貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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249話

『改めて、第三コーナーを過ぎてからは急激な下り坂。淀の坂も急だけどこっちはもっとよ』

 

凱旋門賞に挑戦数日前、ランページはスーちゃんと共にロンシャン攻略の為のブリーフィングを行っていた。凱旋門を攻略するためのポイントは二つある、一つは高低差10mの上り坂と下り坂、そして偽りの直線(フォルスストレート)と言われる250mの直線。この攻略が不可欠であった。

 

『坂ねぇ……山道より酷いとは思えないが』

『まあそれはそうだけどね』

 

ランページは10mのそれをあまり脅威には感じていない、シンザンと共にシンザン鉄を装着した状態での登山を繰り返していたからこその発言。実際はプレッシャーや競い合いもあるので簡単にはいかないだろうが他のウマ娘に圧倒的に坂道に強いのが彼女の特徴。

 

『どっちかと言えば問題なのは偽りの直線か……』

『ええ、此処でスパートの使い所を間違って自滅してしまう』

 

急坂もそうだが、このストレートでも我慢が必要になってくる。実際に走ってみると分かっていてもコーナーを越えての直線に戸惑う、普段通りにスパートをしたと思っても長い長い直線に愕然とする。偽りの直線は250m、そして本当のラストの直線は東京レース場とほぼ同じ533m。中山の急坂の2倍の高低差、そして東京のそれとほぼ同じのラストの直線とその前に鎮座する偽り。これが凱旋門のロンシャン。日本勢が苦戦するのもこれが理由だ。

 

『さて、ランちゃん。貴方はどうやってここを攻略するのかしら』

 

まるで全権を任せるかのような言い方だった。スーちゃんにとって凱旋門賞は特別な意味がある筈なのに、着外に沈んだ凱旋門賞で自分の作戦で勝てば自身の勝利とも置き換えられてリベンジを果たしたとも取れる。なのにそんな素振りは一切見せない。自分のやりたいようにやってみせなさい、此処は貴方の舞台なのよと告げる様な言い方だった。

 

『―――そうだな、ターボのやり方を参考にさせて貰うか』

『あらっターボちゃんのってなるとドッカンターボかしら?でもランちゃんにそれって出来たかしら……?』

『何もマジにドッカンターボをする訳じゃないさね、ちょいとお耳を拝借』

 

ワザとらしく耳を貸して、とジェスチャーをするとウキウキした足取りで耳を貸す。その提案を話されて思わずスーちゃんは笑ってサムズアップした。

 

『良いわね、採用!!それで行きましょう!!』

『だろ、奥の手って奴はこういうので良いんだよ』

 

 

「驚愕ッ!!?此処でスパートを掛けるのか!!?」

「無茶だ、偽りの直線もあるんだぞランページ!!」

 

下り坂に入った段階で一気に加速していく彼女に理事長とルドルフも声を荒げてしまった。確かに淀の坂でも同じような手を使っていたが、此処はロンシャンだ。淀の坂と一緒に出来るような場所ではない事は分かっている筈なのに……思わずルドルフが此方を見た。

 

「お婆様、まさかこれは貴方も容認しているのですか!!?」

「ええ。認めてあげたわよルーちゃん、ランちゃんからこんな奥のおててはどう?って言われてね」

「まさか、彼女の進言だったのか!?」

 

普通に考えれば自殺行為だ、勢いが乗り過ぎて遠心力で思いっきり外に振られるだけじゃないか、そうなったらウチを開ける事にもなる。何故それを許可したのかと思ったが、笑って答えた。

 

「こんな雨の中でスピードを出して急坂のコーナーを走れるかしら、転倒のリスクだってあるし遠心力の問題もある」

「ッ納得、確かにこんな不良バ場でそれは難しい……」

「それに好い加減エルちゃんだって追走しきれない」

 

『エルグッツ、やや後退。オッタージャーニーが3番手!!オルタナティブセブンが並んだ!!ディープチャージも迫る!!ナハトフォーアハング、必死に我慢している!!』

 

此処までランとの差を維持し続けていたエルグッツが遂に距離を開けた。当然だ、今までの高スピード帯のままコーナーへと入るのは難しいなんてレベルじゃないし直線だけと違って遠心力に対抗するパワーも必要になって来る。そうなれば必然的にランページの足跡の軌跡に合わせるなんて神業の難易度は更に跳ね上がる。

 

『メジロランページ、急坂を全く苦にせずに駆け下りて行く!この最悪の天候と不良バ場も彼女には関係ないのか!?』

 

「お婆様……全てを、任せているのですか?」

「当然でしょ。これはあの子レースだもの、私のあれこれをあの子に背負わせるなんて野暮な事はしないわ」

 

スピードシンボリ、凱旋門に初挑戦したウマ娘。その結果は着外という完敗……世界との力の差を見せつけられる結果になった。故に今回トレーナーになったのはそのリベンジだと評する有識者もいたが……彼女にはそんなつもりは全くない。自分の凱旋門は終わったのだ、何時まで年寄りが出しゃばり続けるのは新しい世代が生み出す世界を阻害するだけ。

 

「行きなさいランちゃん、日本の悲願なんて如何でもいい。貴方は貴方自身の為だけに走り続けなさい」

 

その言葉はランページに届いていた。まるで聞こえていたかのように口角を持ち上げた。

 

「そうするつもりだぜスーちゃん、俺は俺だ―――メジロランページだ!!」

 

『さあ坂を越えていよいよ偽りの直線へと入ります。此処ではまだ我慢しなければなりません、なりませんが―――な、なんとメジロランページ全く減速しない!!一息すら入れません!!坂を下りたままの速度を維持して偽りの直線の直線を駆け抜けていきます!!』

 

「あの人は、どれだけ、タブーを犯せば、気が済むんだ……!!」

 

前年度覇者は思わず毒づいた。自分が制覇した時はトレーナーにも口を酸っぱくするほどに注意を受けた。坂でペースを上げ過ぎてはいけない、偽りに惑わされるな、それを守って自分は覇者になったのにあれは全く自分とは真逆に走っているではないか、まるで自分のやり方が間違っていると言わんばかりの走りだ。

 

「否定ではない、あれがあの人の走りなんだ」

 

オルタがそう呟いた言葉がよく聞こえた。彼女は笑っていた、困った笑いでも苦しい笑いでもなくシンプルに称賛する爽やかな笑みだ。

 

「どんな場面でも自分は自分だと叫ぶように挑戦する、あれがあの人の戦法なんだ……だからこそ強い、だから私は―――挑む!!」

「ホントに凄いよね!!僕も負けてられないや、さあカーテンコールの時間だよ?共に称賛の声を聞こうじゃないか!!」

 

真っ先に飛び出していく二人、最悪すぎるバ場故に偽りの直線だろうとも今からスパートを掛けなければ絶対に追い付けなくなっている。二人は飛び出していく、オルタは残されたランページの足跡を踏み込んで加速の土台にし、ナハトはオペラのような騒がしさを見せながらも加速を開始する。それにオッターとチャージも続く。

 

「下はあっても中は居ない!!さあこっから盛り上げてこ~!!」

「そろそろ巻いて行く頃合……!!!」

 

二人は全く同時に加速している。僅かにオッターの方が早かっただろうか、だがチャージの加速と速度の伸びも恐ろしいものがある。全員が自分の走りに入っている中でエルグッツは理解した。自分はランページに勝つ為だけに完成させた走りをしているが、それは完成度で言えば自分の本来の走りよりも劣っている。自分らしく走る……それが一番だと分かった。

 

「ええい全く、貴方はどんだけ私の常識を揺るがすのか、なら純粋に―――貴方に勝ちたい!!」

 

その思いと共に走りが変わる。まだ無理にでも軌跡を追おうとしていた気持は消え去った。純粋なエルグッツとしての走りが先頭を駆け抜け続けていくランページを追っていく。それを感じているランページ、後方から一気に迫って来る気迫、領域の気配、様々な物が迫って来るのにゾクゾクと武者震いがしてくる。

 

「さあ、勝負だ。俺と最高のレースを―――やろうじゃねえかぁ!!」

 

『さあ直線だ、ラストの直線に入った!!ロンシャンの直線は長いぞ、メジロランページ先頭!!後方からはオルタナティブセブンがぐんぐんと伸びて来る、オッタージャーニーも上がってきているがディープチャージが飲み込んだ!!ナハトフォーアハングがウチを行くが、後方とは5バ身!!縮まってきている、頑張れ、行けぇランページ!!』

『あと少しだ頑張れぇ!!!』

 

日本の実況と解説者は、溜まらずに自らの役割を完全に放棄してしまった。そして視聴者と同じ存在と化した。あと少しだ、本当にあと少しなんだ!!

 

「いっけええええラァアアアアアアン!!!」

「先輩行けええええ!!!」

「あと少し!!!粘れ!!!」

「最高のタイマンを見せてくれぇ!!」

「あと少し、頑張ってぇえ!!」

「ランページさああああん!!!」

「いっけええええええ先輩ぃぃぃぃ!!!」

「頑張れぇぇぇぇ!!!」

「お姉様ぁぁぁぁ!!!」

「行けっ、行ってください―――ランページさん勝ってくださいい!!!」

 

「うおおおおおおらあああああああああ!!!!!」

 

亡き魂よ、共に暴れよう。

 

我、熱狂の渦を巻き起こす!!

 

 

『メジロランページ、此処で、此処で伸びる!!!いける、行けるぞメジロランページ!!変わらず先頭、4バ身をキープ!後100m、オルタナティブが迫る、いやエルグッツが差し返す!!ディープチャージも粘る!!?エルグッツか、凱旋門の覇者が来るのか!?迫るのか、いやこれは迫り切れない!!これは差し返せない!!今、メジロランページが―――先頭でゴォオオオオオオルイイイイイィィン!!!!やったあああああっメジロランページ一着、メジロランページ一着メジロランページ一着ぅぅぅっっ!!!!』

『遂に、遂に凱旋門に日の丸が掲げられたぁぁぁあ!!!!』

 

この時、日本中から大歓声が沸き上がった。夜中なんて関係ない、夜は一瞬にして不夜となった。

 

『あああっ遂に、遂にこの時が……スピードシンボリが、メジロムサシが、シリウスシンボリが、日本のウマ娘が挑んできた凱旋門。何度もその挑戦を阻み続けて来た凱旋門の扉が……遂に開かれました……!!四度目の挑戦で、遂にで日本ウマ娘が凱旋門を制しましたぁぁぁ!!!そして、えっ!!?嘘でしょ!!?レ、レコードです!!メジロランページ、凱旋門の舞台でレコードを達成しました!!しかも、この、このタイムって……』

 

刮目せよ、これが日本の暴君だ。その走りは単純明快、最初から最後まで先頭で居続けた。余りにも単純、だがそのシンプルさ故にこの結果が現れた。

 

【2:21:3】

 

『2分21秒3……これは、このタイムは……ワールドレコード、ワールドレコードです!!!ジャパンカップで自らが打ち立てた世界最速の称号、ワールドレコードを自らの脚で更新しましたぁぁぁぁ!!!日本にとっての悲願、夢の舞台で、文字通りの世界一の偉業を成し遂げたぞメジロランページィィィィ!!!!』

 

大雨が降りしきる嵐の中、ランページは荒い息を吐き続けながらも空を見上げていた。全身に纏わりつく勝負服と汗、そして疲労……だがこの時ばかりはそんなものは感じていなかった。成し遂げた、自分はやったのだ……凱旋門を制覇した。その喜びだけが身体を突き抜けていた。頬を大きく持ち上げ、天目掛けて掲げられた3本指。欧州三勝目、そして―――ランページは世界最強の名を最速の名と共に手に入れた。

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