貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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213話

「―――やばかった」

 

尻尾のブラシで梳かす、基本お洒落やらに興味は無いがこの位の事はする。最高の走りというのは常日頃からの手入れで変わる、それを聞いて当たり前のことながら成程と納得したタキオンは丁寧に尻尾の手入れをする。これまではしていなかったが、その言葉を聞いてから日に日に艶が出るようになり、それが気に入ったのか気付けば日課になっていた。今日もそれをやっていると同室のポッケがそんな言葉を呟いた。

 

「何だい随分と陶酔しているねぇ」

 

それだけフカフカなベッドに夢中なのだろうかと思ったが、如何やら違うらしい。メジロ家お抱えの高級ホテルの食事、パフェにも舌鼓をした後に入浴を行ったのだが……そこで露わになったランページの身体に圧倒されているらしい。

 

「だってよ、あれマジで同じウマ娘の身体かよ……あんな、こう……」

 

身体を起こしながらもボディランゲージをしながらなんとか言葉を尽くそうとしているが語彙力が溶けているのかなかなか出てこない。まあ言いたい事は分かるさ、とタキオンは同意を浮かべておく。

 

「腹筋はバキバキに割れててすげぇ筋肉質なのに、なんであんなに……」

「うん、なんというか色んな意味で笑っちゃう身体をしてたねぇ」

 

鍛え込まれた身体をしているのにボディラインは極めて女性的、肌も艶々で張りもあるボンキュッボン。正直言って自分もあんな風になってみたい……という思いを抱かずにはいられなかった。

 

「俺もあんな風になれっかなぁ……」

「気が合うね私もそう願うよ、あんな高身長ならば素晴らしいストライドが」

「そうじゃねえよ!!」

 

そんな風に騒ぎつつも夜は更けていく、明日の天皇賞に胸を弾ませながら。

 

 

 

「しかし凄い眺めだねぇ……ハァ~ハッハッハッ!!見たまえ、人がゴミのようだ!!」

「あってめ、それ俺が言いたかった奴だぞ!?」

「知らないねぇ。というかこういう時はやりたがる事が似るとは……思考が似通っているようで複雑だねぇ」

「うっせ!!」

 

京都レース場のVIP席、特別な観客席にランページとタキオンたちの姿はあった。最初は普通に観戦するつもりだったのだが爺やが手を回してくれていたのかメジロ家として抑えているVIP席の一つを使える事になった。大歓声の中に包まれて観るのも一興なのだが、開けた視界の中でレースを見るのも乙な物だ。

 

「一番人気は変わらずテイオーか……んで2番人気がマックイーン、」

「如何なるんでしょうね」

 

無敗の三冠ウマ娘か、最強ステイヤーの連覇か。世間はこの二つで大きく盛り上がっている。そこに加わる形でターボやイクノ、そしてライアンと言った有力ウマ娘の評判がある。全く以て読めない、特にターボがこのレースをかき乱す一つの大きな要因にもなる事だろう。

 

「あっそうだ、好い加減に姉さんに電話の一つぐらいしてあげないと不味いかな。シスコンな姉さんの事だから調子が下がってるだろうしね」

「おいおいおい……おハナさんからしたら堪ったもんじゃねぇぞそれ」

「どれどれ……不在着信が15件、全部姉さんからだ」

「さっさとしてやれ」

 

フローラのシスコンは筋金入りだ。愛しの妹が応援してくれない、口も利いてくれないとなったら落ち込む筈だ。タキオンも流石に放置し過ぎたと反省したのか直ぐに電話を掛ける。

 

「ああ姉さっ―――『ダギぢゃぁぁぁああああんっ!!!やっど、やっど電話出でぐれだぁぁぁぁ!!』……切って良いかなランページさん」

「気持ちは分かる、すげぇ分かる。今すぐにでも切ってやれと言いたいが勘弁してやれ」

 

繋がった瞬間に聞こえてくる大爆音のフローラの声に思わずスマホを遠ざけ、顔を顰めながらも切ってやろうかな……と考えるタキオンを宥めてやる。

 

「ああうん取り敢えず姉さんうるさい、悪かったから声を絞ってくれ」

『だってだって、全然出てくれなかっただぁもん……嫌われたかと思った……』

「嫌われるという自覚があるならもうちょっと確りして欲しいんだけどねぇ……一応私も姉さんの事は誇りに思っているんだから誇れるような態度を取って欲しいんだよ」

『えっタキちゃんってば私の事誇らしいの!?やっだもぉ~ん♪』

 

「一瞬で機嫌よくなりましたね」

「何時ものタキオンの姉ちゃんだな」

「ああ、平常運航なんだあれ」

 

姉妹仲が悪くなることを心配したが……如何やらお決まりの流れらしい。心配して損した。

 

「こっちはこっちでランページさんと仲良くさせて貰ったよ、ホテルに泊まったりね」

『ランページさんとお泊り、だと……』

「語弊がある言い方はやめてくれないか……カフェやポッケも一緒なんだ、保護者を買って出てくれたようなものなんだ」

『うぅっ……分かってはいるけど、そこはお姉ちゃんがお姉ちゃんしたかったなぁ……』

 

パッと見では何方が姉なのかが分からなくなるような光景だ、中等部ですらないタキオンの方が余程理性的で落ち着いている。

 

「ああうん、VIP席でだが姉さんの事を応援させて貰うつもりだよ。ああ、それじゃあ、頑張ってね姉さん」

 

そう言い残して通話を切ると一際大きな息を吐くとニンジンジュースを一気に飲み干して喉を潤す。

 

「やれやれ……ジャパンカップウマ娘という自覚を持って欲しいよ、これだから自慢出来ないんだよ姉さんの事を」

「一応尊敬はしてんだな」

「当然さ、ジャパンカップは唯のG1ではないからね。それを制した姉さんの事は尊敬しているよ」

 

これまでがこれまでだったが、タキオンはフローラの事を心から尊敬している。ジャパンカップという大舞台を制している事もそうだが、自分という大きな相手を回避するのではなく上回る為の努力を欠かさず立ち向かい続けている精神性を高く評価しているとの事。

 

「客観的に見れば勝てるレースに出るのが当然だろう、だが姉さんは立ち向かい続けている。ハッキリ言ってバカみたいだったよ、だがそんな所が姉さんらしくてカッコよく思えたのさ」

「家族に向ける物にしては随分と辛らつだな」

「これが私さ、真実を考慮せずに行う評論程愚かな物もないからねぇ!!」

 

それについては極めて同意だ。自分の活躍を適正以上に評価して他を下げる様な記者連中に是非聞かせてやりたい言葉だ。

 

「本当にお前姉ちゃんに容赦ねぇよなぁ」

「姉さんがもう少し、落ち着いてくれたら容赦するんだがねぇ」

「気持ちは分からなくはないですけど……あれだけ泣かれるんですから上手くやらないと」

 

同級生故にフローラの事を分かっている二人が少しは扱い方を変えてあげた方が良いと忠告するが、肝心のタキオンはフローラがもっと確りしてくれたら考えても良いと袖に振る。本当にどっちが姉何だか……そんなあれこれをやっていると、時間がやって来た。いよいよ天春出走だ。

 

「さてと、誰が勝つかな。マックイーンか、テイオーか、それともライアンか、ターボか……誰が勝っても可笑しくない3200m、春の京都天皇賞。長い長い旅路に漕ぎ出す優駿達、制するは名優か、それとも帝王か……」

 

そんな煽り文句を言ってみる中で行われていくゲートイン、全員が良い顔をしている。独裁者が見守る天皇賞、どんな結果になるのか、期待と不安、様々な思いが入り乱れる中、遂にそれが―――スタートした。

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