なんか噂ではモンスニーも近いのでは?と言われているらしいですね……そうなったら此処はどうなるんだ。此処のエースは引退して大人っぽくなったで言い訳は付く、でもモンスニーは……?
「今宵はよくぞ集まってくれた、アイリッシュチャンピオンステークスに出走するウマ娘の皆様方。今宵は細やかながらの催しを執り行わさせて頂いた、顔合わせをするなり食事を楽しむなり好きなように過ごして欲しい。最高の一時を糧に、アイルランドのチャンピオンを決めるレースに相応しい走りをしてくれる事を期待する!」
拍手が嵐のように巻き起こる。日程的には違うがアイリッシュチャンピオンステークスの前夜祭とでも言うべきなのか、記念パーティに出席しているランページ。いったいこれの何処がささやかな催しものなのだろうか……とんでもなく豪勢なパーティを細やかと言えてしまう、これが一国の主か……と壁に寄り掛かっていると肩を叩かれた。其方を向くとほっぺに人差し指が押し込まれる。
「引っかかった♪」
「わっは~引っかかっちゃった。にしてもスーちゃん流石に様になってんなぁ……」
「フフッ見直した?」
「惚れ直したよ」
「いやんもっと言って♪」
メジロ家らしい緑と白を基調としつつも黒を合わせたそれは気品と優雅さを醸し出している。そんなドレスを纏っているスーちゃんは普段から見慣れているトレーナーとしてのスーちゃんではなく、シンボリ家の重鎮、スピードシンボリとしての姿に見えた。言葉こそ普段と同じだが雰囲気が全く違う。
「ランちゃんは予想通りにその格好なのね」
「俺の勝負服がこれだからな、見ようによってはタキシードにも……いやそれはキツいか」
「前を閉めればそう見えるかもね」
「閉めたら胸がきついからヤダ」
「おっきいもんね」
そんな事を話していると矢張り周囲からの注目を集めていることが分かる、ウマ娘関連の大企業の御曹司や会長、アイルランドのトレセンの理事長もいるだろう、上手く視線を隠しているつもりだろうが人生経験が豊富な自分にそんな隠しは意味はない。
「こっちの様子を見て話したいって連中が沢山だな」
「そりゃそうよ、ドバイに引き続きこっちでも勝ってるんだから」
「話してぇならスッと来いっての、何時までも気持ち悪い視線を向けてくんじゃねぇよ気色悪い」
「ホントにランちゃんって男っぽいわね~最近話題のサバサバ系って奴?」
「サバサバでも無いだろ、唯女っぽさがねぇってだけの話だ」
そんな事を話し続けている中、スーちゃんは国王陛下やアイルランドトレセン理事長と話して来ると離れていく。これで少しは話しかけられると思ったが、全くこちらに向かって来るがない。兎も角面倒になったのか食事を楽しもうと思う、アイルランドの国王が準備したパーティの食事、多少はマシになって来た貧乏舌でも味わえればいいのだが……と思っている中、周囲の視線を無視するように此方に来たウマ娘が居た。
「あ、あのランページさん今宜しいですか!?」
「確かセイントヴァーダント……だよな」
「はいっKGⅥ&QEステークスではお世話になりました、あ、あの……サイン、いただけますか?」
自分に話しかけて来た初の相手が一緒に走ったリスナー、何とも自分らしいなぁ……と思いながらもサイン色紙にサインをしてやる。ついでにツーショットも撮ってあげると彼女は酷く喜んでいた。迎えに来たトレーナーは自分に感謝しつつも不敵な笑みを湛えて行った。
「次は簡単にはいかんぞ、次は―――こいつの本当の暴力を教えてやる」
「上等だ―――って本当に暴力なの?」
「……普段はこんな感じなんだがな……君に会えた喜びで野生を忘れているらしい……済まないこれで失礼する」
丁寧に頭を下げてセイントを連れて行くトレーナー、内心で何処かの不愛想な宇宙人みたいな声だなぁと思いつつ、何方かと言えば担当を踏まえてマキナ乗りだなと納得する。と、今度は老人が声をかけてきた。優しそうな笑みを浮かべている好々爺にも見えるが杖こそ使っているが背筋は確りと伸びていて声にも張りがある。そして思う、このトレーナーは自分のトレーナー、南坂と同じ類の人間だと。
「お初にお目に掛かります、私はアイルランドでトレーナーをやっておりますアドミラル・K・アンダーセンと申します。貴方のお噂と活躍、そして配信は何時も見させて頂いております」
「そう言ってくださると恐縮です、メジロランページです」
「おはこんハロチャオでも構いませんよ、実は私と担当、そして家族を含めて貴方のファンでしてね。貴方の楽しげな配信には何時も活力を戴いております」
「この場で、フフフッこのような私ですが一応羞恥心はあるのです。サインや写真で勘弁して頂けると嬉しいですね」
「交渉成立ですね、孫が特にあなたのファンでしてね」
ニコやかで柔らかな物腰、丁寧な言葉遣いだが実に強かな物を感じる。そんなアンダーセンの背後から一人のウマ娘が姿を見せる。それを見て少しだけ驚いた、アルダンに似ていた。いや何方かと言えば彼女の方が身長は高いし身体つきもがっしりしている感じがするし髪も黒い。相違点も多いが本当によく似ている。そして勝負服は自分に似ている、白い男性スーツのような感じだ。
「トレーナー、そろそろ私も紹介して下さらないと」
「おおっ済まない。此方が私が担当しているウマ娘、アイルランドのトリプルティアラ、ラーズグリーズです」
「お初にお目にかかります、ラーズグリーズ。気軽にブービーって呼んでくださいね」
「メジロランページですって全然名前に掛かってませんけど……?」
ニックネームにしても随分と面白い名前だなぁと一瞬思いつつ、ケストレルの艦長がトレーナーだからウマ娘はブービーなのは納得が行く。だが如何してそのニックネームに行き着いたのかは分からなかった。曰く、昔はレースをやってもビリばかりだったが、楽しそうに走っていたので友人らから親しみを込めてブービーと呼ばれているとの事。本人も響きが可愛いので気に入ってるとの事。
「それじゃまあ……俺の事は気軽にランで良いですよ、友達にはそう言われてますので」
「承知いたしましたラン様」
「様もよしてください、メジロ家には途中から入った半端者で育ちは良くないんです」
「私も一般家庭出身なんです、一緒ですね。私にも敬語はいりませんので」
「んじゃまあ……宜しくブービー、これで良いかな」
「はい、此方こそ宜しくお願いしますねランさん」
そう言って握手を結ぶ。二人を見てアンダーセンは善き哉善き哉と言いたげな笑顔で頷いている。そんな中でパーティ会場の一角が何やら騒がしくなり始めた。
「It's surprise!!如何かな喜んでいただけかな!?その見事なまでに流線型なボディにはピッタリなアクションだっただろう!!」
「誰のボディがストーンですってぇ!?そこに直りなさい、轢き殺してやるわ!!」
「おっやるかい、それならば何方のステップがキレているかで勝負と行こう!!」
「何でそうなるのよ!!まず謝りなさいよ私に!!?」
「何だ喧嘩か?」
「トレーナー、もしかして……」
「国王陛下主催のパーティで……全く困ったものだ」
何やら賑やかになっていくそちらを見ると銀髪のウマ娘が栃栗色の髪をしたウマ娘にブチ切れているのが見えた。聞こえてくる内容を加味すると如何やら銀髪のウマ娘が悪戯をされて怒っているという所だろうか、そんな様子を見てラーズグリーズはあちゃぁ……と口元を抑え、アンダーセンはなんと言う事を……と顔を手で覆っていた。
「知り合いかブービー」
「知り合い、というかなんというか……彼女もアイルランドのウマ娘なんです。でも悪戯好きな所があって……」
「相手は……シルバーストーン君か、彼女のトレーナーのフォローにも回ってやらんといかんな……」
如何やらこのパーティは和やかな雰囲気で終わりそうにはないらしい。