貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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241話

「フフフッどうランちゃん、落ち着く?」

「すっげぇ落ち着く……前にブライトにしてあげた事あったけど、こんな気持ちだったのかな……」

 

ランページは膝枕をされていた。それをしているのは当然スーちゃん、本当の孫に向けるような親愛と情愛を向けながらその頭を優しく撫でている。彼女にとってランページはもう身内も同然、望むというのならば今すぐにでもシンボリに迎え入れたい程。まあそれをやったらアサマから雷を落とされるだろうからしない、ランページにとってもメジロ家の方が居心地は良いだろうし。

 

「それにしても如何したのランちゃん、急に膝枕して欲しいなんて」

「特に理由はないさ、唯―――甘えたくなったのさ。一応俺もまだまだ餓鬼だからな」

「フフフッ国のトップと交流を持つ小娘ちゃんね」

 

そう言われて顔を隠すように背く。実の所、如何してこんな事をしたくなったかは言語化できない。本当に何故かそうしたくなったからとしか言いようがないのだ。迷惑だったかもしれないと身体を動かせようとした時、頭を撫でる手が動きを止めさせる。

 

「大丈夫よ、甘えたいときは何時でも言いなさい。これでも貴方のお婆ちゃんのつもりなんだから」

「……俺はメジロだぜ」

「関係ないわよそんなの。テイオーちゃんだって孫として可愛がってるんだから」

 

それは運命的な何かを感じているからだろうに……と思うが、そんな気遣いが素直に有難い。もう自分は胸を張って家族だと言える血縁は居ない、そんな自分はある意味で孤立してしまっている存在。そんな自分を家族として扱ってくれる人たちには感謝の念しかない。

 

「……スーちゃん」

「なぁに?」

「大好き、だから見ててね。俺の……レース」

 

身体を起こし、スーちゃんの頬にキスを落とすと椅子に掛けていたコートを引っ手繰って歩み始めた。

 

「フフフッアーちゃんにはやり難いだろうから、こういうのは役得よねぇ~♪」

 

孫からの親愛を受けて身を捩らせてしまう、年甲斐にもはしゃいでしまう自分がいるが大好きな孫からのキスを喜ばない祖母が居ない訳がない。そう思いながらスーちゃんは電話を取った。相手は勿論アサマ。

 

「もしもしアーちゃん?」

『聞こえてるわよ、どうかしたの。もう直ぐ出走だった筈だけど』

「ねぇっランちゃんをシンボリにくれない?」

『寝言ほざきたいなら永眠させたろか』

 

この時、共にTVを見ていたライアン、マックイーン、パーマーはアサマの額に青筋が乱立し声がガチギレしていたと後にランに語った。

 

 

レパーズタウンレース場。アイルランドの首都ダブリンにあるレース場、アイルランドを代表するレース場にて行われるG1レースこそアイルランドの最強ウマ娘を、チャンピオンを決める祭典、アイリッシュチャンピオンステークス。海外からも観客が押し寄せて異例のレース場は超満員、これをステップにし凱旋門賞に向かうウマ娘もいる為に注目度は確かに高い、だが今回ばかりはそれだけではない―――それ相応の理由がある。

 

『聞こえるでしょうかこの超満員の熱気と歓声!!アイリッシュチャンピオンズウィークエンドと言えど此処までの声が集う事があったでしょうか、日本からも多くの方が訪れているのが此処からでも分かります。観客席には我らが暴君を応援する横断幕が広げられております!!さあそんな声にこたえるかの如くやって来たのが我らが日本の誇り!!26戦26勝、海外芝ダートG1制覇、彼女の偉業は数えればきりがないでしょう!!さあこのまま何処までも駆け上がって欲しい!!メジロランページ!!!』

 

姿を見せた自分に空が割れんばかりの声が響き渡る。ターフを行く彼女に向けて放たれる猛烈なラブコール、それに応えるつもりはなかったのだが……観客席を見てランページは思わず言葉を失った。

 

「独裁政権下の民一同、応援に来ましたぁ~!!」

『閣下~勝利を我らが手に~!!』

 

「あれかぁ……」

 

以前、ライスの応援非公認ファンクラブ青い薔薇の会と会った事がある。尚、あれは日本ダービー後に公認ファンクラブになった。自分にも一応ファンクラブがあるのは分かっていた、それでも名前だけだった。それこそ暴君支配下の民の集い、そんなファンクラブは自分が配信で使っているアカウントの画像に使っている蹄鉄をネックレスのようにしていた。

 

「人気ですね閣下」

「勘弁してくれないかブービー、つうかなんで閣下呼び……」

 

そんな自分にクスクスと愉快そうに微笑みながら歩み寄って来たのはアイルランドのトリプルティアラたるラーズグリーズ。自分のそれとはどこか対照的にも見える白い軍服の礼服を纏っていた。漆黒の悪魔としてトゥインクルシリーズに到来し、三冠を達成した際には漆黒の英雄と称えられた。そしてURAから与えられたのがこの礼服。白い英雄、それがラーズグリーズの栄光を称える凱旋を意味している。

 

「楽しそうじゃない、あれが貴方のサポーター?凄い熱気ね」

 

観客席を眺めながらも揶揄うような声色でやって来たシルバーストーン。そんな彼女も彼女でファンは居るのだが……何だか妙に毛色が違うようにも見える。何というか……F1のサポーターのように見える格好をしている。

 

「モータースポーツの応援団みたいな感じしてるぜあれ」

「フフンッそりゃそうよ。お父さんのチームの皆だもん」

「チーム、ですか」

「私のお父さんはF1レーサーなのよ、私もその後を継ぐつもり」

 

トゥインクルシリーズを引退したウマ娘の進路の中には大きい流れもある、それは同じスピードの領域。自分の脚ではなくマシンで走る事を選ぶ者も多くモータースポーツはウマ娘の世界でもかなりの人気を博している。普通の人間よりも丈夫である為によりGに耐える事が出来るにも拘らず、そんなウマ娘達を一蹴する超一流ドライバーの存在もいるのも人気の要因。そんな父とそれを支える母を持つのがシルバーストーン。

 

「パパとママは皆の信頼を受けて凄いF1マシンを支えてる、そんな凄いチームが私を支えてくれる。そんな私は無敵よ、絶対に負けないわ!!」

 

思わずブービーと共に笑みがこぼれた。溢れんばかりの両親の愛情、そしてそんな両親が率いるチームからも信頼と親愛を受けて育つシルバーにとってこれ以上ない程の好条件。最高の面持ちでレースに臨む、これは強敵だなと思った所にヌッと何かが現れる。

 

「そう言いつつも2回程2着があるようだが、これも君にとって負けではないとは驚きだ」

「……うっさいわね、余計な茶々入れないで頂戴」

 

悪戯好きな小悪魔こと、シャルウイダンス。如何やらトレーナーに出走は許して貰えた様子。だが、気のせいだろうか……側頭部辺りに少しばかり赤くなっている所がある。丁度指で隠れそうな感じの……トレーナーのアイアンクロー跡だろうか。

 

「兎も角今日の主役は私、君達は添え物、副菜、オードブルさ。精々私のダンスを盛り上げる要因になってくれ!!」

 

高笑いをしながらも観客にアピールしながらもゲートに向かって行くシャル。そんな姿を見ながらもシルバーがそっと自分達に耳打ちをして来た。

 

「あいつのトレーナー、出走させる為にあの騒ぎの後ですげぇ頭を下げまくったらしいぜ?それなのにあんな事言えるんだからある意味すげぇよあいつ……」

「シャルもそれは分かっている筈なんですが……まあ自分を貫き通せるというのはある種の強さではありますが……」

「まあうん……今日は宜しくな」

「こっちこそ」

「ええっ」

 

そんな三人はシャルを放置してがっちりと握手をした。そのスポーツマン精神溢れる光景に拍手が巻き起こったのであった。そして―――遂にゲートインが始まった。ランページは大外枠。だがどんな場所だろうが走るだけだと心に決めながら、その時を待った。そして……

 

『さあアイリッシュチャンピオンステークス今スタート……しましたぁ!!アイルランド最強ウマ娘は一体誰なのかを決める戦いが今始まりましたが、先頭を行くのはメジロランページ、いやその他にも抜群のスタートを決めたウマ娘がいるぞ!!シルバーストーン、ラーズグリーズ、シャルウイダンス!!!三人のウマ娘がメジロランページの領域に果敢に挑んでいく!!逃げウマ娘が4人の揃い踏み、大逃げ合戦だぁ!!』

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