貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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208話

『ほほぅ!!それが噂に聞くシンザン鉄だね!?ハハッ通常のウマ娘が付ける蹄鉄よりも遥かに重量があると聞く、それを用いてメニューをこなすとは実に前時代的だ!!そんなものを使って身体を鍛えるウマ娘が時代のもっとも先頭を走っていると言っても過言ではないのだから世の中とは分からない物だねぇ!!』

「楽しそうだなぁ」

『実に楽しいとも!ああっどうしてトレセンには初等部が無いのだ!?あるのならば今すぐにでも転入手続きをするというのに!!!』

 

ランページは珍しく、トレセンの自室に居た。相部屋であるが、相部屋相手であるラモーヌが現在席を外しているので今のところは一人。そして会話をしているのはタキオン、話してみればフローラよりも遥かに話が通じるので友人として見た場合は姉との差は天と地ほどはある。

 

「ンで俺に相談ってのは何なんだ、態々一対一で話をしたいって前置きしやがって。こっちも何時でも暇って訳ではないんだが?」

『そう言いながらも確りと時間を取ってくれるのだから貴方に好意を抱かずにはいられないねぇ。おっと、姉さんと違って友人的なあれだよ、ライクさライク』

「わぁってるわ、フローラのそれはなんつぅか、言葉に湿度というか粘度があんだよなぁ……」

『我が姉の事ながら申し訳ない』

 

ウマ娘的にはブッチギリでやべぇ奴扱いをされるタキオンがまともなのだ、フローラがやべぇ奴になった事で反面教師になったという奴だろうか。この場合は何方がいいのだろうかタキオンがやばいままでフローラが普通か、タキオンがまともになってフローラがやべぇことになっている、絶対に後者だ。

 

『私は認めたくはないが、体質的に脚が弱いんだ』

「ガラスの脚って奴だ」

『ああ、メジロにもそういう令嬢がいると聞いているが、如何やら正解のようだね』

 

ウマ娘は人間と変わらぬような体格であれだけの出力を出せてしまう。それに故に走る際に最も負荷のかかる脚は極めて繊細、その中でも壊れやすい脚をガラスの脚と表現する事がある。メジロで言えばアルダンがそれに該当する。そしてタキオンも自分の脚が壊れやすく、レースを走れば何時走れなくなるか分からなくなる事も既に見抜いている。

 

『それなのに素質は優れていると来たものだ、全く以て腹立たしい事この上ないさ。古めの軽自動車にF1で使うようなガチガチにチューニングされたエンジンやらを積んだような物が私、という事だ』

「問題はガラスの脚だけって事か」

『全く以て業腹な事だよ』

 

故にタキオンはある事を研究している、自分自身が限界にまで挑むプランAと他のウマ娘を自分が限界に到達させるプランB。その双方を研究している、だがそんな中で見た圧倒的な輝きがあった、それがランページ。

 

『私は様々な理論を研究している、その中の一つがレース最速理論。だがそれは唯速ければいいという訳ではない、例え世界一の名誉を勝ち取ったとしてもそのウマ娘の脚が壊れてしまえば元の木阿弥さ、一時の名声を得るただそれだけの為に……私はそうなるつもりはサラサラない』

「つまり―――お前さん専用のメニューでも開発してくれって言いたいのか、俺のメニューを欲しがったのもその為か」

『簡単に言えばそう言う事になるねぇ』

 

タキオンの望みは極めて単純、自分のこの体質を改善するためのメニューの開発と改善した後のメニューにランページのメニューを取り入れる事への許可だった。アルダンもメジロ家のご令嬢、機械も設備もあった筈だが彼女は脚に加えて身体も弱かった。故に無理が出来ない、だがタキオンは脚に問題があるだけでそれ以外は健常なウマ娘と変わらないと語る。

 

「忘れられがちだがカノープスは無事是名バを掲げてるチームだ、そういう意味じゃお前さんみたいなウマ娘はウチ向けだな。だが、気が早すぎんじゃねえか?」

『行動という物は早くして損はないさ、備えあれば憂いなしというじゃないか』

 

画面の向こう側のタキオンは笑っているが、自分でも一方的に都合のいいことを言っている自覚でもあるのかどことなく後ろめたさを感じているようにも思えた。それ程迄に自分の脚の事を深刻に考えて少しでも早く対処したいという気持ちがあるのだろう。

 

「んで、本音は?」

『―――聞いていなかったのかい?私は自分の体質を』

「それは方便だろ、如何して治したい。一緒に走りたい相手でもいるんじゃねぇのか?」

『……驚いたね、貴方は心理学も修めているのかな?』

「TRPGの賜物ってな」

『何だいそれは』

 

クトゥルフ神話TRPGでリアル心理学でKPの嘘を見抜いて行動して泣かせたことがあるだけである。そんな自分を見て笑いながらも降参と両手を上げた。照れくさそうにタキオンは語り始めた。

 

『私を出迎えに来てくれるという同級生の話はしただろう?』

「ああ、その時だけは学校に行くって奴か」

『彼女らと約束をしたのさ、一緒にトゥインクルシリーズを走るとね』

 

始まりは学校、珍しく学校に行った際に授業の一環で将来やりたい事は何かを発表する事があった。その時に件の同級生がトゥインクルシリーズで走る、そしてそこで自分達に勝つと宣言をした。それを受けてタキオンは思わず笑ってしまった、自分の脚の事を知っている癖に、だが自分はどうしようもなくウマ娘だったとその時に知った。その宣言に胸が高鳴った、心が躍った、走りたい、競いたい、そして勝ちたいと心から思った。

 

「なんだ、研究云々言うからマッドな理由かと思ったら子供らしいキラキラ目標じゃねえか」

『だからあまり言いたくはなかったのさ、だがまあ話した方が合理的だろう?』

「成程な……」

 

それを聞いて思わず過った同級生というのはマンハッタンカフェ、ジャングルポケット、クロフネ、ダンツフレームという最強世代候補にも挙げられるほどに強豪が軒を連ねている。競馬ファンだった身としてはウマ娘にも未登場だった彼女らを見る事が出来る所にも惹かれる……惹かれるのだが

 

「んんんんん……」

『何か問題、ああっ姉さんか』

「唯一にして最大の欠点がフローラなんだよなぁ……」

 

個人的には力になってあげたいのだが……フローラの存在が如何しても自分の脚を躊躇させてしまうのである。

 

『私が強く言えば恐らく下手に絡む事はないと思う、姉さんは相当なシスコンだからね。それで如何だろうか?いざという時にはフライト姉さんにも協力を頼むさ』

「ああそうか、もう一人姉さんいたんだっけ……」

 

アグネスフライト、タキオンの全兄に当たる競走馬。彼を語る上で最も有名なのが日本ダービーを制したダービー馬であるから、というだけではなくこの時に武豊騎手はダービー三連覇という大記録を目の前にエアシャカールに騎乗していた。エアシャカールとのダービーでフライトは7㎝差という大接戦判定を制し初のG1制覇を日本ダービーという舞台で飾った。河内洋騎手はアグネスフライトの母アグネスフローラで桜花賞、アグネスフローラの母アグネスレディーでオークス制覇、そしてフライトで17度目の挑戦で初ダービー制覇を果たし血統に縁がある悲願達成を果たした。

 

『姉さんはハッキリ言って私よりもずっとまともさ、正当な理由があれば協力は得られるだろう。貴方のファンでもあるしサインの一つでもしてくれれば喜んで手伝ってくれると思うよ』

「お前、それ自分で言ってて何ともねぇのか」

『自覚した上であれな姉さんよりは遥かにまともなつもりだよ』

「ぐぅの音も出ねぇ正論パンチやめろ」

 

此処まで言っているタキオンの頼みを断るのはなんとも言えない蟠りが残る。それに友達の為に努力しようとしているウマ娘を放置する程、自分は冷血ではない。

 

「良いだろう、南ちゃんに話を通してやるよ」

『本当かい!いやぁ話してみる物だね、流石はターフの暴君だ』

「それこの場だと褒めてねぇからな?まあ今からだと取り敢えず健やかに成長出来るようにしろ、位だと思うけどな」

『それは、私の出方次第、という奴だろう。その辺りの交渉は自分でやるさ、必要以上に貴方に迷惑はかけないさ』

「だったら取り敢えずフローラの奴に釘差しといてくれ」

『五寸釘辺りの言葉を刺さないときついかなぁ……』

 

姉とは対照的に妹は思い人と仲良くやれていると、分かったら当人はどんな反応をするだろうか……色々と怖いのでそれ以上の想像はしないでおく。

 

『あっそうだ、ついでで良いのだが今度の天皇賞のチケットとか手に入るかい?』

「おい、必要以上に迷惑かけない発言何処行った」

『これは友人としてのお願い、さ』

「ったくこの小娘は……お前は本当にフローラの妹だな」

『これで納得されるのは酷く不快だよ』

 

「―――ハッ!?今、タキちゃんとランページさんが私の話をしているような!?」

「……フローラ、流石に引くわよ」

「おハナさんまで!?」

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