貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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209話

皐月賞が終わったからと言ってウマ娘達の休息は程遠い。皐月賞を走ったウマ娘達には休息はあるだろうが、レースのスケジュールは容赦なく迫って来る。レースの為に調整し、その為にメニューをこなす。場合によっては体調を崩して悪いコンディションで臨まなければならないという事もあり得るのでコンディションはカノープスでは第一優先事項に上げられている。

 

「皆の調子はどうよ南ちゃん」

「良好です、ベストな状態で天皇賞に臨めると思いますよ」

「そりゃ良かった。にしても3200か……ターボの奴マジで走り切るつもりかよ」

 

皐月賞の翌週、メジロ家が目標としているG1レースである春の天皇賞がある。昨年の覇者であるマックイーンは当然のように出走し連覇を狙う、ステイヤーの中でも特に際立って強い存在である彼女に対するように多くのウマ娘が名乗りを上げる。中には同じメジロのパーマーの名前も挙がっている、長距離においてはパーマーもマックイーンと同等に警戒すべき相手、そんなレースにカノープスからはイクノにネイチャ、そしてターボが名乗りを上げている。

 

「スタミナメニューをこなしていますし、長距離の練習も積んでますが……何とも言えませんね」

「やっぱそうか」

「ええ、ドッカンターボでスタミナが尽きる前に走り切るという戦法も余りにも長すぎて通じません。そうなると最早根性の領域になります」

 

ターボの適性距離は中距離、2400でも相当にギリギリで有の2500もかなりの無理をしている。それなのにそれよりもずっと長い3200……これまでの事を考えたらどう考えても到底逃げ切れる距離などではない。だがそれでもターボは出走を譲らなかった。ライバルのテイオーが出るだけではない、勝手に師と仰ぐランページに倣っているとの事。

 

「挑戦するんだ、だそうですよ」

「俺のダートやワールドカップとは大分毛色が違うと思うんだけどなぁ……」

 

それを持ちだされると自分は何も言えなくなるのだが……まあ本気でやりたいと思っているのならば、応援するまでだ。同じトリプルティアラの誼として、声援を送るとしよう。

 

「良かったんですね、メジロ家として出なくて?」

「分かってて言うんじゃねぇよ南ちゃん、3200は俺には長すぎる。80~90程度で走り抜けて勝てる程、あいつらは弱くないよ」

 

ランページは適性距離の関係で今回は見送る事にする、そもそもが渡欧を控えている身なのでそれに備えた練習をする必要がある。渡欧の前に一戦位は日本で走る事も考えてはいるが……それを決めるのは南やスーちゃんだと思っている。

 

「ンでよ、タキオンの事だが」

「ええ、お話は分かりました。と言ってもメニューを作るにしても一度お会いしないと難しいですね」

「だったら天春の時に連れて来てやるよ、チケット取ってくれってせがまれちまってよ」

「おやおや、フローラさんには冷たいのに妹さんにはお優しいのですか?」

「変なもん向けられなきゃちゃんと対応はしてやるがな、あいつ色々と可笑しいんだよ」

 

フローラが愛だの叫びながら行動さえしなければ相応の対応はするつもりだが……本人はそれを否定しながらもそれを行って来るのが一番性質が悪い。自分の事を悪だと自覚していない悪が一番性質が悪いのと同じ、これで認識した上で自覚してくれたのならば気持ち的に楽にはなるのだが……。

 

「まあタキオンは多少ぶっ飛んでるところはあるぜそこは認める、だがまだ個性として許容できるレベルだ」

「じゃあ私は?」

「そりゃ勿論出来ないレベッ―――ギャアフローラァ!!?」

 

毎度のことながら本当にウマ娘の聴覚の良さを掻い潜ってどうやって接近してくるのだろうか、思わず吃驚して隣にいた南坂の影に隠れてしまった。

 

「おまっおま、マジでどっから湧いて出て来るんだよ!?」

「人の事をなんだと……貴方の居る所に私は現れるんですよ、知りませんでした?」

「それがガチなら俺は本気で逃げるぞ、タキオンとの話も無かった事にして」

「すいませんそれされるとマジでタキちゃんに嫌われるので勘弁してください」

 

取り敢えず、南坂はこれからネイチャたちの所に行くので、と一声かけてから去っていく。ランページは身の危険は感じなくはないのだが、今は粘度を感じないので普通に対応する事にする。

 

「今更なんですけど、私達って友達ですよね?」

「友達らしいこと一度もした事ねぇと思うんだけど、一方的に愛だのなんだのって言われて来た記憶しかないような気が……」

「いやまあその……それに付いてはなんかすいません、私ってば感情を言葉に出しちゃうタイプなので……」

「だからってその感情を愛と表現するって何?」

「ほら、憎しみと愛って紙一重って言うじゃないですか」

「えっ俺憎まれてんのお前に」

「まあ少なくとも脳は焼かれてます」

「自分で言うか」

 

遠くで話している二人を南坂は少しだけ意外そうな目でそれを見た。ランページはフローラの事を嫌ってこそいないが避けていると思っていた、だからああして普通に会話できるとは思わなかった。

 

「私にとって、貴方は本当に越えたい目標ですから。元からあった好意的な物と敗北で積み重なった何かしらが反応して愛が形成されたんだと思いますよ、ほらっガンダムにグラハムさんっていたじゃないですか。あれみたいな感じです」

「ハムみたいなもんだとしてもお前のそれからは異様な粘度を感じんだよなぁ……割とガチな方のがあんだろ」

「……まあ有るか無いかでいえばあると思いますよ、だって客観的に見ても貴方って魅力的ですもん」

「何でそういう風に接する事が出来ないかねぇ……」

 

今みたいに普通にしていてくれれば自分だって相応に対応する。頼むから粘度を出さないでくれと言いたい、本気で身の危険どころか死の予感すら感じるのだ。それを感じると自然と身体と精神が過剰に反応してしまう。

 

「でも、タキちゃんとかフラちゃんはこうすると喜んでくれるんですもん」

「そりゃお前実の姉妹とかはそうだろうけど……それを他人の俺にやるか普通、言うなればお前にとっての宿敵みたいなもんだぞ」

「宿敵だからこそより知ろうとしませんか、より好きになろうと努力しません?」

「分からなくも、ないような、分からねぇような……」

 

出来ればわかりたくないというのが本音だろうけど……と内心で思いながらもこうやって腰を落ち着けて話をするのは愛発言以降では初めてだと思う。

 

「取り敢えず、私はタキちゃんの事を宜しくお願いしますと言いに来ただけです」

「……ホント?」

「ホントですよ、これでもお姉ちゃんしてる時は真面目なんですよ」

「じゃあいつもそのモードでいろ、いや居てくれ。俺の安心の為に」

「じゃあ妹になってくれます?」

「クリーク姉さんだけで十分だ」

「それは残念」

 

やっぱり、何処かでフローラに対する苦手意識は残り続けるだろうなぁと思いながらも、少しだけ彼女と仲良くなれた気がしたランページであった。

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