貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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25話

メジロ家当主の部屋、そこには今日も今日とて当主としての責務を果たすアサマの姿があった。メジロ家の当主として恥じぬ姿と見事な采配をし続ける彼女、大きめの帽子の下には鋭い瞳が作られていたが、机の端にある何かを見るとその瞳は柔らかな物があった。その先にあったのは愛すべき孫達が順調に勝利をもぎ取っている記事だった。

 

「パーマーも不安でしたが、良い友人が出来て上向きになってくれて良かった」

 

パーマーはやや不安含みだったが、ヘリオスという友人が出来てからは徐々に上向きになって少し前のレースでは大逃げで大勝した。メジロ家らしくないという意見も聞くが、そんな事は如何でもいい。これはパーマーが手にした勝利なのだから。

 

『パーマー、貴方は貴方らしく走ればいいのですよ。世間の評判は唯の感想です。感想に振り回されずに貫き通しなさい』

『おばあさま……はい、私頑張ります!!』

 

最近ではよく友達と一緒に撮ったという写真を送ってくれるようにもなっている、若者らしく元気で明るい姿に思わず頬が緩んでしまった。それで良いのだと思いつつもその隣にあるランページの勝利にも目を向ける。冠こそ被っていないが、彼女も紛れもなくメジロのウマ娘。その勝利が喜ばしい。

 

「今回の走りは……何処かぎこちなかったですね、何か新しいトレーニングをしている最中なのでしょうか」

 

新潟ジュニアステークスに出場したランページ、初の重賞チャレンジに緊張していたのか何処か走りにぎこちなさがあった。それでも終盤には自分の走りを取り戻したと言わんばかりの末脚を発揮して1バ身の勝利をもぎ取った。

 

「まあ、あの子のトレーナーならば大丈夫でしょう」

 

時間さえあれば今度は応援に行ってあげようと思いながらも仕事を再開すると、電話が鳴った。ペンを置きながらもそれを取った。

 

「どうしました?」

『大奥様、お電話が入っております。シンボリ家の御当主様からです』

 

執事からの連絡だ、だがその相手はあのシンボリ家。一体何の電話なのかと思いながらも繋いでくれと頼むと直ぐに声が聞こえて来た。

 

『お久しぶりですアサマさん、突然の電話を失礼します』

「いえ、しかし少々驚きましたね。態々私に掛けてくるなど……何かあったのですか?」

 

現在のシンボリ家の当主はルドルフの父親、彼とは親交もある為か今のメジロ家とシンボリ家の距離は近い。何かあれば互いに助け合ったりもしている、其方の方なのだろうかと話を切り出すと頷かれた。

 

『実は……娘からある頼みごとをされました、ランページさんというウマ娘についてです』

「―――あの子に、何か用でしょうか」

『用……というよりかはルドルフが彼女の事を気に掛けているらしいのです、如何にも彼女の事を調べて欲しいと執事に頼んだそうでして。そしてそのランページさんがメジロ家とは交流が盛んだと聞きましたので』

「あの子は我が家のウマ娘ですよ」

『なんと!?』

 

電話の向こう側で驚いた顔が見えるようだった。

 

『いやしかし、彼女の名前をこれまで聞いた事はありませんでしたが……』

「何が知りたいのですか、貴方の娘は」

『……彼女の事を、真実を』

 

 

「う~ん……ギリッギリの勝利でわろえねぇなこれ」

 

新聞には自分の初重賞勝利を祝う記事が載っているが当人的には全く喜べずに溜息混じりにシガーを吹かすのであった。それを後ろから見ていた南坂も同じような表情を作っていた。

 

「1バ身差での勝利、それでも勝利には違いないですから喜びましょう」

「いやぁ喜べって言ったって内容からしたら全然だぜ南ちゃん、俺的にはクビ差だわ」

 

何故此処までランページは不満げなのか、G3の重賞勝利には変わりはなく、重賞を勝つだけでもウマ娘の中では上澄みとされる。だが全く以て喜べない勝利だった。普段通りの大逃げを打ったランページだが、走り方がかなり可笑しくなっており上手く逃げる事が出来ずにペース変更が全く出来なかったのである。が、逆にそれが相手のウマ娘のペースを変更しない事への疑いを誘発する事が出来たのか、結果的に逃げ切れたというべき勝利になった。

 

「シンザン鉄で悪い所が出てしまいましたね」

「面目ねぇ……」

「いえスケジュール調整をミスした私の責任です」

 

原因はシンザン鉄にあった。シンザン鉄という重い蹄鉄を着け続けていた事でそれに完全に慣れてしまったが故に、普通の蹄鉄でシンザン鉄を着けて行うような腿を強く上げる走りをしてしまったのである。結果、ずっとピッチ走法で走っているような状態だったランページはギリギリの逃げ切りだった。

 

「まさかこんな落とし穴があるとは……」

「これからは1週間ごとに交互にしましょうか」

「それでも使うのねシンザン鉄」

 

故に、これからはシンザン鉄と通常の蹄鉄を交互に使って兎に角慣れさせていく事も重視させていく事にする。レース経験が少ないのも走りが狂ってしまった原因でもあるのでどんどんレースにも出て貰う事には変わりはない。

 

「でも、今回が凡走に近くなってしまったのは寧ろ好都合かもしれませんね」

「悪い顔してるぜぇ南ちゃん……」

「ランページさんに対する目算を狂わせるには十分だったでしょう」

「何だ俺と同じ事考えてやがりましたよこのトレーナー、あれつまり俺も悪い顔してた?」

「私以上に」

「OH……」

 

だが次はこうはいかない、今度は絶対に凡走はしないと誓いながらも改めてシンザン鉄を着けたシューズを履く。ペースを乱す側が乱される側になってしまったが、今度はこうはいかない。今度こそは確実に走り切ってやる。

 

「んで南ちゃん、今度は何?」

「サウジアラビアロイヤルカップなんて如何ですかね?」

「それも重賞じゃん」

「その次はデイリー杯です」

「待ってそれG2!!しかもイクノのスケジュールにもあった奴!!」

「はい、頑張ってください。勿論、シンザン鉄トレーニングも継続です♪」

「このトレーナー鬼だぁぁぁ!!!」

「今年のラストは阪神ジュベナイルフィリーズをこなしたいですね」

「待って南ちゃんアンタ本当に無事是名バやらせる気あんの!!?」

「勿論、貴方なら出来ますよ」

「期待が重すぎるわぁ!!?」

 

一応、ジュベナイルは完全な予定なのでまだ決まっていない。だが南坂はランページならばきっと登り切ってそれにも挑めるだろうと信じている、彼女は恐らくあと少しでシンザン鉄を苦も無く扱えるようになる、そしてその状態で万全の走りを出来るようになれば間違いなくG1でも勝てるウマ娘になると確信している。だからこの予定で行きたいと思っている。

 

「それじゃあ今日もトレーニングに行きましょう、本日は併走相手にタマモクロスさんとスーパークリークさん、後オグリキャップさんをお呼びしてますのでシンザン鉄を着けたまま頼みますね」

「う、うおおおおおおっ……」

「流石に嫌ですか」

「いや、最近なんかクリーク先輩が顔合わせる度に抱きしめて来るんよ……しかも大丈夫大丈夫ってあやすみてぇに……俺ってそんなに子供っぽいかい南ちゃん」

「さ、さあ……その辺りの感じ方はそれぞれですので……」




レースは基本的にウマ娘のレース基準。
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