貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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233話

『さあ先頭を行くのはメジロランページ、ロケットスタートを決めた彼女が既に独走状態!!いきなり4バ身のリードは絶大だ、このまま逃げ切りを決めるのか。二番手にはターフホッパー、ジャパンカップでの本来の目標を狙いに定めている。その後ろにセイントヴァーダント、ガルニエ、シュタールアルメコアと続いて行く』

 

「良いぞラン~!!ナイススタート!!」

 

日本時間の23時、時差の影響もあって中継は真夜中だったがドバイよりも早い時間なのでターボはまだまだ元気だった。それでも少し眠そうだがランのスタートを見た途端に眠気なんて吹っ飛んでいた。

 

「最高のスタートダッシュだね……ゲートが開いた瞬間にはもう走り出してるんじゃない?」

「いえ、恐らくですがランさんはゲートが開く一拍前にスタートしているんです」

「一拍前って……そんな事、出来るんですか?」

「ランページさんなら、出来ます!!」

「何せ、アタシらの先輩だからねぇ!!」

 

確かに普通ではない。反射というレベルではない、事前に考えていたとしか考えられない。だとしてもゲートのタイミングを把握していないと無理な話だ。

 

「お姉様ってスタートは上手な方だったけど……なんていうか、更にそれが磨きが掛かった感じ……?」

「そうですね。ランページさんはゲート難ではありません、寧ろ狭い所が落ち着くというぐらいでしたから」

「それに関しては理解出来ないかな~」

 

ウマ娘としてはやはり開放的且つ広い場所の方が好ましいのでこの辺りは全く理解が及ばない。

 

『スウィンリーボトムとも言われます第一コーナーまでの800m、約22mの下り道となっていますが、メジロランページなんと全くスピードを落としません!!淀の坂でも一切速度を落とさなかった彼女ならではの走りだ!!加速し続けているぞ!!』

 

下り坂でも一切速度を落とさない、寧ろそれをも利用して加速するランページの姿に南坂は思わず笑う。

 

「流石―――「山登らせまくった甲斐があったねぇ」!!?」

「あ~シンザンだ~!!」

「シンザンさんだ~!!」

「よっターボにチケゾー、元気だったかい」

「元気だぞ~!!」

「アタシも元気です~!!」

 

カノープスの部室に唐突に出現したシンザンに思わず全員が驚く中、元気印の二人はむしろ歓迎ムード。他はあのシンザンの登場に恐れ戦いているというのに……まあこの二人らしいと言えばらしい。

 

「いきなりの登場やめてくださいよ……」

「悪い悪い、まあランに高低差なんざ今更意味がないさね」

 

視線を上げるシンザンの瞳には見事なコーナリングで最短距離でコーナーを突破するランページの姿がある、ラジオで向こうの実況を聞いているが驚愕して何なんだあのウマ娘は!?と叫んでいる。

 

「ランの走りはストライドを全力で利用するフォーム、普通ならコーナリングが泣き所になるだろうが……あの脚力で地面に脚を埋めるようにしながら、遠心力に一切に身体を任せずに最短距離を突っ切る。これをやられたら他の連中は辛いなんてもんじゃない。ストライドとピッチの良い所どりみたいなもんだからな」

「お姉様、やっぱり凄い……」

「流石はランページさん!!」

 

姉の勇姿を目に焼き付けるライスと憧れの人の走りに心酔するエアグルーヴ、確かにこの走りは圧倒的だ。この二つもランページが未だ無敗を貫き通せる理由でもある。

 

「アスコットレース場、ポイントは二つ。最初のスタートから最初のコーナーの下り、次の直線では残り200mまで延々と登り坂。さあ山で鍛えた力を見せてやれ、世界を、振り切りなランページ!!」

 

 

『さあメジロランページだけが直線に入った、信じられないスピードだ!!だが此処からは登り坂だ、長く続く苦しい坂だ。おっと此処で後方から上がって来たウマ娘がいるぞ!!』

 

「想像以上に鍛え込んでやがるが―――負けねぇよ!!」

「それは、私も同じさ!!」

「私だって―――意地がある!!」

 

シュタールアルメコア、ガルニエ、セイントヴァーダント。この三人が一斉に上がって行く。あの速度を登り坂では維持しきれないだろう、必ずペースは落ちる、パワーには自信があると登り坂で仕掛ける。一斉に坂を駆け上っていく、そしてその時にアルが―――口角を持ち上げた。

 

「走ることに囚われたウマ娘諸君…準備は良いか?……そんじゃ…ショータイム!!」

 

世界が、霧に包まれる。そこにいる者達しか理解しえぬこと、異形の者どもがそこいらから現れてくる。幻術なんて生温い、アルのそれは正しく世界を侵食するという表現が相応しい。そこにいる限りどんな物でも影響を受ける、それから逃れる事は出来ない。

 

「これは―――ッ凄いまるであの世界だわ!!一回で良いから体験してみたかったの!!何で此処にショットガンが無いの!!」

「ハ~ッハッハッハッハッハッ!!なんで幻惑的で刺激的な世界だろうか、良いだろう、そんな世界でも私の輝きこそが一番だという事を証明して見せようじゃないかぁ!!」

「チッこいつらには効きが弱いか……!!」

 

強い自我を持ち、強固な意志を持っている者には通じない。それが弱点でもあった、ドバイワールドカップではアームドリンクスに通じなかった。だが今はそれはあり得ない、効きこそ弱いだろうが確実に入るという確信がある。僅かにブレた隙を見てアルがセイントとガルニエを抜いて2番手に上がる。後はランページだけ―――なのだが、何故だ、ペースが乱れて―――いやどんどん加速している……!?

 

世界を覆う霧の中、乱立するは自分達を狩りの獲物とするかのように迫ってきているドリルやプロペラが体に付いた人型の何か。そうだ、これだ。自分はこれに心を折られた。亡き魂に激励によって切り抜けた、だが負けたのは事実だ。一度の敗北は死、二度目は心の死。三度目は絶対に許されない、許してはいけない。その為に鍛えて来た。

 

「さあ行くぜライアン、鍛え続けた心と身体、魂を今一つに―――さあっ俺と、走ろうぜ!!」

 

亡き魂よ、共に暴れよう。

 

我、熱狂の渦を巻き起こす!!

 

紛れもなく届いている筈だ、影響がない訳がない、効いているという実感がある、それ尚に、如何して如何してお前はずっと自分の先を走っていられるんだ……!?

 

『メジロランページ坂を物ともしていない!!し、信じられません下り坂だろうか登り坂であろうが彼女には平地にしか感じられないのか!?減速する事無く、坂を登り切った!!シュタールアルメコアとは3バ身差!!シュタールアルメコアも必死に追い縋る!!スパートを掛けるが差を縮めれない!!最終コーナーを今、メジロランページが越えた!!うわっ内ラチギリギリの所を通っていくぅ!!』

 

この身に刻まれたシンザン鉄の鍛錬、山の上り下りで鍛えた身体には何ともない。そのまま一気に踏み越えていく、暴君を越えて内に秘められた力によって鬼神となった。魑魅魍魎を文字通り踏破するその剛脚に並ぶ者なし、無敗の王者、メジロランページが今―――欧州で旋風を、いや嵐を巻き起こした。

 

『これは、これは文句なし!!メジロランページ一着で今、ゴールイン!!二着にはシュタールアルメコア、三着にセイントヴァーダント、四着にガルニエ!!なんという事でしょうか、ジャパンの王者、メジロランページがドバイワールドカップに続いてKGⅥ&QEステークスを制したぁぁぁぁ!!!これで26戦26勝!!このウマ娘の力は正しくワールドクラス!!そしてタイムが2分25秒0!?レ、レコードです!!メジロランページ、ワールドレコードホルダーとしての力を見せ付けるレコードタイムを叩きだしたぁ!!』

 

欧州の歴史にその名が刻まれた、その名は鬼神 メジロランページ。最初から最後まで先頭で駆け抜け続けた彼女の力をもはやだれも疑えない、そしてそれは敬意と畏怖、恐怖を帯びる。強者の宿命の中にあろうとも、ランページは揺るがない。もう彼女は迷わない。迷ったとしても、自分を鍛え直して整えるだけ。

 

「まずは―――一冠」

 

天へと捧げる一本指。嘗て、皇帝シンボリルドルフはクラシック戦線で勝利した際に、皐月賞、日本ダービー、菊花賞で制したという意味で指を立てた。それに倣う訳ではないが……トレーナー(スーちゃん)に見せ付ける意味で掲げた。

 

『メジロランページ指を立てました!!ヨーロッパでの初勝利を意味しているのでしょうか、それとも、これからの勝利への暗示でしょうか!!』

 

「んもう、あの子ったら……ランちゃん貴方ってば最高ね」

 

この後、スーちゃんはランページが戻ってきた際には思わず抱き着いた。ランページもそれを受け入れて抱き留めて、二人一緒に大量に向けられているカメラに向けて笑顔を向けた。

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