゃ楽しみだな、ンじゃこれもその為の物かい?」

「そうとも言えるな。ブルボン、今日からこれを付けて貰うぞ」

 

ランページの持ってきた荷物、その中身は新しいシンザン鉄。勿論今ブルボンが付けている蹄鉄もシンザン鉄、それを外すと大きな音を立てながらも地面に落ちる。その音で何倍なのかを察する。

 

「6倍かよ……」

「分かるのか、流石だな」

「伊達に何年も使い続けてないんでね」

 

そして今回持ってきたシンザン鉄の重さは7倍、倍率だけで言えばイクノに迫る物がある。これで後輩なのだから困ったものだ、シンザン鉄と黒沼トレーナーが行うメニューとブルボンの組み合わせの親和性は極めて高く、その効率を遥かに高めている。

 

「そのまま2000mのタイムを計る。設定タイムを2秒短縮だ」

「マスターの御命令とあらば」

 

そう言いながらも付け終わったシンザン鉄の感触を確かめながらもブルボンはそのまま走り出して行った。少しだけランページはそれを見つめていたが、走っているブルボンの姿を見ながらも黒沼はタイムを計り続けていた。そして走り終えた時のタイムは―――寸分違わずに黒沼が指定したタイムだった。

 

「よし、ブルボンクールダウンを兼ねてあれをやっておけ」

「命令を受諾しました」

 

ブルボンは汗を拭きながらも座るとその手にストップウォッチを握り込むと直ぐにそれをスタートさせた。

 

「体内時計……?」

「分かるか、流石だな……ランページ、南坂に言っておいてくれ」

 

ブルボンの行いの真意を汲み取ったランページに黒沼はサングラスをかけていても隠し切れない鋭くも強い眼光を向けながらも言った。

 

「今年のクラシック三冠はブルボンが貰う、とな」

 

 

「こりゃ、今年も荒れるな……」

 

 

「ブルボン、皐月賞のタイム設定を発表するぞ―――レコードを1秒更新しろ」

「マスターの御命令であれば、お任せください」

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