「う~ん……如何見ますランページさん」
「これ以上どうしろと?」
「ですよね」
カノープスの部室。規模的にはリギルのそれと変わらぬ一流チームの部室の大きなテレビに映し出される日本ダービーの映像、ラストの直線でのスパートからゴールまでを全員で見つつ、南坂はランページに意見を求めるがどうしようもないじゃん、という意見に同意する。
「えっいや先輩なんかあるんじゃないですか?ほらっ作戦が急すぎて準備が足りなかったとか」
「そういう言葉位しか出ねぇのはどうしようもないって事なのよ。仕掛けのタイミングもスタートダッシュも完璧、ブルボンを前に出してからのペースも良好、最後には残していた末脚爆発で抜きに掛かった。それでも抜ききれなかった、なるべくしてそうなった。それだけだ」
確かに作戦は急だった、だが十二分に間に合わせるだけの練習と努力を重ねて来た。それなのにブルボンはそれを上回って来た、実力的にはライスとタンホイザは互角と言っても良い。2400という戦場も二人に味方をしている、地の利はあった、となると他に上げられる敗北の要因は時の運とブルボンが持っていた底力としか形容のしようがない。
「私もそう思う、あの時ブルボンちゃん叫んでたもん」
「うん。はぁぁぁぁっ!!って言ってた」
「あのブルボンが!?マジで!!?」
ターボの驚愕も分かるが、それを聞いてランページは一番納得が行った気がする。黒沼トレーナーの理念にはこんな物がある。
「黒沼の伯父貴言ってたもんな『精神は肉体を超えられる』って……つまり、今回それが起きたって事か」
「つまり―――根性論、って事かい?」
「ただ闇雲に根性だしてやれ!!って古臭い唯の根性論じゃねえぞ、鍛錬に次ぐ鍛錬で肉体と共に鍛え上げた精神が肉体を引き上げやがったんだ」
「全く以て、強敵ですね」
困ったように苦笑する。何故ならばブルボンの底力を引き出したのはある意味2人なのだから、あそこまで追い詰められた事でブルボンの闘志に火がつけてしまったのだろう。それ故か黒沼からもお礼の言葉が来ていた。
「『今回ブルボンは二冠になった、だがブルボンは三冠以上の価値のあるものを手に入れた。最高のライバルを、感謝する。だからこそ、次の菊花賞は貰う。ライバル達に勝つ為にな』ですって」
「ラ、ライスがブルボンさんのライバル……!?」
「はわわわわっ……わ、私もライバルって言われちゃった……」
ライバル、二人は慌てているが世間的にも二人がブルボンのライバルとして認識されているのは事実。今回のダービーでも二人の事を称賛する記事は数多い、それだけ自らの力を示したという事だ。
「益々、菊花賞が楽しみですね」
「ホントだねぇ~アタシとテイオーの菊花賞よりも凄いレースになるかも」
「うおおおっ楽しみになってきた~!でもあたしはその前にデビュー戦で勝つぞ~!!」
と様々な声が上がる中、ランページは思わず顔を机に埋めながら溜息を吐いてしまった。
「ど、如何したのお姉様?」
「ぁぁぁぁっ……なんで俺はライス達の力になれないんだぁ……不幸だぁ……」
「あっそっか、ランはもう海外に行っちゃうんだったね」
「っそがぁ!!だけど絶対に菊花賞は絶対に見てやるぅ!!!」
予定スケジュール的にも菊花賞を見るのは問題ない筈……余計な事をしなければがつくが。それまでにライスの力になれないのがお姉様として不甲斐無い……
「お姉様、ライス頑張るから元気出して。凱旋門賞、勝ってね」
「任せとけ。凱旋門制覇して日の丸を掲げてやるぜ」
「一瞬でキリッとしやがりましたよこの暴君様」
呆れたような声を出すネイチャ、こんな姿を後輩たちに見せていいのかと……と思ったのだがカノープスで過ごしているのだからこれはこれで既に見慣れているような物。最初こそ皆驚いていたが親しみが沸くと受け入れられている。
「凱旋門かぁ……くぅ~現地で見たいねぇ!!」
「分かります~ランページ先輩の勇姿、生で拝みたいですよねぇ……」
アマゾンとドラランの意見には皆が同意見だった。望む事ならば生で見たいというのが信条、だが自分達には自分達のレースなどがあるのでそれは無理という話。幸いなのがランページのレースは既に生放送が決定しているという点だろう。
「安心して放送を待ってろよ、なんだったらインタビューでおはこんハロチャオって言ったるわ」
「貴方ならば本当に言えるでしょうね」
「んじゃまっ―――そろそろ俺は行くか、スーちゃんとの打ち合わせがあるんでね」
これから数日は渡欧の為に本格的な準備に入り、そのままヨーロッパに飛ぶ事になっている。生憎、エリックは都合が会わないという事で途中からの合流という事になっているが―――向こうでの護衛は心配はしていない。何せ王族からの直々のオファーがあったからそれを受ける事にした。
「安心して行って来てください、お土産楽しみにしてますから」
「応」
トレーナーと拳を数回ぶつけ合ってからガッチリと手を組んだ。互いに笑顔でいる中でランページは一瞬悪い顔をして、南坂を抱き寄せた。周囲から思わず驚きの声が漏れる中、静かに彼だけに告げる。
「皆の事、頼むぜ」
「ええ。任せてください」
離れるとハイタッチをする。そして部室を出る前に
「土産話、期待しとけよ」
とウィンクをして部室から退出していった。その背中に向けて皆が行ってらっしゃーい!!という大きなエールが送られた。どんな応援よりも皆のその言葉が一番気合が入る。そのまま駐車場の自分のインプに乗り込むのだが……
「フフッ気合十分ね」
「当りの前よスーちゃん」
助手席には何故かタピオカミルクティーを啜っているスーちゃんの姿があった。何故そのチョイスなのかは極めて謎だが……取り敢えずキーを回す。
「それにしても驚いたわよ、アイルランドの王室と繋がりがあるって聞いた時は。如何やって知り合ったの、教えてよ」
「いやさ、天皇陛下がレース見に来た時にさ、お忍びで来てたアイルランドの姫殿下と会って仲良くなったんだよ。我ながら俺の人望ってどうなってんだろうね」
「羨ましいわぁ」
「変わってあげられるもんなら変わってあげたいわ」
遂に渡欧!!
そして、ヨーロッパ滞在中はアイルランドの王族のお世話になる模様。全力でお世話になっていくスタイル。