「先日はお疲れ様でしたランページさん、お見事でした」
「やったったぜ」
と、部室でVサインを見せ付けるランページの手には新聞があった。そこにあったのは先日のメイクデビューに関する記事が掲載されておりそこにはデカデカとウイニングライブでウマ娘一人分は高く跳躍する大サービスを行った自分が見出しに使われていた。
『驚異の大逃げ、ターフを駆ける暴れウマ娘!!』
「暴れウマ娘って普通に聞いたら完全な暴言だよね」
「まあ俺のランページって暴れるとかそういう意味合いだから間違っちゃいねぇわな」
「そうなんだ!?ターボ抗議しようと思ってた」
「私も負けていられませんね」
と来月は自分のデビュー故にやる気十分と言った様子のイクノ。チームメイトが此処までの活躍をしたのだから自分もそれに恥じない走りをしなければ……と思っているのだろう、きっとその走りに沿うものが出来ると南坂も信じている。
「改めまして、ランページさんの走りを皆さんで観戦しましょうか」
「おいおい南ちゃん、晒し上げの為に録画でもしてたのかい?」
「違いますよ、こういったレースの後は自分の走りを客観的に分析するという事も大切なんですよ」
そう言いながらもTV中継されていた物を改めて見直す。序盤から一気に飛ばすランページに他のウマ娘はかなり驚いていたのが良く分かる、そしてなんとそのペースのままで最後のスパートまで持たせてしまった事が何よりの予想外だった。
「所謂逃げ戦法のウマ娘でもペースを落として呼吸を落ち着けるのが一般的です、ですがランページさんはそれを一切しなかったので更に他は焦ったでしょうね」
「アタシもそうだけど、そこで距離を詰めたり、射程圏内に捉えるっていうのが定石だからね。でもランったら一切それしないんだから」
「いやぁ行けたから」
そんな理由でやってしまうのだから末恐ろしさを感じる南坂、そしてレースはラストの直線に入った。そこでランページは今までの直立姿勢から一気に前傾姿勢へと変わると更に加速してそのまま逃げ切って勝利をもぎ取ってしまった。
「ラストのこの脚、差し戦法のウマ娘も顔負けの末脚です。逃げて差す、逃げウマ娘としては理想的な走りです」
逃げて差す、これを自分に言われると何だか変な気分になる。これはサイレンススズカに対して言われた言葉である、だが実際に自分はこれをやってのけてしまった。此処まで顕著な結果となるのは予想外だったが……これはこれで最高の結果となった。
「南ちゃん、アンタの目論見通りにこれからのレースじゃ俺は大逃げ警戒のマークを受けるって訳だな?」
「間違いなく受けるでしょうね」
「どゆ事?何か作戦なの?」
とハテナを浮かべるターボにランページは頭を撫でてやりながら答えてあげる事にした。
「確かに逃げは俺の基本的な戦術だけどよ、俺にとってはあくまでの戦術の一つでしかない上に切り札は他にあるのさ。さあターボ此処で問題だ」
「問題!?何々ターボ絶対正解する!」
「そりゃいいな、俺の得意な戦法ってな~んだ」
「えっと……大逃げ、じゃなくて……あっペースを変える!!」
「ピンポンピンポン大正解!」
「やった~!!」
と無邪気に喜ぶターボに正解の景品代わりにレース場で買った飴を上げる、それを早速舐め始めて笑顔になっているターボに安いなぁ……と思いながら微笑ましく見るネイチャとイクノ、そしてこの素直さはこれはこれで不安だなぁと言いたげな南坂。
「ペース変更はイクノとターボのお陰で更に磨いてきたからな、大逃げしたところに追い付こうとする奴とかにも対応出来る。大逃げと思わせての後方策で相手のペースを乱しまくるのも良いなぁ……いやぁ戦術の夢が広がるなぁ」
「ラン、すっごい悪い顔してるよ」
実際問題としてランページの本領と言うのはペース変化の上手さ、南坂もそこに驚きつつもそこを磨かせ続けながらもカノープス全体でそれに慣れる事と対抗策の為の練習をさせ続けている。それでもネイチャは時折その変化に引っかかる、淀みも無く酷くスムーズに行われるそれには意識して取り込まないと無意識的にそれに引っ張られる。今では中々引っかからなくなったが、今度はカノープスで磨いた基礎的な能力で突き放しにかかる。
「では次走は如何しましょうか」
「ん~感覚も掴み切れてねぇし早めに頼むぜ」
「分かりました、それでは―――イクノさんと同じ月にあります中京ジュニアステークスなんていかがでしょうか」
確かに早めと入ったが……まさか一か月後のレースを平然と上げられるとは思っても見なかった。
「正直な事を言いますと、ランページさんとイクノさんはタイプとしてかなり近いと思うんです」
「えっ大分違うってターボ思うよ、ランは姉御系でイクノはクール系」
「違うそうじゃない」
「お二人は経験を積めば積むほどに才能を開花させていく、実戦経験で開花するタイプです。故にどんどん経験を積むべきだと思います」
真面目な顔から放たれる言葉にはかなりの説得力がある、そしてそこまで言われてしまうと自分はこれ以上何も口を挟む気は無くなる。
「それで行くぜ南ちゃん、俺のトゥインクルシリーズはアンタに預けてんだ。アンタの言う通りに俺は走るぜ、どうせお前もだろイクノ」
「ええ。私も全力で駆け抜けます」
「ではその様に調整しますね」
「お~二人ともかっくい~!!」
「いや~本当にカッコいいから何も言えなくなっちゃうよね~」
何とも素敵な先輩だとネイチャは思った。リギルの東条トレーナーやスピカの沖野トレーナーとはやはり毛色自体は異なっているが、南坂トレーナーは本当に優れたトレーナーなんだと思う。この人にシリーズを預けると言い切ったランページの気持ちも理解出来る。
「そう言えばさ、2年の子でどのチームに入ろうが悩んでる子が居るんだけど見学に連れて来ちゃってもいい?」
「ええ、何時でも連れてきてください」
「ねえねえそれって誰なの?ターボも知ってる子?」
「マチカネタンホイザって子なんだけどさ、この前頭をぶつけて鼻血を出しちゃってるところを助けてから繋がり出来ちゃってさ」
この数日後、マチカネタンホイザがカノープスの見学にやって来た。そしてターボとかなり仲良くなったりしたので、カノープスに誘いを掛けてみたらかなりの好感触であった。なので決めるのは今度の二人のレースを見てからにしてみないかと、誘いをかけた所、喜んで見に来ると言ってくれた。そして―――
「ランページ・ゴーストォオオオオ!!!」
「私の計算に、狂いはありません!!」
その月、ランページは2勝目を、イクノはメイクデビューに勝利するのであった。それを目の当たりにした彼女は―――
「マチカネタンホイザです、改めて宜しくお願いします!!」
カノープスに入る事を決めてくれたのであった。
「よ~し、私もここで頑張るぞ~!!えい、えい、むん!」
「ハハッ面白い掛け声だな、よしカノープス全員でやろうぜ!!」
『目指せ、最強カノープス!!えい、えい、むん!』
それからその掛け声は、カノープスが円陣を組んだ時には必ず行われるようになったらしい。
タンホイザ、カノープス入り。
そして、ランページはイクノのような、それに近いスケジュール管理の下でレースを行う事に。