大波乱のパーティも終わり、いよいよ本格的にチャンピオンステークスへに向けての調整が始まる中でランページは先輩としての役目も欠かさすことはない。
『オープン勝てたよ先輩~!!』
「やったなチケット、無事に2勝目か」
『次はいよいよ重賞チャレンジ、今から燃えて来たよ~!!』
7月にデビューしたカノープスのメガホンことチケゾー。無事にメイクデビューに勝利してその次のオープン戦も見事に勝利、そのまま札幌ジュニアステークスへと挑戦する予定との事。このままスケジュール通りに進んでいけば年末のホープフルステークスに挑戦するらしい。
「そっちの様子は如何だ、相変わらずか?」
『そんなには変わってない感じです、最近ドラランが漸く冷静になりながら熱血するコツを覚え始めてきたんですよ』
「順調って感じか……」
自分が居ないカノープス、少しだけ心配だったが如何やらイクノとネイチャが中心となって纏めてくれているらしい。時たま真面目な顔をしてぶっ飛んだ発言をするイクノに皆驚くが、それをネイチャが上手く修正するとのこと。堅物眼鏡キャラと見せかけてイクノは極めてノリが良いからなぁ……としみじみ思う。
『ランページ先輩はもう直ぐですよね!!応援してますよ!!』
「あんがとよチケット、ウイニングチケットからの応援、正しく俺にとっての勝利の特急券ってか?」
『んもうやめてくださいよ~先輩ってば~♪』
そんな風に和やかな事を話したりもした。間もなくアイリッシュチャンピオンステークスが開催されるという時の事だった、
「なぁ~んか、妙に今日は騒がしいな。トレセンだとこの位は普通だったが此処だと珍しいな」
今日も変わらずにランページ鉄での走り込みを続けているとコース周辺が随分と騒がしくなっていた。此処はアイルランド国王所有の土地、最低でも許可が無ければ入れない筈……それなのに此方を見てキャアキャア言っている観客がいて騒がしい。
「何でも今日は王城見学ツアーの日らしいのよ、それでランちゃんの練習風景を組み込んで良い?ってファーちゃんにお願いされたからOKしたの」
「俺の了承は?」
「だってランちゃんはどうせ気にしないだろうし普通にファンサービスするでしょ?」
「まあね」
まあそういう事情があるのならば別にいいが……最低でも無許可ではなくスーちゃんの許可があるのならば自分に拒否権はない。兎も角走り込みを再開しても此方に視線は固定され続けている、その中に熱心にメモを取っている者も居る事には当然気付いている。近くにいるSPはそれを止めようと動こうとするが―――スーちゃんがそれを止める。
「心配いらないわよ、今更あんな事をしても遅いんだから」
「……承知いたしました」
恐らく出走するウマ娘の関係者で勝たせる為に少しでも間近でデータを取って活用して貰おうと考えているのだろうが……それをやるには些か遅すぎるしランページの攻略方法なんて実質的に一つしかない。それをするには純粋にスペックで勝負するしかない。故にデータ取りなんて……と思っていたのだが、一人のウマ娘がそのノートを奪うと目の前でビリビリに破いた。
「なっ!?な、なにをするんだ君!?我が祖国のウマ娘でありながら!」
そのウマ娘は堂々としていた。まだ幼さが残っているにも拘らず、既に王者としての風格を醸し出す程に凛として大人に向き合っていた。
「私達祖国のウマ娘達は正々堂々と、勝負をするのだ。データを取るのは正しい事だ、だが余りにも遅すぎる。大方、どうせ極東のウマ娘如きがヨーロッパで勝てるわけがないと高を括っていたのだろう。それなのにその実力を正確に見る事も無く今更焦ってデータを取る、真の強者はそんなデータなど既に持っているし必要としない」
二回り以上も歳が違うであろう大人に対しても一切臆せず、言葉を作り続けるそのウマ娘にその男は唇をかんだ。男はシャルウイダンスのファン、彼女だけを応援していると言っても良い熱狂的なファンだ。ランページの走りを見てもシャルの方が上だと侮り続けていたが、その考えを漸く改めた。そして何とか弱点を探ろうとしている。
「既に幕は上がっている、後は祈ればいい。祖国の英雄たちの健闘を……そうでしょう、メジロランページ殿」
「お~お~カッコいいね~どうせ俺は極東のウマ娘だけどね~」
『っ!?』
突然、件のランページがその場にやって来た。さっきまで走り込んでいたのでは……と皆が困惑する中、ランページは彼女に目をやり続けた。
「そんなツンケンしてやんな、自分に出来る事を必死にやろうとしてるだけじゃねえか」
「否定はしない、だからこそ何をするべきかは見極めるべきだと私は思う。もう少し考えを巡らせればもっと有益な事がある、今まで通りに応援する事が一番である事も」
「っ―――……すいませんでした……」
男は素直に頭を下げた。ウマ娘の少女に諭されて正しい事を理解した。そしてそのまま近くの職員にこのまま帰る事を伝えると、城の外へと向かって行った。それを見届けると少女は改めて自分を見据えた。
「私達の代表は強い、最高のレースを保証します。故に良いレースをしてください」
「最初からそのつもりだ。お前さん、名前は」
ランページはどうしても気になった、此処まで強く言えるウマ娘の名前を。少女は胸を張りながら、誇りをもって自身の名前を告げた。
「
「モンジュー……覚えたぜ」
その名を聞いてから彼女を握手をした。それを皮切りに見学に来ていた人達にファンサービスを行うのだがランページの脳裏にはそのウマ娘の名前が繰り返し響いていた。まさか此処でその名前を聞くとは思わなかった。
日本のホースマンの悲願、凱旋門賞。その制覇に最も近づいた競走馬、エルコンドルパサー。その悲願を打ち砕いた競走馬こそが
ウマ娘でもフランス最強のウマ娘と言われたりもするが、出身はアイルランド。彼女が此処に居る事は全く可笑しくはない。何れエルコンドルパサー、スペシャルウィーク、エアシャカールとも激突するあのモンジューとまさか此処で会うなんて思いもしなかった……だが、会えてよかったという気持ちもあった。
「モンジュー、君の言う通りに最高のレースになる。俺が、そうして見せる」
「楽しみにさせて貰います。ファンの、一人として」