貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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247話

曇天からの雨、そして雷という最早最悪にも近い天候のコンディションにも拘らずロンシャンレース場にいる人々は一人たりとも微塵も帰る事を考えたりはしない。寧ろこの一戦を見なければ、この先の人生で絶対に後悔するという思いがあった。故に退かない、この一戦だけは……必ず見届ける。そんな思いのまま、留まり続けた中に彼女が現れた瞬間にそれが報われた気がした。

 

「待たせたな!!」

 

待たされた、だけど……待つだけの価値があった。

 

『さあ日本の誇り、日本の代表、最早尽くす言葉さえも見当たらない我らが暴君がその姿を現しました。生憎の雨ですが、彼女を曇らせる事は至難の業。彼女を曇らせる事が出来るのは最早敗北のみ、無敗の神話を執筆し続ける生きる伝説がロンシャンレース場にやってきました』

 

改めて見てもとんでもない大観衆、ロンシャンレース場はもはや限界ギリギリまで人数を収容してパンク寸前。入れなかった人々は急遽設置された大型モニターに釘付けになったりスマホでの観戦をしている。そんな観客たちにパドックでも応えたが走りながらも腕を上げて応えてやる。

 

「来る所まで来ちまったって感じだな、あいにくの天気だが……それをぶっ飛ばすだけの走りをすりゃ良い話だな」

 

この雨でバ場状態は最悪の一言、ロンシャンのバ場は粘土質。乾けば硬く、濡れれば軟い。日本のそれが100だとすれば此処は70という話がある。だがこれは70どころの話ではない、もうこれは50位なんじゃないかと思う位には地面が軟い。ハッキリ言って酷い状態。

 

「まさかこんな天気になるなんて……最悪だわ」

「折角の凱旋門の為に勝負服新調したのに……」

「転んだらもう起き上がれなさそう……」

 

勝負服は基本的に豪華煌びやか、それは海外でも変わらない所か此方の場合は余計に豪華さが目に付く。ドレスだったら見事な脚線美を見せる度に肌を露出させたりしているウマ娘が多い。そんな彼女にとって今のロンシャンは極めて最悪とも言える。誰だって新しい服やお気に入りの服が泥に塗れたりするのは嫌なのは当然。

 

「どうかしたかランページさん」

 

多くのウマ娘がこれ以上の雨が酷くならないように祈りを捧げる中、一人だけその雨を受けても笑みを零さずにどこか懐かしさ感じさせる表情を作る彼女にオルタが声を掛ける。彼女は彼女で雨はそこまで気にならないらしい。

 

「この雨も、なんか懐かしく思っちまってるだけだよ」

「雨……此方に来た経験はないと聞いているが」

「そういう意味じゃねえさ、悪い私事って奴よ」

「プライベートか……野暮な事を聞いた」

 

プライベートと言えばそうかもしれない。新聞配達に天候なんて関係は無かった、デカい台風でも来ない限りは自分はそれを続けていた。ゲリラ豪雨の中だろうと梅雨時だろうとそれは変わらない。そんな記憶がフラッシュバックしていた。レースこそ走っていなかったが走る事は結構していた事を思い出した。

 

「雨雨降れ降れ~♪」

 

そんな中元気なウマ娘はまだ居る、自身の名前がカワウソの意を含んでいるオッタージャーニー。そんな彼女の勝負服は……着ぐるみ、着ぐるみである。カワウソの口から顔が見えるタイプの着ぐるみを勝負服にしている。

 

「何つうトンチキな勝負服だおめぇ……つうかそれで走れるのか?」

「走れるよ?これ着てG1勝った事あるもん!!」

「バケモンかお前、色んな意味で」

「もっと褒めていいよ、フンスフンス!!」

 

本当に何で走れるのか……まあウマ娘の勝負服なんて大概な物ばかりなのであまり強く言えない類の話ではあるのだが……実用性というか普通の私服にしか見えない自分の勝負服の対極にいる様な存在だ……と思っているとオッターの背後から白黒のワンピースドレスを纏ったウマ娘、ナハトフォーアハングが抱き着いた。

 

「会見の時も思ってたけど本当に可愛いなぁ~僕もこんな感じの勝負服にすればよかったかなぁ~♪」

「フフンッ!!この可愛さが分かるとは、只者ではないですね!」

「凱旋門賞のこの場でそれを言うかそれを。とぼけてるというかドが付く天然というか……」

 

間もなくゲートインだというのにこの緩さ、こういう精神性がオッターとナハトの強さの証明になっているのだろうか……。

 

「このような場だというのにふざけていられるとは……随分と余裕ですね」

 

そんなやり取りをしていると自分達を何処か冷えた瞳で見据えて来るのはディープチャージ。自分にだろうと勝つと宣言してくれたクール系のウマ娘、その瞳は自分達を軽蔑しているかのように冷たい。

 

「出来ればこの二人と一緒にカウントするのやめてくんねぇかな、俺は割かし真っ当なツッコミを入れてただけだぞ」

「私は大真面目だからノーカウント!」

「同じく!!」

「それはねぇよ、オルタはどう思う」

「ノーコメント」

 

チャージからすればこれも寸劇に映るのだろう、不愉快そうに鼻を鳴らした。この場に挑む以上、真面目で居て欲しいという思いがある。世界一のレース凱旋門、それなのにふざけ続けているのは自分達をバカにしているように感じられてしまう。

 

「私からすれば如何でもいい事……配信などという事に現を抜かしてレースを疎かにする貴方も同じです」

「それ、日本のURAに言ってくれないかね。あいつらの要請で俺やってるだけだから、それにあれは日本トレセンが安全の観点からメディアの受け入れをしてないからトレセン学園内の事を発信してないからって理由だぞ。次の世代がトレセンの事を知る為にやってんの」

「成程……では配信云々は撤回します。が、それでも貴方は少々気を抜きすぎだと言っておきます」

「お前からそう見えんだろうな、お前の中ではな。これが俺の最善だ」

「―――それをレースで証明して下さる事を期待します」

 

そう言いながら自分のゲートの前へと移動するチャージにオッターとナハトが一緒になって軽いブーイングを送る。二人からすれば自分は真面目にやっているつもりなのである、まあ普通にしている身としては全然そうは見えないが……チャージは真面目な堅物タイプなのだろう、一応納得すれば謝罪はしてくれたので根が悪いという事はないと思う。

 

「さあ、そろそろゲートインだ。準備は万端行こうか」

 

その言葉に全員が頷いた事だろう。それぞれのゲートへと立ち、ゲートインの知らせを聞くと中へと入っていった。本当に始まるんだ、この嵐の中で行われる凱旋門。中止にならずに良かったと思う一方でどんなレースになるのかと緊張した面持ちでそれが見守られる。その中で―――隣に入ったエルグッツはニヤリと笑ったのを見て、笑い返す。

 

『世界一の栄光、世界最高の栄誉、凱旋門へと自らの勝利を掲げるのは一体どのウマ娘なのか。前年度覇者のエルグッツか、そのエルグッツをジャパンカップで破り、欧州でも無敗を貫く神話のメジロランページか、同じく無敗を誇りプリンスオブウェールズステークス2連覇のオルタナティブセブンか、この優駿達の誰が勝っても可笑しくない舞台、凱旋門賞、間もなく出走です。さあゲートインが終わりました―――今ッスタートしました!!世界中のウマ娘ファンが、ウマ娘が夢見る夢の舞台が遂に始まりました!!』

 

稲光と共に雨が徐々に激しさを帯び始めてる中開幕した凱旋門賞。先頭を取ったのは―――メジロランページ、泥濘んだターフを力強く駆け、泥が舞い上がるのもお構いなしに駆ける。嵐の凱旋門が本当に始まったのだ。

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