「無理はしすぎんなよ~フラワー、お前さんは俺と対照的なんだからな~」
「だ、大丈夫です~!!ランページにご協力して貰ってるんですから、私も、頑張らないと~!!」
「無理して頑張って身体が壊れたら元も子もないって事を分かれよ~。バクちゃんにゼファー、二人から見て無理そうだったら直ぐに止めてやってくれよ~」
「委員長にお任せを~!!」
「英風の赴くまま、光風の如く導きます」
自分の事もしつつもフラワーに付き合っているランページ。本来ならば彼女のオークスに向けての練習、ではなく自らの海外への挑戦に向けて本腰になるべきなのだが自分を先達として頼って来たくれた彼女を無下にする気はなく、非常に協力的。そしてターボが行ったスピードを長時間維持出来るようにもしつつ、スタミナを鍛えるというトレーニングをバクシンオーとゼファーと共に行わせている。
「しかし……ランページさんのメニューも中々の完成度ですね」
「そうかい、先生が良かったからねぇ」
「恐縮です」
一応南坂にチェックはして貰ったが、フラワーに関するデータを彼女のトレーナーから貰って軽い修正を受けた程度でそのまま採用されたと言ってもいい。当人曰く、これまで南坂から与えられたトレーニングを参考にしただけとの事。
「トレーナーとしての才があるのかもしれませんね」
「一緒に走ってトレーニングするトレーナーか、俺達の側からしたら確かに頼りになるかもな。何せ間近で自分の走りを見て貰えるんだからな」
「トレーナーとしてもそうなると色々と見れるところが増えるので利点も多いですね」
トレーナーか……そういう進路もあるのだろうか、と思ったがトレーナーになる為の試験はべらぼうに難しいので自分では受かる気がしない。そもそもトレーナーは自分向きなのかというのもよく分からない……まあ現役引退したら考える位にしておこう。
「そういえば、かしわ記念ではダイナさんが勝ちましたね」
「ああ。この前も電話で話したよ」
ドバイワールドカップを走った日本組の一人、砂の超特急ことアメイジングダイナ。彼女は自身に話していたスケジュール通りにかしわ記念に出走、見事に1着をもぎ取った。しかもその際のタイムがレコードタイムとなる1:35.8、ドバイでは7着という悔しい結果に終わったが、世界の舞台で日本の代表の一人として走った実力は確かだったことを見せ付けた。
「レディはレディでもうアメリカで走ってんだろ」
「ええ。少し前にG1のアップルブラッサムHに出走してますね、なんと2着の好走です」
「うおっマジか、ダートの本場で2着かよ」
「ええ。日本から女侍がハナ差まで首を刈り取ろうと迫ったと実況が流れたそうですよ」
「あいつ騎士だろ」
女騎士なのに女侍とは……まあ日本という出身をアピールするには良いのかもしれないが……首を刈り取ろうとはなんと物騒な……まるで妖怪首おいてけみたいな言い草ではないか。だが……同じレースを走った仲間が順調な滑り出しをしていると分かると此方も嬉しくなってくる。アルメコアから聞いたが、ダイナとレディが大した事無いなんて言われ方をしていたらしいが、これでもうそんな事は言えないだろう。
「あ~ったくわかりやすいな俺ってば……二人の活躍を聞いちまったらなんか昂って来ちまったぜ……」
「走りたくなりましたか?」
「正確に言えばレースをな、あ~やっぱなんか走るか?」
「駄目よランちゃん、海外遠征中は其方に集中よ」
そんな言葉を零しているとお淑やかだが力のある言葉が飛んできた。最近中々忙しくて顔を出せなかったスーちゃんがやって来た。
「あらっスーちゃん、なんかやらなきゃいけない仕事があるって聞いたけど大丈夫なん?」
「何とかね、折角だからずっと先の分も前倒しにやったの。これで今年いっぱいは時間を作れる事になるわね」
「という事は……?」
「そう、ランちゃんのトレーナー業に専念できるわ♪」
海外遠征最大の懸念だったスピードシンボリのスケジュール調整という最大の壁が漸く取り払われた、これで海外でのトレーナーに専念出来る。つまり今からでも渡欧出来るという事が意味される。
「う~ん、スーちゃんには悪いけどせめてダービーは見ていきたいんだけど……」
「大丈夫よ。6月の頭辺りに渡欧するスケジュールを組んでるから、私もダービーは見たいもの」
「「だよね~♪」」
イエ~イ♪とハイタッチする二人、本当にどれだけ相性がいいんだろうか……実の孫よりもずっと仲良さな感じに南坂は苦笑いしつつも確かにシリウスはこのテンションにはなかなかついて行けないな、という事を理解する。
「にしても、スーちゃんがやらないといけない仕事ってどんなのがあるん?天皇陛下との会食とか?」
「またそんな事を……流石にそんな事が」
「それも無い訳じゃないわね」
「あるんですね」
流石は日本が誇るウマ娘の名家だ。だが実際に取り組んでいたのはもっと内面的、自分の家についての事だった。
「アーちゃんから聞いてると思うけど、メジロ家内にもごたごたがあるのは知ってるわね?」
「俗物がうんたらかんたらってあれっしょ。お婆様は対処終わったとか言ってたけど」
「実はウチにも居るのよねぇ―――俗物が」
その時、ほんの僅かな間だけ彼女の声色が変化した。低く冷たい、冷淡で冷酷な女傑の声へと変わっていた。南坂ですらFBI時代の時の事を思い出してしまい、思わず背筋に冷たいものを感じてしまった。
「何処にもいるもんなんだな、そういうのって」
「ええ、ウチの先代当主なんてよい物ではなかったからね」
「先代てぇっと……今が会長のご両親だっけ」
「そう、私的には私の後継で今の当主のルーちゃんのお父さんの先代ね」
能力的には優れていたが、如何にもシンボリ家の繁栄という点に注力し過ぎており、シンボリ家からとあるウマ娘を勘当するという行為までしてしまった。その為に早い段階で当主の座から外されたという経緯がある。
「んじゃその先代さんが俗物」
「正しく言えばその信奉者かしらね、優れた当主ではあったのよ。でも当主はそれだけでは務まらない、人間的な部分が欠如していたのよ。当人もその事は確りと認めて、改める為に今は九州の方のトレセンで一からトレーナーをやってるの」
そんなウマ娘というのはシンボリとしては寒門に当たるらしく、加えて父は行方不明で母は事故で亡くなったのに勘当されてしまい現在はイギリスの方で走っているとの事。それを聞いてランページは思わず、自分に似てるなぁ……と思っているとスーちゃんは背中から彼女を抱きしめた。
「そうね、私はそんなあの子の事を貴方に重ねていたのかもね……あの時に確りと手を回していれば……って後悔をもうしたくなかったから」
「あんがとスーちゃん。ンで俗物は何とかなったん?」
「ええ。その子がイギリスで活躍しだしたから何とかシンボリに戻せないかって勝手に動こうとしてたのよ、全く恥知らずもいい所ね」
その話を聞いて、もしかしたら渡欧したら自分はそのウマ娘と戦う事になるのかもしれないな……という予感を抱きながらもランページは空を見上げた。この遠い空の向こう側で行われるであろうレース。彼女はそこに現れるのだろうか……
「その子って、どんな名前なんだ?」
「え~っとね名前は変えちゃったらしいのよね、確か今は―――」
『セブン、時間だ』
『ああ。分かった、M』
オルタナティブセブン。それが、彼女の名だ。
天羽々矢様より、オルタナティブセブンを頂きました。有難う御座います!!