貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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229話

いよいよKGⅣ&QEステークスが迫ってくる中、ランページのトレーニングもいよいよ追い込みが始まった。常にマスクを付けた上でのシンザン鉄を用いてのメニューで徹底的に身体を苛め抜く。

 

「ペースが落ちて来てるわよランちゃん、それとも休んじゃう?」

「誰がやめるかぁ!!」

 

漲る闘志のままに駆け抜け続けるランページの気迫はスーちゃんから来ても相当な物だった。ヨーロッパ遠征の初レースというのもあるだろうが、それ以上にドバイでの雪辱を晴らす為にも気合が入りまくっているという所だろう。

 

「はへぇ~……凄いねスーちゃん、ランさんの気迫?」

「そうね、とってもやる気に満ち溢れてるわ」

 

精神的にも充実してるしこの傾向は極めて良い。レースで最も闘争心を掻き立てるのはやはりライバルと言った強敵の存在だ、初めて出る土地のレースでは見知った顔はおらず初見のぶつかり合い。データのみではどうしても把握しきれない物がある、しかし一度戦った事がある相手ならばそれを身体その物が覚えている。特にシュタールアルメコアの場合はその領域にランページは敗北している。

 

「リベンジって所かしら」

「リベンジって……ランさん負けてないよ?」

「フフフッ勝負世界ってね、勝負に勝って戦いに負けたって事が良くあるのよ」

「勝負に勝ったのに戦いに負けた……んんっ?」

 

ドバイでは確かに勝った、だが完全に敗北しているというのがランページの認識。あれがあったからこそドバイの勝利があったとも考えるが、ならば今度はそれをも完全に凌駕してこその勝利をもぎ取るのを目指すほかない。

 

「フフッ今度のレースは楽しみね」

「あ~あ、私も見に行きたいのに~……」

 

一応姫殿下という立場にあるので勝手に見に行く事は出来ない。何せレースが開催されるのはイギリス王室がイングランドに所有するアスコットレース場、ある種お隣さんと言っても過言ではないがそれでも隣国なのは変わりはない。そこへ王族が気軽に訪れるという事は出来ない。なのでファインは王城で中継を応援する形になった。

 

「致し方あるまいよファイン、我々にも立場という物がある」

「お姉様……ムゥッだってしんゆ~を応援したいのは当然なのです!!」

「その気持ちはよく分かる、私だって、私だって憧れの女王陛下のレースを見に行けない事を断腸の思いで、思いで受け入れているんだ……!!!」

 

歯を食いしばり指が手に食い込むほどに握り込みながら悔しがるピルサドスキー。

 

「だからこそ!!アイリッシュチャンピオンステークスではその思いを晴らす勢いで全力で観戦するぞ!!」

「おっ~!!」

「それは良いと思うけど、その場合誰を応援するのかしら?」

 

そう言われて思わず二人は硬直してしまった、仮にも自国の姫殿下である二人が自国の名を冠するレースで自国の代表を応援せずにランページを応援するというのも中々な話になってしまう。それに気付いたのか二人は真剣に悩み始めた。

 

「し、しまったぁ……ランページ殿の走りを生で見られる事に興奮して肝心な事を忘れるなんて……!!」

「取り敢えず今の時点で誰が出走予定かだけでも調べておこうよ!」

「そ、そうだな!!急ぐぞ妹よ、駆けるぞ!!」

「お~!!」

 

流石はウマ娘と言わんばかりの勢いで駆け出していく二人をスーちゃんは手を振って見送った。あれだけ真剣に悩んでくれるのならば、ランページはきっとそれだけでも光栄だというだろうに……と思っている中当人がやって来た。

 

「どったのよスーちゃん、姫殿下二人がなんか走ってったぞ」

「姫殿下としての決断を迫られたみたいよ」

「何それ、お見合いの話でも来たん?」

「それに近いかしらね、貴方ってば本当に罪作りね♪」

「へっ?」

 

そんなこんなもありながらもトレーニングを続けていくランページ、その日の夜。自分が使っている客室にファインとピルサドスキーが揃ってやってきて頭を下げて来た。

 

「あの、アイルランドの姫殿下二人が頭下げるとかやめてくれないかな。普通に国際問題になりかねない」

「だが私は、私貴方の友人としてどうしても謝らなければいけないのです!!」

「私も、ランページさんのしんゆ~として、ごめんなさいをしないとダメなのです!!」

 

この後、SP隊長に事情を説明。この世の終わりのような顔をしながらも彼女と一緒になって説得して何とか頭を上げて貰った。使用人にお茶を淹れて貰うように頼み、腰を落ち着けてから話を聞く事にした。

 

「実は……ランページさんが出てくださるアイリッシュチャンピオンステークス、私は貴方を応援するつもりだったのですが……この国の姫としてそれは……」

「あ~……それはまあしょうがないだろ、立場もあるだろうし優先すべきもんがあるし」

「だから今の内にごめんなさい、でも、ランページさんのしんゆ~としては応援するから!!」

 

つまり、王室の人間としては自国のウマ娘を応援するけど友人の立場としては応援するという事を許して欲しいという事だった。その位の事は気にしないしランページとしては自分の国の応援は当然なのだからそんな仰々しくしなくてもよかったのに……と思う程だ。

 

「しかも、そのウマ娘の中には我が国のトリプルティアラがいる故……

「―――アイルランドのトリプルティアラウマ娘」

「うんそうだよ」

 

アイルランドの牝馬三冠。アイリッシュ1000ギニー、アイリッシュオークス、アイリッシュセントレジャー、この三大レースを制しているというウマ娘がアイリッシュチャンピオンSに出走する。日本のトリプルティアラとしてそれは是が非でも戦わない訳には行かなくなった。

 

「強いのか、そのウマ娘は」

「強いよ!!後ろから一気に追い抜いたり、一気に逃げ切ったり!!」

「初戦では最後方から全てを抜き去り、三冠最終戦で堂々とした逃げ切り勝ちをしている」

「随分とまあ、極端だな」

 

追い込みと逃げ、余りにも極端な戦法だ。一番最後から一番前に行けば勝てる、一番前を走り続ければ勝てるという考えがあるらしい。ある意味究極の正論だ。

 

「漆黒の悪魔と恐れられ、三冠を達成した時は英雄として称えられた。彼女は、強い。貴方でも油断はできませんよ」

「上等だ、それだけ強い方が戦い甲斐がある。ンで名前は?」

「ラーズグリーズ、それが我が国の英雄の名だ」

「……そのウマ娘、ブービーって言われてね?」

「良く分かったね!!」

「……イエスケストレル」




衣玖永江様よりラーズグリーズを頂きました。有難う御座います!!
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