メジロランページのニックネームは暴君。それは自らの名前に由来する、ランページが暴れ回るという意味を持つ為にそこから暴君という名が付いた。それは海外においても基本的には変わらない。だが、最近は別の名前が定着し始めた。レースにおいて絶対的な強さを見せる事から鬼神、覇王、そして魔王。暴君という王の呼び名から派生した呼び名が幾つも生み出されている。が、最近はその名に相応しい姿を見せ始めた。
「ランちゃん、坂路はもう終わりよ」
「あと一本、一本だけで良い。頼む」
「……しょうがないわね、この後のメニュー少し変えても良いならやってもいいわよ」
「恩に着るよスーちゃん」
頭を下げると、直ぐに加速して再び坂路へと向かって行った。文字通り、一瞬で加速しきったその速さに取材を申し込んだ記者は呆然としていた。
「し、信じられない……本当に坂路を走り終えた後の加速なのか……!?」
「狂ってる……そう思える程になんて坂に強いんだ……」
これで何本目の坂路になるのだろうか、それなのに全く速度が落ちない。山を登っていた身としては単純に起伏がキツいだけでは根は上げていられない、上げていたらシンザンに雷を落とされてしまう。だがそれは周囲が知らぬ、記者からすればランページがロンシャンの10mの高低差を克服するために努力しているようにしか見えない。走り終えた彼女が次のメニューまでの小休止をしている間に質問をする。
「メ、メジロランページさん。次はいよいよ凱旋門ですが自信の程は!?」
「自信?さあな」
「さ、さあなって……」
期待していたコメントとはほぼ真逆な物が帰って来た、思わぬカウンターを受けたように身体が硬直してしまう。
「自信なんて結局はその日になってみるまで分からねぇもんだ、俺は今その自信を作ってる所なんだ。絶対に裏切らねぇ自信を」
日本からやって来たランページが気に入っている出版社の記者、よく話すしある意味気心が知れていると言っても過言ではない。だがこの時の瞳を記者は忘れられなかった。酷く澄んだ清流のように穏やかで綺麗な瞳をしていた、世界最高峰と言われる凱旋門を目前としているとは思えぬ程に極めて冷静に自分と向き合ってる彼女に姿に、記者は本気で惚れ込んだ。
「しょ、勝利インタビュー、予約させてください!」
「いいぜ、アンタの所は気に入ってるから」
気さくに笑ってメニューに戻っていく彼女に反射的に出た言葉に恥ずかしさを覚えるが、それ以上に何処まで行けるのかを見届けたくなった。一人のファンとして……。
この日、いよいよ凱旋門賞出走ウマ娘の記者会見が行われようとしていた。此処にいるウマ娘は全員猛者、出走するに値する者ばかりが揃えられている。その中に数えられているランページも当然優駿の一角。そんな彼女は壁に身を預けてこそいるが静かに待っていた。当然ハーブシガーなんて吸っていない。静かに待ち続ける中で一人のウマ娘が近づいて来た。
「少し、良いだろうか」
「何だい」
「……メジロ、ランページ……スピードシンボリをトレーナーに欧州に来た王者……まさかあの人をトレーナーとは……信じられないな」
何処か、懐かしむような信じられないようなと呆れる様なものを含ませながらも語る彼女の姿に一人思い当たるウマ娘が居た。以前少しだけ話を聞いた、シンボリの俗物がイギリスから戻そうだとか……
「スーちゃんとは仲がいいもんでね」
「スーちゃんとは……益々私には出来ない事をやってのける、尊敬に値する」
「こんな事で尊敬されてもな」
苦笑するとつられたように笑った。そんな彼女は名乗った。
「失礼。オルタナティブセブンという、これでも元々はシンボリに関係していた」
「メジロランページだ、話は少しだけだが聞いた事あるぜ。スーちゃんアンタの事、心配してたぜ。この後話すか?」
「良ければ引き合わせて欲しい」
スーちゃんもきっと会いたがっているだろうから引き合わせる事については了承する。積もる話もあるだろう、そのつもりで握手をすると近くで見ていた別のウマ娘が興味を持ったかのように此方を見て来た。
「ねぇねぇっ二人って仲いいの?さっきから何だか楽しそうに話してるけど!!」
「初対面だ。だが話をする程度なら一々ピりつく必要も無いだろ」
「同感」
「へぇっ~それじゃあボクとも話そうよ!!」
そう言われた途端に会見の開始時間になってしまった、そのウマ娘はえっ~もう少し位いいじゃないか~とむくれるのだが、後で話せばいいかと直ぐに自己完結してあとで話そうね~っと去っていく。遂に始まった凱旋門賞出走ウマ娘の記者会見、撮影許可が下りると同時に無数のフラッシュが焚かれていく。ロンシャンレース場の説明がなされていく。
「それでは出走ウマ娘の皆さんのコメントを戴きたいと思います」
そんな中でも時間は容赦なく迫っていく。コメントが取られ始めていく。全員がこの凱旋門に向けて様々な物を向けている、努力、夢、願い、この最高の舞台のレースでそれをぶつける為に此処に来ている。
「オ、オッタージャーニーさん有難う御座います……」
「フンスフンス!!」
「つ、続きましてディープチャージさん」
何故か着ぐるみを着ているウマ娘、オッタージャーニーのコメントに汗を欠きつつも進行役によって次のウマ娘にマイクが渡される。
「私は勝つ、それだけです。例えどんな相手だろうと……それが、メジロランページだろうと」
強気なコメントに報道陣から感嘆の声が漏れる。そうだこういうのが欲しかったんだ……と皆が頷く。今のご気分は如何ですか、聞かれてご飯食べたばっかりなので少し眠いですなんてコメントは求めていない……まあある意味美味しいコメントかも知れないが、出来ればこんな感じで未だ無敗のランページに対するコメントが欲しかった。
「それじゃあ次はボクだね!!ナハトフォーアハングは皆が笑顔になれる様な楽しくてワクワクするようなレースをする事を誓いま~す!!」
当人は良い事言った!!と言わんばかりにドヤ顔をしつつ、ムフ~♪と言わんばかりに鼻息をしているが、周囲の目はなんというか暖かい事に気付いていない。だがまあ言っている事は良い事な上に凱旋門という舞台では確かにそれは必要な事だ。そして次に渡されたのがオルタ。
「次は同じく無敗、そしてメジロランページとも対戦経験のあるベストルーティンを下したオルタナティブセブンさんです!!」
「……ああ」
静かにマイクを受け取る、そして構える。流れる沈黙の中、焚かれるフラッシュの音のみが木霊する。オルタの持つ独特のオーラが緊張感を生み出す中、待たれたコメントは―――
「勝利を、目指す」
極めてシンプルで決意に溢れた表明、短い言葉に想いに皆が驚嘆する中、次のウマ娘がマイクを取った。誰もがそれを待っていた。そのコメントを待ちわびていた事だろう、この時を、ずっと待ち侘び続けていたのだから。
「私は、私はずっと待ち続けて来た。あの日、日本の府中のジャパンカップからずっと」
何度も走りたい走りたいと急かして電話した日の事は今でも思い出せる、そしてその時に決めた事も。あの時に交わした言葉があったからこそ自分は今此処にいる。隣にいるランページに視線をやりながらも彼女は言葉を続ける。
「私は挑戦する、連覇が掛かってるなんて如何でもいい。これは私のプライドいや、全てを掛けて挑む決闘よ。この凱旋門、約束通りに来てくれて嬉しいわランページ」
エルグッツ。嘗て、ジャパンカップでランページに敗れたウマ娘。その後、彼女は1年間海外に向けた準備をしていたランページに相応しい相手になる為に毎日を過ごし続けた。そしてその末に彼女は昨年の凱旋門賞を制した。そして―――再び相まみえる時が来た。連覇なんて如何でもいい、彼女の中にあるのはランページに勝つ事だけ。
「それでは、最後に……メジロランページさん、お願いします」
「あいよ」
そう、凱旋門賞は世界最高のレースではあるが自分にとってはあの時にした約束を果たす場でもある。
「この凱旋門には色んな特別がある、世界一と言っても過言じゃねえのも頷けるほどに重い特別が此処にある。それぞれの特別がある、俺の特別は唯一つ……この凱旋門で最高のレースをする、ただそれだけだ。最高の走りを最高の舞台でやる、こんだけの相手がいる中でやれるレースなんて中々無い。楽しませて貰うぜ―――全力でな」
不敵な笑みの宣言と共に、無数のフラッシュが焚かれる。間違いなく、この凱旋門は歴代でも最高の物になるだろうという予感があった。それは間違いなく的中する。速く、その時が来て欲しいと誰もが思った会見だった。
GameMaster様よりオッタージャーニー、武士道(河童)様よりデプスチャージ、無双レイヴェルト様よりナハトフォーアハングを頂きました。有難う御座います!!