貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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24話

8月。暑さが本格的に牙を剥いてくる時。今年の暑さもかなりの物、前以て確りと暑さ対策をして来て本当に良かったとランページは安心する傍らで今日も今日とてシンザン鉄を付けてのトレーニングに励み続けていた。

 

「すっごっ……」

 

普通の蹄鉄以上の凄い音を叩きだしながら疾走するランページを見るネイチャ、その重さに苦しんで思わず愚痴を零しまくっていた姿とは変わって以前のような走りを出来るようになっていた。だが走れるようになっただけ、以前のようなスピードはない。それでもあの重さの蹄鉄で走れているのは凄いとネイチャは感じた。

 

「お~ランさんってばもう走れるようになってる!!」

「でも全然遅い、あれで大丈夫なのかな?」

 

タンホイザとターボがそう言うのも分かる、最終的にはあれを付けたまま軽々と走れるようになるように目指すのだと思っていた身としてはまだまだ先は長いように見えた。隣を通り過ぎていくイクノを見ると益々そう思うのであった。

 

「トレーナーさん、何でシンザン鉄なの?」

 

思わず、理由を尋ねてしまった。如何してあれを使うのかと。

 

「態々あれを使わなくてもパワーアンクルで代用とか出来るんじゃないの?」

「良い質問ですねネイチャさん。理由はいくつかありますが、蹄鉄は何処に付けますか?」

「つま先、だよね?」

「はい。シューズのつま先部分に装着するのが蹄鉄です」

 

シンザン鉄を付けてのトレーニングの目的はつま先と足首の筋肉を鍛える事にある。ランページの戦法の殆どは身長を活かしたストライド、高身長ゆえに大きな距離を稼げる且つ大きなスピードを得る事が出来る。だが、同時にストライドは身体への負担が大きな走りでもある。

 

「ランさんはクロスオーバーステップと言った物が出来るようにかなり頑強です、ですが同時に足首などにも大きな負荷を掛けます。長年の結果、強くなっているとはいえ怪我をしないとは限りません。シンザン鉄を用いる事で足首を鍛えて負荷に耐えれるようにしつつ、怪我の防止を図っているんです」

「そんな効果が……」

「そしてつま先を上げる事を強く無意識的に出来るようになります、これによって足の回転速度も上げられます。加えてコーナーリングにも強くなるんです」

「うっわ、一石何鳥って奴じゃん。良い事尽くめだね」

「ええ、でもこれは元々身体が強いウマ娘でないと出来ない方法でもあるんです」

 

これ程迄の効果を得る事が出来るのがシンザン鉄。しかし、これを扱う事が出来るウマ娘は少ない。前提条件として身体の強固さが不可欠になって来る、そうでなければただ身体を虐めるだけのトレーニングに成り果ててしまい、ウマ娘にとって命ともいうべき脚を傷付ける結果に繋がりかねない。

 

「シンボリルドルフさんも、一度はこれをやろうとはしましたがリスクが大きい為に東条トレーナーが止めたほどですからね」

「あの皇帝でも……?」

 

かの皇帝ならば恐らく耐える事は出来るだろう、だが同時に怪我のリスクも相応にある。強化の為にリギルは許可しなかった。それは南坂は正解だと思っている。ランページは体格に恵まれているし足首なども強い、だからこれを採用した。其処を更に強くするために。

 

「ゼェ……はぁ……キッチィ……ったく此処まで走り込んで漸くまともに走れるようになったぜ……」

 

そんな話をしていると目の前に5周を走り終わったランページが座り込んでいた。自分からすれば5周もそんな蹄鉄を付けた状態で出来るだけで異常な存在に見えるのだが……ランページはまだまだ納得が行かないのかシューズを忌々し気に睨みつけている。

 

「なぁ~南ちゃんよ、試しに一回普通の蹄鉄着けて走ってもいいだろ~?どれだけ出来るようになったか試してぇんだよ」

「駄目ですよ。1週間前まではそれを着けてトレーニングに臨んでください」

「へ~い……トレーナーの指示には従いますよ~……」

「次は上半身強化のトレーニングですね、ライアンさんが御待ちですよ」

「ったくそれ言われちまったらのんびり出来ねぇって分かってるじゃねぇかよ、お綺麗な面してキッツいよな南ちゃんって」

「恐れ入ります」

 

ニコニコし続けているトレーナーに恨みを込めた視線を送りつつも、素直に従うように歩き出して行くランページ。なんだかんだで指示には確りと従っているので問題児扱いは一切されていないランページであった。問題児と言うのは―――

 

「イクノ~一緒に走ろ~!!!ダービーと一緒の2400m!!」

「良いですね、今の状態でどれだけ走れるか試してみたかったのです」

「よ~し!!マチタン~タイム計って~!!」

「は~い」

「って待って待って勝手に始めない下さい!!?」

 

勝手にレースを始めようとするターボのようなウマ娘を指すのだから。結局注意され、フェニックス賞と同じ1200で走る事になったのであった。

 

 

 

トレーニングルームでは先に鍛え始めているライアンがおり、それに続くようにランページも筋トレに励む。

 

「へぇ~それじゃあ今はそのシンザン鉄でトレーニング中、なんだね!!」

「そうなんだよ、全く南ちゃんってばいかにも好青年ですって感じなのにトレーニングには容赦ねぇの。まあそんだけ真剣に、組んでくれてる証拠だけど―――な!!」

 

ダンベルを軽々と持ち上げているライアン、それに続くようにバーベルを持ち上げるランページ。互いに意識しつつも負けないと言わんばかりの光景だ。

 

「そう言えばラン―――アタシ、次は9月の札幌で走るけどそっちは?」

「新潟、ジュニアステークス!!」

「もう今月なんだね!!応援、行ってもいいかな!!」

「ご自由に!!その代わりに、俺もそっちに行くからな!!」

「それもご自由に!!」

 

そんな言葉を掛け合いながらも二人は互いに順調に勝っている事を知っている、ランは3勝目が掛かっているG3レース、そしてライアンも同じG3に出る。これに勝って更なる励みにするのだ、トリプルティアラとクラシック三冠を同時に達成する為に。

 

「ラン!!」

「あ"あ"っ何!?」

「いつか、一緒に走る!?」

「当然だろ!!どうせなら、G1の舞台でな!!」

 

暗に、三冠同士の激突をやろうというメッセージ。それに微笑みながらも無言でそれを了承した。そして絶対に勝つと、いう意気込みを込めてバーベルとダンベルをおいた。

 

「それじゃあ―――」

「その為に―――」

「「トレーニング後の30分以内にたんぱく質!!」」

 

そんな言葉をハモらせて、お互いに大笑いしながらも一緒にシャワーを浴びてからプロテインを飲みかわすのであった。

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