「またお会いできたこと、光栄の極みに御座います姫殿下」
「うむ、苦しゅうない」
ワザとらしく膝を付きながらも頭を下げる自分にニコニコ笑顔で乗っかりながら手を差し伸べる、それを取ってキスをする振りをする。即行の寸劇なのに息がぴったり過ぎる光景に驚く者も居るだろう、だがそれが終わると直ぐに笑顔で抱き着かれ、それに付き合うように抱き留めながら回転する。
「ランページさんお久しぶり~!!」
「元気だったかな~お転婆姫殿下~SP隊長さんに迷惑かけてないか?」
「かけてないよ~ねっ♪」
「はっはい……えっと、殿下極めてお元気でしたので」
其れだけで苦労を察した。矢張りお転婆なのか……とも思うが本当の意味でお転婆なウマ娘も一緒なのだ、これからが大変だ。
「あらあらあら、ランちゃんってば本当に仲良しなのね」
「私とランページさんはしんゆ~なのです!!」
「あらそうなの~それじゃあ、ランちゃんのトレーナーである私は如何かしら?」
「勿論しんゆ~♪」
「キャァ~とってもかわいい~!!」
幼いながらも胸を張ってドヤ顔をする姿に耐えきれずに破顔して抱き着いて頬擦りするスーちゃん、本来ならばこんな場面は誰かに見られたらまずいのだが人払いがされているので問題はない。但し周囲の黒服SPウマ娘達は気が気ではないのか、冷や汗を流しているようにも見える。
「つう訳で、こっちにいる間は世話になるぜ―――ファイン殿下」
「任せて♪お父様もお母様も笑顔でOKサインをくれたから♪」
遂に海を越えてヨーロッパへとやって来たランページ、だが彼女が訪れたのはイギリスではなくアイルランド。何故そうなのかと言われればアイルランド王室のファインに渡欧するならウチに来ない!?と誘われたからに尽きる。最初はアイルランド王室が所有するイギリスのホテルに宿泊などを考えていたのだが、折角なので直々にお世話になる事となった。
「SP隊長さんも世話掛けるな」
「いえ、天下のメジロランページ様をお客様としてお迎え出来る事に陛下もお喜びでした。我々もSPとして力を尽くさせて頂きますゆえ、どうぞアイルランドをお楽しみください」
『あの、あの挨拶って言って貰えませんか!?』
「お前達!?すいません部下が失礼な事を……!!」
隊長が挨拶をしている後ろで他のSPウマ娘達が思わすリクエストを出してしまった。如何やらファインが配信を見ている時も一緒になってみたりしていたらしく、ファイン直属のSPだけではなく皆ファンとの事。
「折角だ、ファインのお姉さんもいる前でやらないと不公平、ですよね姫殿下」
「フフフッそうだね、お姉様もランページさんに会えるのを待ってる筈だもんね。皆もその時で良いよね~」
『勿論です!!』
「愉快な皆さんね、楽しいヨーロッパ滞在になりそうだわ」
「そ、そう言って頂けて有難いです……」
他がワイワイと賑やかになっている影で思わず胃を抑えてしまうSP隊長、部下がこんな感じでこの先大丈夫なのかという不安やらが一気に押し寄せて来る。だがSPの隊長としてランページの護衛も任せられるのは名誉な事でもあると自分を奮い立たせる。
「それではお連れ致します」
「宜しく頼むな」
「……それとあの、殿下余りランページさんにご迷惑をお掛けしては……」
「気にすんな気にすんな。子供はこの位元気な方が良いってもんさ」
「良いってものさ~♪」
ランページに肩車をして貰って大喜びなファイン、本当にこの先大丈夫かなぁ……とSP隊長こと、ピッコロプレイヤーは天を仰いでしまった。
ファインモーションはアイルランド王室の姫殿下。そんな彼女の家にお世話になるという事は当然王室が住んでいる場所に世話になるという事、SPに守られながら向かった先は巨大な城だった。メジロ家の屋敷などで慣れているつもりだったが流石に城の巨大さ、敷地の広さに驚いた。
「流石にこれは吃驚ね~」
「の、割にはスーちゃん落ち着いてね?」
「人生経験の差かしら」
流石のスーちゃんも驚いているらしく、改めて王室の世話になる事の凄まじさを感じるのであった。
「お待ちしておりましたメジロランページさん、そしてスピードシンボリ殿。ようこそアイルランドにお越しいただきました」
「日本ではファインがご迷惑をかけてしまったようで、今回はその時のお礼を含めてのおもてなしをさせて頂くつもりです」
「光栄の極みです」
「此方こそ、ご迷惑をおかけいたします」
ファインの両親との目通りはランページが想像していた以上に緊張もせずに対応する事が出来ていた事に自分も驚いていた。天皇陛下に加えてドバイの首長とも話した経験が生きているのか、全く以ての平常心だった。これは喜ぶべきなのか感覚がマヒしていると嘆くべきなのかと真剣に悩んだ。
「さあ、堅苦しい挨拶はこの位にしましょうか。ファインからお話を伺って以来、私たち家族は貴方の大ファンなんですよ」
「配信も拝見させて貰ってるんですよ、後で是非サインと写真撮影をお願い出来ませんか」
「俺なんかでよければ喜んで」
「スピードシンボリさんとも是非詳しくお話をしたいですわ」
「私程度でよければ、努めさせて頂きますわ」
「あらっ対面なんて気にしなくていいんですのよ。スーちゃん、とお呼びしても宜しいかしら?」
「あらっそれなら私も遠慮なくいきますわね♪」
と、ファインのお母さんが砕けた瞬間にスーちゃんも普段のテンションで進行を始めた。この適応力の凄さ、流石である。
「ランページさん、お部屋まで案内するね!お父様、良いでしょ、良いでしょ!?」
「フフッああ勿論だよ、ランページさんファインのお相手をお願いします。この子も貴方と早く会いたい会いたいと毎日言っていた物ですから」
「分かりました」
なんというか、王族と聞いていたからもっと厳格なイメージがあったがファインの両親というのも頷けるだけの穏やかというか温和がそこにあった。早く案内したがるファインに手を引かれながらもスーちゃんと一旦分かれて、SP隊長と共に自分の部屋へと行く事になったのだが―――
「ああっ……私は、私はこの日を待ち続けていた……そして今日、私は運命と出会えた事への感謝を神に捧げなくてはならない……」
豪華な部屋に圧倒されていると一人のウマ娘が入って来て自分を見るなり瞳を輝かせ、尻尾をあらぶらせながらも膝を付いて神への感謝を捧げた。何事かと思ったが、直ぐにそれは立ち上がるとゆっくりと歩みを進めた。そして自分の目の前で改めて膝を付き、自分の手を取った。
「私は、今日という日を待ち侘び続けておりました。そのご尊顔を拝見出来たこの喜び……到底言葉では表せない、故にあらゆるものを込めた言葉と行動をお許しください……麗しの女王陛下」
それを聞いて以前、ファインと出掛けた後に電話で話した事を思い出した。自分の事を女王陛下と呼ぶのは彼女の姉、つまり―――このウマ娘はピルサドスキー。史実の馬と言えばジャパンカップでの放送事故的な出来事と勝利による印象が強いが、米国のブリーダーズカップ・ターフ、英国のエクリプスステークス、チャンピオンステークス、KGⅥ&QESを勝利し、引退レースとなったジャパンカップを含めてG1を6勝。そして凱旋門賞2回2着とオルフェーヴルにも匹敵する優駿。
「あ~……え~……ファイン、お姉さん……だよね?」
「うんそうだよ」
「……ランページ様、ファイン殿下の姉君のピルサドスキー殿下です」
やっぱり合っていた、と思っているとピルサドスキーは自分の手にキスをした。ファインにしたようなフリではなく、ガチで手の甲にキスをされた。その意味は尊敬やら敬愛がある筈だが……この場合は恐らく……
「―――私の想いは愛とする他ありませぬ、それを貴方は御許し頂けますでしょうか……?」
「受け取るか否かは別として、俺は貴方と仲良くしても良いと思っております。まずは友人から、始めましょうピルサドスキー殿下」
それを受けてピルサドスキーは落胆するどころか、喜びの表情を浮かべながら改めてその手を取って握手をした。
「(フローラよりもずっとストレートに愛叫ばれてるけど、全然拒絶反応出ねぇな……やっぱあいつのあれってなんか可笑しいんだな……)」
「女王陛下如何しました、私の顔をずっと見られて……」
「いや、ファインのお姉さんだけあって美人だなぁって」
「……やめてください、素直に嬉し恥ずかしぃ……」
「真正面から愛を言ったのにそれですかピルサドスキー殿下……」
「お姉様はランページさん大好きだもんね~♪」
「―――っ!?」
「何だい姉さん突然立ち上がって、正直言って気持ち悪いんだが」
「同感。こんなのが私の姉とかもう考えたくない」
「……タキちゃん、フラちゃん流石にそんな事言われたらお姉ちゃん悲しいよ……特にフラちゃん、そういうの割とマジでやめて……死ぬ」
という訳でアイルランド滞在からスタートなヨーロッパ遠征。
そしてピルサドスキー殿下登場。フローラよりもずっとストレートに愛を叫ぶけど純情乙女。