貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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223話

「にしても、荒唐無稽な作戦もあったもんだぜ……タンホイザなんて基本差しか先行だろ」

「大丈夫です。逃げてくださいとは言ってません、前に出るブルボンさんとの距離を維持し続けてくださいと言っただけです」

「それはそれで如何よ」

 

『絶好のスタートを切ったライスシャワーとマチカネタンホイザ、その後方から迫るのはミホノブルボン、が今二人を抜いて先頭に立ちました。先頭はミホノブルボン。1バ身離れてライスシャワー、そこから半バ身にマチカネタンホイザ』

 

最高のスタート、ゲートが開いたと同時にスタートして先頭に出るのが今回の作戦の第一段階。その為に二人にはスタートが得意でもあるランページと抜群のスタートダッシュを行えるターボに協力を求めた。ブルボンもスタートは良い方だが、それを上回るスタートで先頭を一旦奪う事で流れを開始する。

 

『このままミホノブルボン、2400mを逃げ切る事は出来るのか。後ろにはライスシャワーとマチカネタンホイザが控えております、今か今かとチャンスを伺っている二人、一体何時その脚が輝くのでしょうか。しかしミホノブルボンのハイペースの逃げ、それにも関わらず二人はピッタリと付いて行けている。これには場内からもどよめきが隠し切れません!!』

 

逃げ続けるブルボンだが、ライスとタンホイザは決して彼女を逃す事はない。

 

「付いてく、付いてく、付いてく!!」

「まだまだァ!!」

「―――想定以上ですが、修正範囲内です」

 

これには流石のブルボンもある程度の驚きを持ったが、まだまだ問題ではない。結局のところ、最後にゴール板を最初に駆け抜けた者こそが勝者なのだ。途中の結果なんて気にする事はない、自分は自分の走りをする、自分のマスターである黒沼と共に築き上げたこの走りで。

 

『半分を過ぎた日本ダービー、三人のウマ娘が先導する形となっておりますが此処から徐々に動きを見せ始めるウマ娘達が出てきます。先頭は未だミホノブルボン、ライスシャワー、マチカネタンホイザですがミホノブルボンとの差を維持し続けております』

『此処まで張りつかれるとペースが乱れると思うのですが、流石に乱れませんね。このハイペースでそれを維持し続ける二人も凄まじいです』

 

「南坂め……そういう手段を取って来たか、小癪な奴め」

 

そう言いつつも黒沼の表情はまるで好敵手を見つけたかのように嬉しそうだった。事実として嬉しい、これでブルボンは更に気合が入る事だろう。後ろの二人によってブルボンは更に進化する。

 

 

「(まだまだ、行ける……!!)」

「(余裕はある、行ける行ける!!)」

「(お姉様)」「(ターボ)」

「「(有難う!!)」」

 

この日の為に対策、それはつまり―――スタートの練習とトップスピードのランページとターボに付いて行くという物。極めて単純な理屈、相手が速い逃げを打つのならばそれに負けないように速いペースに慣れるだけでしかない。幸いしたのが二人はステイヤー故にスタミナは高い、ペース配分に慣れればこの戦法を取る事は十分に可能。

 

『さあ第4コーナー!!此処から有力ウマ娘達がブルボンに襲いかかる!!さあ直線だ、府中の直線は500m!!』

 

最終直線。此処で多くのウマ娘達が猛スパートを掛ける、それはライスとタンホイザも同じ事。此処までブルボンとの差を維持し続けてきた二人が遂に全力で地面を蹴った。

 

『残り400、ブルボン此処からは未知の世界!!未知の世界!!此処でライスシャワーとマチカネタンホイザだ、差を維持し続けていた二人が遂に牙を剥いた!!ブルボンとの差を縮めに掛かる!!さあどうなる、ブルボンは逃げ切れるのか!!行けるのかブルボン!!?並んだ、並んだぞ!!さあ残り200、2200を通過した!!!』

 

「ううううぅぅぅ!!!」

「やあああぁぁぁ!!!」

「グゥ……!!!」

 

必死に駆け抜けるブルボン、その表情には焦りの色が見え始めていた。何故ならば既に切り札とも言える全身走行を切っている、それなのに二人を振り解く事が出来ずにいる。自分がシンザン鉄で鍛え上げていたように、二人も自分に出来る事を精いっぱいにやり続けていたからこその今、その経過の凄まじさに一瞬の恐ろしさを覚える。あの温和で大人しいライスの殺気のような闘気とタンホイザの叫び、それを感じて自分の中に熱さが漲って来た。

 

「私は、それでも―――負けないっ!!」

 

サイボーグとさえ表現されるブルボン、黒沼のスパルタトレーニングにも機械のように応え続ける姿から故の呼び名―――だが、今日ばかりは彼女はそれを捨て去った。内から沸き上がるその情熱に身を預けたまま、思いのままに声を上げて疾駆した。

 

『ブルボン粘るブルボン粘る!!未だ横一線!!残り100m、第59回日本ダービー勝利の栄冠は誰の手に!!?』

 

「うううあああああっ!!!!」

「やあああああああっ!!!!」

「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

三人の叫びが木霊する、誰が勝っても可笑しくないデッドヒート。誰一人安堵など出来ない、熱くならずにはいられないぶつかり合いがそこにあった。誰もが、その勝負を永遠に見ていたいとさえ思う程の激戦、その勝者を目に焼け付けようとした時―――ゴール板を駆け抜けた。横一線の激戦が、終わりを告げた。一体誰が勝者となったのか、ダービーウマ娘の称号を手に入れたのは一体誰なのかという思いに応えるように実況のアナウンスが府中に木霊する。

 

『勝ったのは―――ミホノブルボンだぁぁぁぁ!!!ハナ差で、ハナ差でミホノブルボン!!!6戦6勝無敗の二冠ウマ娘が誕生しましたぁぁぁぁ!!2着はライスシャワー、3着はマチカネタンホイザ!!!そしてタイムが……2:24.5!!レコードでダービーを制しましたミホノブルボン!!!』

 

「後、少しか……」

「惜しかったですねぇ……」

 

ランページと南坂は思わずそんな言葉を口にしてしまった。本当に後僅かだった、それほどまでに僅差の激戦だった。だがこれ程までに称賛に値するダービーは錚々見られるものではない。

 

「でも凄かったぞライス~!!マチタン~!!」

「凄かったよ二人とも~!!」

「素晴らしかったです二人とも~!!」

「うあああああ、感動じだぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「くぅぅぅぅっスゲェ燃えちまったよ先輩方ぁ!!!最高のタイマンだった~!!!」

「本当に、本当に凄かったです!!」

「最高のレースでしたよ~!!」

 

カノープスの皆は溢れんばかりの言葉で二人の走りを称賛した。そしてそれに続くように

 

「ライス~最高の走りだったぞ~!!」

「次は菊花賞だ~!!」

「今度こそ勝ってくれよ~!!」

「タンホイザもよく頑張った~!!!」

「ライスちゃんファンクラブなのにタンホイザちゃんのファンにもなっちゃったよ~!!!」

「俺もだ~!!!」

 

青い薔薇の会の皆も大声で心からの声援を送った、ブルボンの勝利を祝福する声に負けないような大声で。それは二人にも届いていたのか、ライスとタンホイザは顔を見合わせて、笑顔で手を振った。

 

「マスター……」

 

ブルボンは黒沼へと視線を向けていた。今回、自分は黒沼のオーダー通りの走りをしていなかった。それを超えるペースで走っていた、紛れもない違反だ。だが黒沼は口角を持ち上げて頷いた。それを見たブルボンは雷に打たれたかのような衝撃を受けながらもその笑いを真似するように口角を持ち上げてから頭を下げてから、声援にこたえるように手を振った。

 

「精神は肉体を超えられる……そうだブルボン、その熱い想いがお前の限界を打ち破った。お前はもっともっと強くなれる」

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