「お帰りなさい、ランちゃん」
「ただいまスーちゃん」
ゴール後、ランページはスーちゃんの元へと戻った。互いはそれ程までに声を掛けなかった。ランページの疲れを慮ってという訳ではない、必要以上に言葉を必要としない程に二人の間には確りとした絆があるのである。お帰り、ただいま。その言葉だけで労いには十分過ぎた。
「この後インタビューだろ、さっさと終わらせようぜ。どうせこの雨だ、ライブは出来ねぇし」
「どんどん酷くなってるみたいだものね~」
ロンシャンに降る雨は更に激しさを増していく、それはランページの伝説を打ち立てた事を祝しているのか、それとも成し遂げたことによる世界の混乱を予期しているかのようにも思える。故にライブは中止となった、楽しみにしてたファンもいたがこういった事を容認するのもファンという物だ。ランページはインタビューの前に軽くシャワーを浴びる、冷え切った身体を温め直した後、予備の勝負服に袖を通した。と言っても同じデザインの勝負服だが。
「こういう時ばっかりはURAに配慮するべきなのかね」
「別にしなくても良いと思うわよ?」
「だよな」
そもそもが別デザインの勝負服を持って来ていないのでどうしようもない訳だが……そんなやり取りをしていると扉がノックされた。誰かと思ったが、聞き覚えのある猫の声が聞こえて来た。それを聞くと入ってくれと通す、訪ねて来たのは勿論―――理事長とハテナ、そしてルドルフだった。
「祝福ッ!!!見事、見事としか言いようのない勝利だったぞ!!」
「おめでとうランページ、ああっもっと言葉を尽くすべきなのかもしれないが他の言葉が出てこないな……」
「あんがとよ、変に取り繕う必要もねぇよ。シンプルイズベストっていうだろ」
「ミャァ」
「おおっハテナもおめでとうって言ってくれるのか~」
妙に格式ばった祝福をされるよりにも余程嬉しいものがある、特ににゃんこからの祝福は嬉しい。自分も何か動物でも飼おうかなと思う。
「日本の悲願、ウマ娘関係者が思い描き続けて来た夢、それを実現する時が来るとは正しく感無量!!」
「ええ。大願成就……君だからこそ成し遂げられた事だ。おめでとう」
「へっほめ過ぎだぜ会長、照れて頬っぺたが赤くならぁ」
「さて、ランページこの後の予定を聞いても良いだろうか。日本に戻る日程も聞いておきたい、凱旋門制覇記念のパーティはトレセン学園一同を上げて盛大に祝わせて貰おう!!勿論、私持ちだ!!」
「理事長、シンボリ家を外して貰っては困りますよ?お婆様がトレーナーだったのです、その権利位はあるでしょう?」
「あらあらっそれだったらメジロも混ぜてあげないとアーちゃん辺りが怒りそうね♪」
盛り上がりを見せる話に自分も笑みを零してしまう、何せ凱旋門制覇したのだからこの反応も当然だろう―――だが、その喜びはもう少し取っておいてもらう事にしよう。
「まあその話はまた後で、先ずは―――世界中にドヤ顔してきますぜ、日本を極東の島国だってバカにして来た連中に。タブー犯して勝たれた気分どう?って」
「ハハハッ!!それは良いな、実に愉快!!」
「それは、また日本政府とURAが胃を押さえそうだから勘弁してやってくれ」
二人がそれぞれの反応をしているのを背中で受けながらもスーちゃんと共に控室を出ていく。
「いいの言わなくて」
「どっちみちだよ、早いか遅いかの違いしかない。致命的な事でもないんだから良いでしょ別に」
「ランちゃんって結構ドライな所あるわよね~」
「育ち悪いからな」
「こらっそう言う事言わないの」
「へ~い」
そんな事をやりながらも到着した部屋では入った途端に浴びる様なフラッシュを浴びる事になった。
「目がぁああああ!!!」
『っ!?』
とそれに思わず多くがやべぇっ!!?と思う中で日本の、ランページお気に入りの出版社の記者だけは素早く
「「ムスカ大佐!!」」
「狙ってた訳じゃねえけどマジで眩しいから言っちまった……つうかこんな明るい部屋でフラッシュ焚く意味あんの?あと反応早いなおい」
「「長い付き合いですし」」
「ですよね~」
と最早友人とのやり取りにしか見えないような事も平然とやるランページと記者たち。これが世界生放送の勝利インタビューなのは完全に忘れられている。が、そこはスタッフが強引に場の空気を真面目な雰囲気に戻す。
「それでは、凱旋門賞を見事に制覇したメジロランページさんにインタビューを行いたいと思います!!」
その言葉を皮切りに記者やTVスタッフがコメントを取ろうと一斉に声を上げるのだが、正しく世界中の人間が一斉に言う為に言語の万博博覧会状態だ。流石に複数言語を修得しているランページでもこれは聞き取れない。幾ら聖徳太子でも別々の言語の言葉が飛んで来たら対応出来ないだろう。見かねた進行役のお姉さんが静粛にと叫び、此方で指名させて貰うと言いながらその役目を自分に回してきた。ナイスパスと内心思いながらも静かに手を上げてお気に入り記者を指名する。
「凱旋門制覇おめでとうございます、この勝利を誰に捧げたいと思っていますか?」
「誰にか、難しい質問だけどやっぱ南ちゃんだな。何だかんだ言われても南ちゃんが俺のトレーナーになって無かったら此処に居ねぇ訳だしな、スーちゃんに感謝してないって訳じゃないぜ、そこんところ分かってるな」
「当然です。配信でもこの事については触れられますか?」
「触れねぇ方が可笑しくね?というか、配信した段階でおめでとうコメで埋め尽くされそうだな。なんか企画でも考えるかな」
到底、凱旋門制覇インタビューとは思えない程に緩い空気がそこにあった。この場に相応しくないと思うメンバーがいる反面、その記者の肝座り方とランページに全面的な信頼を預けられている事が良く理解出来る。自分達もそうなりたいと思う中で、もう一社の記者にバトンがパスされた。
「ワールドレコードを更新されましたけど、本当に貴方はレコード更新を容易くなさいますね。何かコツでもあるんでしょうか?」
「ある訳ねぇだろうが、あったら俺が真っ先に実践して配信で拡散してやるわ。というかアンタら本当に普段の取材と変わらねぇノリで話しかけるな、此処何処か御分かり?凱旋門のインタビュー会場だぜ?」
「貴方に言われたくないです」
「ハッハ~正論パンチやめれ」
ランページもランページで気分がいいのか、真面目に取材受けようかなぁ~と思っていたのに口が緩んでしょうがない。周囲の目は何だこいつら……と最早畏怖を孕んだ物へと変わりつつあるので流石にやめた方が良いかなとスーちゃんに視線をやるがそのままでいいというサインが帰って来るのでそのままで行く事にする。
「では好い加減に定番ネタを―――次走についてのスケジュールをお聞きしても宜しいでしょうか」
来た!!と現地、放送を見ている全員がそれを思った。誰もが気になるこれからの予定、こうなると帰国して休養からの有馬記念か、それともトゥインクルシリーズからドリームトロフィーリーグへの移籍か、それとも海外戦線継続か。誰しもが気になっていた。それについてはランページは喜んで口を開いた。
「そうだな、凱旋門を制覇した訳だし欧州はこれまでかな」
それを言うと納得の声が漏れる。となると矢張り帰国か、それが一番ベターだろう。そうなると……矢張り日本最大のG1である―――
「何勘違いしているんだ、俺の海外遠征は終了してないぜ」
『えっ?』
思わず、全員の心が一つになった。お前は何を言っているんだと言わんばかりの表情が見えた、それを愉快そうに見つめながらもランページは腕を立てた。
「そうだ、まだ終わっちゃいない。これで終わらせちゃいけねぇ……なぁっ……鍛造は済ませたか、三女神へのお祈りは、ダートの上を駆ける俺と勝負する心の準備はOK?」
明確なメッセージ、それはアメリカに居る二人へと向けられている、その言葉の意味、即ち……
「俺の次走はアメリカ、ブリーダーズカップクラシック。だからよぉっ俺と走ろうぜ……全力でな」
「望む所です、私の刃も十二分に研ぐ事が出来た……勝負の時」
レディセイバー。アメリカ戦績、5戦2勝。優勝レース、ハリウッドゴールドカップステークス(G1) パシフィッククラシックステークス (G1)
「遂に、来た……再戦の時が……!!!やるぞぉおおおお!!!」
アメイジングダイナ。アメリカ戦績、4戦2勝。優勝レース、ジョン・A・ネラドステークス(G2) ジョッキークラブゴールドカップステークス(G1)
ドバイでの敗北を糧にアメリカに渡った二人は明確に強くなっていた。ランページに注目が集まりがちだが、この二人の勝利も日本では確りと報道され、日本ダートウマ娘を熱くさせた。そしてそんな二人とランページが再び戦う事にまた熱くさせる。