「ドオオリャアアア!!!」
「さあタイマンだタイマン、タイマンをやるぞぉ!!」
「私もいるって事、お忘れなく!!」
ターフを駆け抜けていく三人のウマ娘、カノープスに所属するドラグーンランスことドララン、ヒシアマゾン、サクラローレルの新人三人が来年のデビューに向けて毎日の研鑽をし続けている。本当に三人とも個性に溢れた走り方をする、ドラランは先行型で自分と真逆でピッチ走法で小回りの利く走りで自在にコースを変えて相手にプレッシャーをかける事が得意。ヒシアマゾンは追い込み、後方から剛脚の末脚で全てを抜き去る。ローレルはレースの流れを見極め、最適なタイミングでスパートを掛けるというある意味で何処かターボに似ている。
「ゼリャアアアア!!!」
「にしても……すげぇ走り方だなぁドララン……」
「凄い迫力ですね……」
隣のエアグルーヴも思わずそんな言葉を口にする程にドラランの走りは迫力に満ちている。スパートを掛ける際に声を上げて走るというのは別に珍しくも無い、声を出すと一時的に身体のリミッターが解除されて強い力を発揮出来るというのは有名な話だ、だがドラランの場合は声だけではなく顔も凄い。鬼気迫るというか喰らい付くような迫力がある。
「ッシャアアッ!!アタイの勝ちだぁぁ!!」
「フウッ……クビ差で2着ですか」
「ハナ差で3着ぅぅぅ!!!悔しい!!」
ゴールを通過したそれぞれは用意していたゴール板に表示された自分達の番号を見てそれぞれの順位に一喜一憂する。今回の勝者はその剛脚のキレ味を発揮したアマゾンだった。
「お疲れぃ~アマちゃん、いいタイミングでのスパートだ。コース取りも良かったが、それ以上にドラランのプレッシャーに屈せずに跳ね返したのが利いたな」
「何時も自分自身とタイマンしてるからね。誰か以上に負けられない自分と戦い続けてるからこそ、誰と戦っても負けない自信があったよ」
「そりゃ何よりだ、ドラランも惜しかったな」
「ぢぐじょぉ~……アマさんへのプレッシャーにムキになってローレルさんへの備えが疎かになっちゃったぁ……」
「私はその隙をついた、という感じです」
ドララン曰く、叫ぶのは自分が必要以上に熱くなるのを防止する為で一種のセーフティ機構。本当に熱くなってしまうと途中から完全に黙ってしまうのだが……今回はゴール前に黙ってしまったのが自分でも分かったとの事。
「ローレルも大分スパートの質が上がったな、脚も少しずつ良くなってるだろ」
「はい。トレーナーさんが作ってくださいました体質改善メニューを毎日やってますから」
ローレルもタキオンやアルダンと同じようなガラスの脚と言われるような脚部不安を抱えてしまっている。その為に走り方を工夫しなければ脚に負担を掛けすぎてしまい怪我に繋がってしまう、なので南坂はその可能性を0に近づける為のメニューを作成しカノープスに加入してからずっとこなして貰っている。その効果は徐々に出始めており、ローレルの身体は少しずつではあるが丈夫さを得始めている。
「だからって無理はし過ぎるなよ?あのメニューはデビューする年も考慮してるからな、もどかしいだろうけど我慢してくれ」
「大丈夫ですランページさん、この位へっちゃらです。そうじゃないとブライアンちゃんのライバルなんて言えませんもん」
「その意気だ。ンでドララン……って大丈夫か?」
「な、何とか……」
一番ダメージが多いドララン、彼女も彼女で課題は多い。持ち味も強さも持ち合わせているが、それを理解してるが故にそれを跳ね返させるとムキになってしまう所を何とか抑えなければ。
「ンで、誰と走ってくれんだい?」
今回走った1600mの模擬レース、これはランページの調整も兼ねておりその中で実力が確かなメンバーと走ってくれと南坂から言われている。ランページと走れるという事もあって三人ともやる気十分、そして当然1着であるアマゾンは自分だろうなぁと思っているのだが……これは着順で決める訳ではない。
「当然―――アマちゃん、ローレル、ドラランの全員採用だ。30分後に始めるから準備しとけよ」
「ハハッ!!やっぱりねぇ先輩ならそう言ってくれると信じてたよ!!」
「やったっ♪」
「やったぁぁぁぁっ……!!」
気風良く笑うアマゾン、ローレルは小さくガッツポーズをし、ドラランは喜びを全身で表現しつつもそのまま後ろへと倒れこんだ。
「おいおいドララン、そんなんで走れるのか」
「休憩すれば何とか……ごめんアマさんとローレルさん肩貸して……」
「全く世話が焼けるねぇ……ほら」
「さっ大丈夫ですか?」
二人の手を借りて休憩の為に離れている三人を見送るとランページは自分のシューズに蹄鉄を打ち始める、それを見続けるエアグルーヴだがそんな二人に一人の男性が近づいて来た。トレーナーバッチを付けているが、南坂ではない。足音に気付いてエアグルーヴが後ろを向くがその人物を見て少しだけ落胆したように息を吐く。
「何だ貴方か……」
「よっお疲れさん、新人なのにこんなチームのサブトレーナーに就任しちまってご愁傷さん」
「アハハハッ……まあ良い経験だと思ってるよ」
少し草臥れたような顔を作りながらも力なく笑っているのは新人トレーナーの佐々田。あのトレセンの試験に一発合格した有望株、将来も期待されていて何処かのチームのサブトレーナーとして経験を積もうとした所を南坂からサブトレーナーの誘いを受けた。
「とあるチームがサブトレーナーを探しているって言ってたから誘いを受けたらまさかカノープスなんて思わなかったよ……若葉マークにはちょっときつい研修先だね」
「だな。人数も多いしメンバーがメンバーだからな、まあ諦めてくれ」
「そうするしかないかなぁ……」
溜息混じりに肩を落とす佐々田、このチームのサブトレーナーを志願するトレーナーは他にも居たのに敢えて新人を起用したのは南坂の事だからきっと何かあるのだろう……が、そんな姿にエアグルーヴはムッとしながらも少しだけ強く地面を踏みしめた。
「全く、大人なのに何だその頼り無さげな顔は。私達ウマ娘が頼るトレーナーがそんな顔では私達はどうすればいいんだ、貴方はあの南坂トレーナーからスカウトを受けたんだぞ。少しは背筋を伸ばして堂々としたらどうだ、全くたわけている」
「か、返す言葉も無い……」
まだ中等部のエアグルーヴは多少加減はしているが、それでも確りと叱責をする。それを受ける佐々田は正論故に返す言葉もなく、唯々それを受け止めるしかない。そんな光景にランページは思わず笑った。
「な、何かおかしいですか……?」
「いやなに、案外お前さんらは良いコンビになるかもな」
「それはありません!!私は専属トレーナーを取るなら、南坂トレーナーのようにもっと確りとした人が良いです!!」
「そ、そんなハッキリ言うか……」
だが、自分からするとトレーナーに対してたわけと零す彼女の姿はアプリ版の姿と如何しても被るのだ。意外に相性はいいのかもしれない。それに実力が足りないというのならば問題はない、何せこのカノープスのサブに付いたのだから否が応にも実力は付いて行く。
「さてと、俺もウォームアップするか……佐々田ちゃんタイム計ってくんね?」
「分かったって俺は佐々田ちゃんなんだ……」
「あっいや?それなら……たわけ?」
「いやそれニックネームじゃないよ絶対!!あと、君が言うと定着しかねないから勘弁して!!」
「だったら努力すればいいだけの事だぞ、たわけ」
「ほら早速定着した!!」