貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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23話

「んだぁ~くそ……おっもっ!!」

 

走り込みの最中、思わず音を上げるように座り込みながら愚痴を零す。腰に下げていたペットボトルを取る、凍らせていた中身のスポーツドリンクは程良く溶けていてそれを喉奥に流し込んだ。

 

「マジで重い、流石シンザン鉄だぜ」

 

シンザン鉄を付けてのトレーニングを始めて数日が経過している。今までのトレーニングに加わった新たな負荷はランページの身体に容赦なく襲い掛かって来る。パワーアンクルやリストとまた違う不思議な感触がある、唯重いだけではなく何かを感じさせる。

 

「確かにこれは特注するだけの意味があるな……」

 

このシンザン鉄を使用のトレーニング、そしてそれを付ける意味を南坂はこう言っていた。

 

『シンザン鉄は様々な意味で特別な蹄鉄です、重さは勿論ですけどね』

「特別ねぇ……」

 

スマホを取り出してシンザン鉄について軽く調べてみる。シンザン鉄は現在では国から認められた極一部の職人にしか作る事が許されない特別な物なのだという、それは神のウマと言われたシンザンに対する敬意、彼女に様々な物が向けられている。そして一人一人のウマ娘によって微妙な調整が為されるらしい。つまり、自分のこれも本当に専用のものであるという事。

 

「しっかし重いなぁ……」

 

立ち上がりながらもそう思う、普段の4倍の重さを感じつつもそれで走るというのは中々にキツい。気を一瞬でも抜いてしまえばつんのめって転ぶ、と言うか数回転んでいる。気合いと力を入れて脚を上げて歩く、走る事を要求される。

 

「……こいつを着けて走れたら、どうなるんだ」

 

これを着けて調教を受けたからこそ、シンザンは強くなったと言われる。自分もそうなれるのだろうか、それともそんな風になれなければトリプルティアラには届かないという南坂からのメッセージなのか、色んな事を考えてしまうがそれよりもずっと強く脚を踏み出した。凄い音と共に置かれた脚にランページは笑う。

 

「やってやろうじゃねえか、俺が目指す所はそういう所って事だろ。それに―――俺が凄くなればなるほどに、報復の味も深くなるってもんだ」

 

口角を思わず歪めながらもそんな言葉を口にする、矢張り自分の中に強く渦巻きながらも力になっているのはそれなのだ。頬を強めに叩きながらも走り出す。

 

「だけどこれ……南ちゃんの私怨とか入ってねぇよな?」

 

そんなバカな事を考えながらも脚を動かしながらも練習場へと向かっていると、日陰のベンチに二人のウマ娘が座っているのが見えた。そこに居たのは―――

 

「まず、ベッケンバウワーだけどフロリダって分かる?」

「まずべっけんばうわーが分からないんだけど!?ってあっランページさん?」

「ちゃおっすパーマー」

 

そこに居たのはライアンと同じメジロ家のウマ娘のメジロパーマーだった。他のメジロと比較される事も多いが、春秋グランプリ連覇も成し遂げた立派な名馬である。そしてそんな彼女の隣にいるのは―――

 

「んでお隣さんは?」

「えっと、さっき知り合ったの」

「ドモ、ウチダイタクヘリオス!!」

 

矢張りダイタクヘリオスだった。パーマーとは縁深く、史実ではこの二頭でコンビとする呼び名があった。二人揃って大逃げをする事から爆逃げコンビやらバカコンビやらと言われていた。

 

「んでどったのよ」

「いやさ、突然で悪いんだけど……べっけんばうわー?だけどふろりだ?ってランページさん分かる?」

「別件があるから風呂入りに離脱するわって事だろ?」

「それな!!大正解!!」

「えっ分かるの!?」

 

理解して貰ったヘリオスはテンション高めに正解!!と叫び、パーマーは何で分かるの!?と言いたげな表情で此方を見つめて来た。何でと言われても……自分も使っていた時期があったからとしか言いようがない。

 

「んじゃMJKは?」

「マジか」

「あっそういう意味なんだ……それじゃ……あざま―――何だっけ?」

「あざまる水産☆」

「有難う」

「ええっ!?何、アタシが分からないの可笑しいの!?」

 

まあこれについては何とも言えない、パリピ語……いわゆる若者言葉は一部で使われる流行に近い言葉遊びだ。其方に身を置かなければ接する機会も無いのだから知らないものからすれば意味不明なのは致し方ない。

 

「んでどったのよヘリちゃん」

「おおっその呼び名マジ卍じゃね!?えっとね、お嬢が塩くてもうマジでウチキャパかったの……」

「えっと……」

「あ~……そのお嬢が誰かは知らんが、その人に塩対応されて辛くて限界だったって事だな」

「それな!!」

 

この場合のお嬢というのはダイイチルビーの事を指す。とにかく彼女からの対応が色んな意味で辛いらしい。

 

「よく分かるね……」

「まあこういうのって大体が略語だからな、改めて聞いたら何となく分かるだろ?」

「うん、えっと塩対応が塩い……あっ確かに何となくわかる」

「取り敢えずだ、ヘリちゃん何か悩みあるならカラオケとか行って発散したらどうよ。駅前のカラオケが確か今日新曲追加だった筈だから丁度良くね?」

「あっそれマジ卍でアガるじゃん!!折角だからパーマーも行こっ!!好きな奴歌いまくってテン上げしかないっしょ!!」

「えええっアタシも行く事になってるの!?あっちょっとヘリオス!?ゴメンアタシも行く!!」

 

そう言いながらも走り出して行くヘリオスを追いかけるようにパーマーも駆け出して行く、僅かな時間しか話していなかったが何とも賑やかで元気いっぱいなウマ娘だ。しかし改めて思っても自分の世代はなんて濃いのが揃っているのだろうか。

 

「おや、こんな所で逢うとは」

「誰かと思えば皇帝様じゃないですかい、こんな所で油売ってていいんですかね」

「フフフッ生憎これから地方に行く所でね」

 

続けて遭遇したのは皇帝様であった。だが、皇帝はこれから地方に出向くらしい。シービーもそうだが、彼女らクラスになるとトレーナーのような事も行うらしい。嘗てのオグリキャップのようにそこに居る有力なウマ娘を中央にスカウトするのだろうか、などと考えていると自分の脚、正確にはシューズを見られた。

 

「―――シンザン鉄か」

「一目で分かるんですね」

「何、私も考えた事があるからね。だがトレーナーからの許可が下りなくてね、私は使わなかった」

 

シンザン鉄はその重さ故に身体強化に効果的ではあるが、その重さ故に足腰や足首などに負担が掛かる上にフォームを崩す恐れがある。なのでルドルフはそれの使用は認められなかったらしい。

 

「使い心地はどのような感じかな?」

「重いの一言に尽きるよ、脚が疲れてしょうがねぇ」

「その割には元気そうにしてるが」

 

重さの表現の為に腿上げをその場で行うランページに苦笑する、が、同時に地面に蹄鉄がぶつかる度に重々しい音が耳へと届く。

 

「……それを使う事も、君の報復の為なのか?」

「結果的には、かな。これだって南ちゃんが用意したもんだし俺も吃驚した」

 

一瞬、返答に遅れながらもそれに応える。シンザン鉄は自分が求めたものではなく南坂トレーナーが特注した物、だが今はこれを自分自身が必要だと感じているのでルドルフへの答えはYESとなる。それに彼女は僅かに表情を鋭くする。

 

「君が一体誰に対して報復を考えているのは分からないが、その報復はしなければいけないものなのだろうか?」

「絶対にしなきゃならねぇもんだ、俺にとってこれ以上重要な物はねぇな」

 

今度は即答だった。これに関してはライアンもメジロも関係ない、自分が決めた事だ。自分自身が本当にそれを望んでいるのだ、仮令止められても止める気はない。

 

「報復は連鎖する、とでもいう気かい?」

「……敢えてそれを言えば君は変わるのか」

「寧ろ燃え上がるな、やるなと言われればやりたくなるのが人情ってもんだ」

 

仮令、ウマソウルのランページが許したとしてもヒトソウルは許さない。その二つを持っている自分は絶対に報復をする、何故ならばランページは心から悲しみ、苦しんだからだ。その原因となった者には確りとした報復を受けさせる。

 

「ランページ……その報復、それを向ける先を聞く事は可能か、可能であれば何故報復を行うのかを聞いておきたい」

「残念ながら皇帝様、そのイベントを解禁するには交友度が不足しておりますって奴だ。それを話せるほどアンタとは親しくない、知りたきゃ踏み込んでくることだ。但し―――俺の人生に介入するんだ、下手すりゃ自分が揺らぐ。その意味をよく考えてからやるんだな」

 

そう言い残しながらも、踏みしめる音を木霊させながらもランページは去っていく。その背中と音を追いながらもルドルフは思わず、拳を作ってしまった。

 

「―――それ程の事なのか、君は一体何をされたんだ……それでも私は歩む、私は……私の夢を叶えたいから」

 

決意を胸にしながらも、皇帝は今日も前へと進む。彼女の理想、全てのウマ娘が幸福になれる世界を目指す為に。ランページのそれを知る事はきっと自分の為にも、彼女の為にもなると信じている……それは間違いないだろう、だが彼女はまだ知らない。ランページの真実を。

 

 

「南ちゃんこれマジ重い……」

「頑張ってください」

「それしか言ってくれないとかMJK……超やばたにえん」

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