メジロランページはカリスマ的な存在である。無敗神話更新中というのもあるが、海外で活躍しているのも大きな要因の一つだろう。そんな彼女に憧れてか、既にトレセン学園を志すウマ娘達が急速的に激増しており、中央トレセンだけではなく地方トレセンでも嘗てない程の見学希望や進路相談の申し込みが殺到している。来年の入試はえらい事になるのでは……と今から心配になっている教員もいる程。
そんなカリスマの影響か、芝だけではなくダート熱も高まっている。理由は彼女だけではない、ドバイワールドカップで健闘したレディセイバー、アメイジングダイナも要因だった。最早ダートは芝に劣るなんて考え方は古いものとされている。そんな現象の元凶とも言える日本ウマ娘界のカリスマは―――
「米喰いて~♪」
配信でうまぴょい伝説を踊っていた。
「という訳でリクエストが来たうまぴょい伝説はこんなもんかな、本当はサイドに二人欲しいんだけど流石にスーちゃんにやって貰うのは気が引けるじゃん?だから俺一人になっちまって画面が寂しくてゴメンな」
此処までのウマ娘がこんな事をやれば普通は炎上する。配信をすればアンチコメが、ツイッターをすれば自称有識者がグダグダと文句を垂れる。品位がないだの日本の代表として相応しくないだのという事をぶつけられるのだが
「まあアンタの中ではそうなんだろうな、アンタの中ではな。じゃあ実際俺は相応しくないかどうかでアンケートでも取ったらどうだ?俺以上に結果を出して、天皇陛下にドバイの首長陛下、アイルランドの国王陛下とも仲良くやってる奴他に居るのかい。アイルランドに至っては国交が更に良くなってんだぜ、そこの所如何なんですかねぇ……俺みたいに行動で何かを示しもせずに、文句を言うのは誰にもできるんだぜ」
何だかんだと持ち上げられたとしても自分を貫き通すランページ。アンチが沸いたとしても何処吹く風、一向に改めようとしない態度に粘着する者も居たが―――それらはメジロ家とシンボリ家の弁護士を通じて名誉毀損で訴えるぞ♪という圧を掛けたら途端に静かになった。そんな風に良くも悪くも日本の代表となっているランページ、次なるレースはアイリッシュチャンピオンステークス。日本では愛チャンピオンステークスという名で知られているレースに出走を決めて現在は特訓中。
「あっいけねっ」
が、そんな時にとある問題が起きていた。
「スーちゃん如何しようまたやっちまったわ~」
「あら~」
それはシンザン鉄の消耗だった。ランページの強さを支えているシンザン鉄、洋芝向きの走り方に変えてからこの蹄鉄の消耗が著しくなってしまったのである。日本の芝に比べてクッション性が高く、パワーが要求されるためにより強く踏み込む走り方に変えている。前走のコーナリングなどはそれが顕著に表れており、レース用の蹄鉄はあと一回使えば壊れてしまう程に消耗していた。そしてそれはシンザン鉄も同じ。
「これは想定もしてなかったわね……ランちゃんの脚力がそれ程までに上がってるなんて……」
「こればっかりはこっちならではの現象だとは思うけどな、こっちの芝に合わせた結果がこれだ」
先程まで着けていたシンザン鉄を外してみると何方も全く同じようにすり減った上で折れてしまっている。それはランページの脚の力もそうだが身体のバランスが取れている事の証明でもある。それだけ身体が仕上がっている事でもあるのだが……これはこれで参る。
「かと言って、加減して練習しても為にならないし……」
「しんゆ~お届け物持ってきたよ~!!」
スーちゃんが頭を抱える中、ファインがSPを引き連れてやって来た。最早見慣れた光景だが、SP隊長は汗を流しながら走っている。本当にお転婆な姫殿下だ……。
「届いたよ、ジャパンからの贈り物!!」
「おっ丁度良かった」
「ナイスタイミングって奴ね」
SP隊長が持ってきた箱、それを地面に置いて貰う。ファインに急かさるまま開けてみる……そこに入っていたのは蹄鉄と一通の手紙だった。
「これがシンザン鉄なんだね!!」
「ああその筈だ、にしてもこの手紙は……シンさんからじゃねえか。何だ態々手紙なんて」
「まあ読んでみたら?あの人の事だから無意味ではないと思うわよ」
スーちゃんに促されるまま、手紙を開けてみる。中にはやたら達筆な字で書かれていた、ターボの上手な字で慣れていたから辛うじて読めるが……普通ならこれは上手すぎて読めない字という奴だろう。
『KGⅥ&QEステークス勝利おめでとさん、海外芝ダート制覇した気分は如何だい。まあそんな事は如何でもいい、アンタのレースを見て随分と脚力が付いたと思ってね、前々からお願いしてたものが完成したから送らせて貰うよ。こいつはアタシの蹄鉄を作ってくれてる名うての職人にお願いして貰ったんだよ。向こう様もこれを作る為に半年以上も苦心してたそうだよ、作ってくれた人に感謝して使う事だね。シンザン鉄改め―――ランページ鉄、感謝して使いな』
「おいおい、前々からくれてやるとは言ってたけどマジで俺の名前を付けるなよ……」
以前からシンザン鉄の名前ごとくれてやると言っていたが、それが遂に現実となったとも言える。ランページ鉄、文字通り自分の名前が刻まれている蹄鉄。ズッシリとした重みが持ち上げると伝わって来る、シンザン鉄も国に認められた職人が作ると聞くがこれも同じ類のものなのだという事が分かった。
「まあ貰えるもんなら病気以外何でも貰っとくぜ、こういうのは特にな……」
「ニョホ♪」
「スーちゃん……それ俺が言いたかった」
「テヘッ♪」
兎も角新しい蹄鉄を手にする事が出来た、早速打ってみる事にする。重さは10倍シンザン鉄と同じ、だが感触が違う。あれよりもずっと硬いが軟らかさも感じる。そして理解する、これならば自分が強く踏み込んでも持ち堪える事が出来る頑丈な蹄鉄であると。
「走ってらっしゃい、走りたいんでしょ?うずうずしちゃって可愛いわねランちゃんってば」
「からかうなよスーちゃん―――でも、行って来るわ!!」
駆け出していくランページにファインが興奮する中でシンザンからの手紙を読み直してみる。最後の方に追記があった。
『追伸。これの完成には私も協力してる、これ使って負けたら承知しないから気合入れて走りなダチ公』
「あらあらあらまあまあまあ……アーちゃんに報告する事がまた一つ、増えたわね♪」