貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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236話

「すげぇっ……こりゃいい、思いっ切り踏み込んでいける……!!」

 

新しいシンザン鉄、改めランページ鉄。それを使っての練習をするランページ、欧州に来てから更に力を込めて踏み込むようになった彼女にシンザン鉄はついて行けてなかった、だがこれは違う。全力で踏み込んでも問題ない、寧ろ何処までもこれで駆けていける。地面を確りと蹴る事が出来る程に硬く、自分の脚を確りを受け止める軟らかさがある。不思議な二面性を持った蹄鉄の感触にランページは大満足。

 

「―――思い通りに走れる……!!」

 

コーナリング、ラチに当たるギリギリを見極めながらもワザと腕を掠るか掠らないかのギリギリを攻めて走る。そのまま更に加速して直線へと行く。その光景は余りにも理不尽に思えるまでに暴力的な速さだった。何より、心の底から楽しそうな表情を浮かべているランページの表情があった。

 

「凄い凄い~!!凄いよしんゆ~!!」

 

ファインもそれを見て大はしゃぎ、これまでとは段違いのキレの良さの走りにスーちゃんも驚きを隠せなかった。まだまだランページの走りには先があったという事実とそれがあの蹄鉄で完全に開花した事に対する喜びがあった。

 

「ああっ何て素晴らしいんだ、ファイン連絡ありがとう。今日のおやつは私の分も食べていいぞ」

「やったっ♪」

 

連絡を受けてやって来たピルサドスキーは涙を流しながらもこの光景に感謝した。推しであり憧れのウマ娘のあんな楽しそうな走りを目の当たりに出来る……この幸運を神に、いや連絡してくれたファインに感謝しなければ……そう思っておやつを上げる事を決める。そこだけ見れば微笑ましい姉妹の関係なのだが……ピルサドスキーの後ろのSP達がカメラを回しているのは何処か残念さが拭いきれなかった。

 

「ぁぁぁっこれこそ至福の一時……コンマ1秒たりともあの走りを撮り逃してはならないぞ!!永久保存するんだ!!」

『ハッ!!お任せくださいピルサドスキー殿下!!』

「賑やかねぇ」

「お姉様のSPさん達は皆愉快なんだよね~この前は日本のアニメのポーズの真似してたよ、なんだっけ、何とか特戦隊って言ってたかな」

 

本当に日本のアニメーションというのは凄いなぁと思っている中、ランが帰って来た。

 

「お帰りなさい、如何だったその蹄鉄は」

「想像以上だ……確かに重いが、重いけど凄い丈夫だ。出来る事ならばこれでレースを走りてぇ気分だ」

 

普通ならばそれだけ重い蹄鉄はディスアドバンテージにしかならない、だがそうなったととしてもランページは構わない気分だった。この蹄鉄で思いっきり走ってレースに挑んでもいいと言えるだけに最高の気分だった。

 

「それを使わなくても大丈夫よ、レース用のランページ鉄も確りとあるわよ」

「えっ嘘だろ?」

「本当よ、こっちはもっと凄いみたいよ」

 

もっと凄い、その言葉にどうしようもなく惹かれてしまった。収められていた蹄鉄、新品の輝きを纏っているが何処か雰囲気が違った。これまでの蹄鉄があくまでレース、試合の中で使われる物だったのと思うとこれは紛れもない果し合い―――つまり、本気の殺し合いで使う武具のようなオーラを放っている。喉を鳴らすとスーちゃんが思わず笑った。

 

「やっぱり解るのね、これは特別製みたいよ。ランちゃんはウマ娘の蹄鉄の規定って知ってるかしら?」

「あ~……蹄鉄の材質とか重さとかのあれ?」

「そう」

 

ウマ娘の蹄鉄は競走馬の蹄鉄とは同じようで違う。競走馬のそれはアルミ合金で製作されるがウマ娘のパワーはその程度では受け止めきれない。何せトレーニングと称して5tもあるタイヤを引っ張れる程のパワーを持つ。故に重視されているのは耐久性、シンザン鉄という前例もある為に重量については基本的に制限がある訳ではない、だがレースなので基本的に軽量の方が有利。重い蹄鉄を付けてもいいが、それによって及ぶ結果を全て自己責任という規約がある。

 

「詰まる所、URAの認可さえあれば基本的に蹄鉄に制限はないのよ。材質もね、今の蹄鉄は大体がマグネシウムとチタンの複合かしら」

「その辺り、だったと思うけど」

「それでこの蹄鉄だけどね―――シンザン鉄を作ってくれた刀鍛冶さんが作ってくれたのよ」

「……つう事はまさか玉鋼が素材として使われてるってこと?」

「YES、全部が玉鋼って訳ではないらしいけどね」

 

最早それは形を変えた日本刀と言っても過言ではない。日本刀、文字通り日本の名前を背負った刀。その輝きは本来生まれる筈だった刀の鋭さを思わせるようだった、輝きが自分に問いかけるようだ。自分を使う覚悟があるのかと。

 

「ジャパニーズブレードって事!?凄い、そんな素材で蹄鉄って作れるんだね!!」

「日本代表に相応しい蹄鉄という事か」

 

友人二人の言葉を聞いて、ランページは口角を持ち上げた。

 

「参った、愉快だねぇ……嬉しくてしょうがない。スーちゃん、走っちゃ駄目かい?」

「駄~目♪これ以上は超過しちゃうわ、お楽しみはまた今度ね」

「ちぇっ……トレーナーの言葉には従わないとな」

 

しょうがないと言いつつも高揚感を抑えきれていない、それでも次に使う時の楽しみにしておこうと思う事で喜びもまた増す事だろう。

 

「汗掻いちまったなぁ~ファイン、一緒に風呂でも入るか」

「わ~いしんゆ~とお風呂~♪お姉様もね」

「わ、私もか!?い、いやそれは畏れ多すぎる……!?」」

「気にすんなって背中流してやるぜ?」

「は、はわわわわっ……ランページさんとお風呂―――我が一生に一片の悔い無し……!!」

 

キャパシティが限界を迎えてしまったのか、ピルサドスキーは満足しきった顔でぶっ倒れた。それを見て近衛SP達は殿下ぁぁぁぁ!?と大騒ぎしながらも何処からか担架を持ってきて医務室へと搬送していった。そんな姿を見つつもランページはファインと共に浴場へと向かって行く。

 

「スーちゃんも入らね~?」

「入る入る入る~後で行くから待っててね~先に上がっちゃっや~よ~?」

「分かってるっての」

「スーちゃんも早くね~」

 

手を振るファインと共に先に行くランページを手を振って見送るスーちゃん、二人が去ったのを確認するとランページが走ったターフを見た。見るのはランページが駆けて出来た足跡、特にコーナリングの部分。特に力を込めるポイントだが、そこの芝が抉れて下の地面が見えている。

 

「……オグリちゃんだったかしら、笠松のダートで足跡が出来ていたって話があった筈だけど……これはそれ以上かもね」

 

芝を貫いて下の地面を走ったような物、それをやったランページに思わず武者震いが起きた。欧州で走るレースは残り二つ、その結果が楽しみでしょうがなくなってきた。

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