貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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242話

『抜群の好スタートを決めたメジロランページに続くのはフライング・シルバー、シルバーストーン。漆黒の英雄、ラーズグリーズ。ダンシングテイナー、シャルウイダンス。3バ身程離れてセイントヴァーダントが続いて行きます。先頭集団はこの5人ですが、後方集団は一定のペースを維持したまま』

 

真っ先に飛び出すランページを追走するように付いてくるシルバー、ブービー、シャル、セイント。彼女らに共通しているのはランページの事を警戒している、他のウマ娘は警戒事しているがその度合いは彼女らに比べると低い。警戒していない訳ではないがそれでも低い。

 

相変わらずの大逃げを打つランページ。この欧州ではランページの大逃げは物珍しい、最初からこんなペースで本当に最後まで行けるのかと疑う物も走っている中にはいる。無理だと思うが即座に伝説のジャパンカップが脳裏を過り、自然と焦りが生まれて来る。そんなペースの中で第一コーナーを越える。

 

「ははっ流石の逃げね!!私でもこんなペースで走らないわよ!!」

「の割に、余裕そうじゃねえか!!」

「F1のGに比べたらこんなの何ともないわ!!ポールポジションは譲ったけど、最後に勝つのは私よ!!」

 

自分に最も近いのはシルバー、同じく逃げ戦法を使う彼女は口ではそう言いながらも付いて来ている。流石はレーサーに育てられたウマ娘なだけはある、スピードはかなりの自信があるらしい。その一方で自分達の脚に平然とついてくるのがブービーことラーズグリーズ。

 

「中々のペースですね、持たせられます?」

「それはこっちの台詞だ、お前は」

「愚問」

「Good Girl」

 

見た目こそアルダンに似ているが、内面はまた違った意味で覚悟が決まっている。勝負根性が極めて高く負けん気もある、このハイペースに難なく付いてくる。向こう正面のストレートに入る。

 

「簡単に逃げ切れると思わない事だね、逃げ切るのはこの私さ!!」

 

そう言いつつも自分からは2バ身、ブービーの半バ身程度の位置を駆けるシャル。彼女も同じ逃げだが、自分のような大逃げではない、何方かと言えばパーマーの溜め逃げに近いと感じる。そのまま駆け抜けるが少しばかり試してやる、という悪戯心が働いた。

 

「シルバー、ブービー……ついて来れるか?」

 

不敵な笑みと共に放たれた言葉に二人は釣られるように笑ってみせた。何かを仕掛けるんだな、だがそれを敢えて自分達に言う。紛れもない挑戦だ、勝負の申し出だ。現状、彼女は認められた世界最速の称号持ちのウマ娘。それからの勝負……受けない通りはない、勝利を得るのならば完璧で完全な勝利が欲しい。

 

「ついて来れるかじゃないわよ、どうせならぶち抜いてやるわよ!!私はF1ウマ娘よ!!」

「―――貴方にとって私は悪魔か英雄か……今ハッキリさせてあげます!!」

 

承諾は得た。ならば、やろうか。地面を深く踏みしめる、日本刀が如きランページ鉄に力が掛かる。それが合図となる、二人も共にターフを駆ける風となる。

 

『メジロランページが此処で加速!!いやシルバーストーン、ラーズグリーズ共に上がって行く!!まだ半分以上もあるのにもう仕掛けるのか!?これは作戦なのか、それとも暴走なのか!?』

 

「逃がさないさっ逃がしては、意味がない!!!」

 

レパーズタウンレース場はスタート直後のコーナーを越えれば800メートルほどもある向正面の直線に入る。平坦な道が続くが、まだまだ始まったばかりで加速するのは後半走り切るつもりがないのかと誰もが思う、が、今回ばかりは誰もそれを考えられない。

 

『セイントヴァータント、クーモンガ、スーパーパルス、マジックキャル、後方のウマ娘達も次々とペースを上げていきます!!これは先頭に引っ張られているのでしょうか!』

 

「そう警戒するのも当然でしょうね」

 

レースを見つめるスーちゃんはそう呟いた。

 

「ランちゃんはこれまで逃げ続けている、此方側(海外)の皆様が一番に想起するのがワールドレコードのジャパンカップ。その時と同じ最初からの超ハイペース。あの時に比べて400mも短いんだからこのまま逃げ切られると思うのは自明の理、だからせめてリードされ過ぎないようにしたいのは当然、当然なんだけど―――若いって良いわねぇ」

 

直線も走り続ける、残りが1400を切ろうとするところでコースが上り始めていく。

 

「まだ、行けるか!!」

「まだまだ、行けるっての!!」

「問題、なく!!」

 

アクセルを踏み続けているランページの走りに付いてくる二人、そして後方のシャル。だが此処からじわじわと来る、このペースに本当について来れるのか、試してみるといい。自分達を前座に使うと言ったお前の力を見せてみろと思う中第3から第4に入ろうとした時―――シャルの呼吸は既に酷く荒くなり始めていた。

 

「(余裕なんてない、余裕なんてある訳がない……!!何なんだこのバカペースは……!?)」

 

シャルの脚質も逃げだがそれは一定の余力を残して最後に残って力を開放する溜め逃げ。だがその余力がほとんどない、減速はしないまでも加速する余裕がまるでない。それ程までに3人のペースが破滅的、平坦な長い直線を使って存分に加速し続けていた3人。それに付いて行こうとしたシャルはそれにこそ耐えられた、だがコースが徐々に上り始め、辛さが加速的に増してきた。走る中で最も疲れるのが再加速、そして疲れないのが速度を保つ事。その意味を、存分にシャルは味わう。

 

「(分かってて、分かってて加速してたのか……!!私が、前座にすると言った手前、自分を上回る為に離れすぎないようにするって分かって!!)」

 

ライブをメインとし、レースを前座とする思考。だからこそレースにも手を抜かないが勝ち方に拘るとランページは踏んだ。このレースの最高の勝ち方、それは自分を上回る事、ならば絶対に余力を残しつつも距離を維持すると思い至った。これまで26戦を戦い抜いたからこそ察知した嗅覚だった。

 

「負けたく、ないっ!!!トレーナーに、迷惑をかけてまで私は―――最高のライブをっ!!」

 

第4コーナーへと入った。そこは坂になっている。此処からゴールまでが長く続く坂、そして彼女が見たのは……既に遥か先を駆け抜けていく三人の姿。その姿は―――ライブよりも輝いて見えた。

 

 

『さあ最後の直線に入った!!此処からはずっと坂路、パワーとスタミナが要求されるが先頭の3人は未だにスピードが鈍らない!!何というウマ娘達だ!!』

「はぁぁぁぁあああああっっ!!!」

『此処でメジロランページ!!メジロランページが抜け出していく!!!2バ身から3バ身!!シルバーストーンも懸命に脚を伸ばす!!ラーズグリーズも負けていない、アイルランドのトリプルティアラは伊達ではない!!』

 

駆け抜けていく風、その風の強さを感じつつも無意識的にその風に対抗する為の走りを取るシルバーとその風すらも踏み越えていくブービー。だがそれすらも超えていくものが先頭を立ち続けていた。

 

「悪魔でも英雄でもねぇ、俺は―――鬼神で暴君、そんだけだ!!」

 

ひと際強く地面を蹴りつける、最早誰も追い付けない。シルバーストーンもラーズグリーズも従えたまま、鬼神と呼ばれる暴君は猛然と駆け抜ける。

 

『メジロランページ先頭、メジロランページ強い強い!!正しく王者の走り、メジロランページ今っゴールイン!!メジロランページ一着ぅぅぅう!!二着ラーズグリーズ、三着シルバーストーン!!四着にはセイントヴァータント、五着にシャルウイダンス。これで海外G13連勝!!27戦27勝目はアイリッシュチャンピオンステークス!!そしてタイムが―――1分59秒7!!?レコードタイムです!!前走のKGⅥ&QEステークスに続いて、このアイルランドの歴史にその名を刻みましたぁぁぁ!!!』

 

「最後の最後まで粘り切れなかった……素直に悔しいなぁ……」

「くっそぉぉっ負けたぁぁぁぁ!!悔しぃっ!!」

 

ブービーとシルバーは素直に悔しかった、あのスピードに振り切られまいと必死に喰らい付いていたがそれも作戦だった。自分達が振られて外に膨らんでいたのにあんなトップスピードのままでまさか本当にカーブするとは思わなかった。その時に一瞬見えたが、ランページは脚を地面に埋めるようにして走っていた。それと鍛えたパワーで遠心力に振られる事も無く、スピードを維持していた。

 

 

「ランページ、貴方本当に凄いわ!!今回は完敗、だけど私は貴方に挑戦し続けるわ!!手始めに今年のジャパンカップで貴方のワールドレコードに挑戦よ!!」

「あら、それは私もですよ。今度こそ貴方に勝ちますから」

「楽しみにしてるぜ」

 

そんな中でランページは完全に崩れ落ち全身で呼吸をするシャルに目を向けた。彼女は荒い息のまま此方を見据えていた。まるで憧れるかのように、視線を全く動かす事無く、此方を見ていた。

 

「ハァハァハァハァ……レースでこんなに目を奪われたのは初めてだ……今度からはもっと真剣に、ライブもレースもやる……だからまた、走ってくれ」

 

それを聞くとランページは口角を持ち上げながらも背中を向け、天に向けて二本の指を立てた。これで欧州二勝目、そして次は―――いよいよ凱旋門!!

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