メジロランページのBCクラシックへの挑戦は瞬く間に世界に伝播していった。凱旋門始まって以来所か、欧州競バの中でも一二を争う程の最悪のコンディション、それによる雨と風、不良バ場という状況でワールドレコードを叩きだした事で間違いなく芝最強ウマ娘という称号を確固たるものにしたウマ娘がまさかのアメリカ遠征を表明。ドバイワールドカップに続き、BCクラシックの制覇を目論んでいる。
確かに、春のダート最強決定戦であるドバイワールドカップを制覇している彼女からすればBCクラシックを取れば紛れもなく、芝ダートの最強の称号が手に入るだろうが……そんな事などは如何でもいいのだ。ランページにとって重要なのはもっと別、ライバルとの最高の舞台で鎬を削る事。
「そうだ、まだ終わっちゃいない。これで終わらせちゃいけねぇ……なぁっ……鍛造は済ませたか、三女神へのお祈りは、ダートの上を駆ける俺と勝負する心の準備はOK?」
その言葉に全てが集約されていたと言っても過言ではなかった、そしてそれは正しく受け取られた―――が、それは受け取った二人だけではなかった。
「……凱旋門だけではなく、そう来るのね。フフッ素敵ね、私も貴方ともう一度競い合いたかった……だから、勝手だけど挑戦させて貰うわ」
「すっごい~!!ターフに出ようと思ってたけど、ランページ出るならこっちにしよっと!!急すぎる変更だけど、トレーナーならいいよって言ってくれるもんね♪」
「……そう来るかい、なら俺だってそっちに乗り込んでやろうじゃねえか!!待ってろ、三度目の正直って奴だ!!」
一方的ではあるが、ランページの事をライバルだと認識し彼女に勝つ事を目標にして走り続けて来たウマ娘は他にも居る。そんな彼女達にも火をつける結果となったが、それを聞いたとしてもきっと彼女は笑うだけだろう。最高のレースが更に素晴らしいレースになるな、という言葉を返してくれるに違いない。
「うえ~んランページさん行かないで~……!!」
「無茶言わんでくれファイン、そもそもアメリカ行かないと仮定したとしてもどうせ俺日本に帰るんだからよ」
「それはそれこれはこれ~!!」
「誰だよ姫殿下にこんな言葉教えたの」
「は~い」
「スーちゃん自重して!!」
アメリカ行きの為にアイルランドで集中的な休息に取り組んでいるランページ、と言ってもBCクラシックまでもう一か月も無いので時間はない。明日にはアメリカに向けて出発する予定、それ故にファインは大泣きしながらランページに抱き着いて何とか引き留めようとしている。史実のファインモーションと同じく、ウマ娘のファインも寂しがり屋で一人で放牧された時は啼いていたので一緒に放牧された馬もいた。
特にランページがアイルランドに居た時は基本的に殆ど一緒だった上に日本食を作ってくれたり一緒にゲームをしたり、配信などもやったりしていた時間はとても楽しかったので、ファインはいずれ来るかもしれないと分かっていたが故にランページがいる日々を毎日毎日全力で楽しんでいた。そして間もなくそれが終わると解ると本気で泣いた。
「もっと一緒に居たい~!!」
「無茶言わんといてぇ……」
「済まないランページさん……我が妹が……」
流石のピルサドスキーもこれには頭を抱えてしまう。彼女もランページがアイルランドから出国してしまうのは極めて寂しいが、致し方ないと割り切っている。
「ファイン、これ以上ご迷惑をかける事は私も許せない」
「だって、だってぇ……」
「ファインッ」
思わず語尾を強めてしまった、それに怯えるようにファインはランページに抱き着く力を強めた。まだ幼いファインからすればランページは王族云々を全く気にしないし一緒に居て本当に楽しい親友なのである。これが今生の別れという訳でもないのは分かっているがそれでも寂しい事は寂しいのである。そんなファインの頭を撫でてやりながらも目線を下げる。
「ファイン。別にこれでバイバイって訳でもない、連絡先は知ってるし電話したい時は何時でも掛けて来て良い」
「でも、でもぉ~……」
「俺はこれから戦いに行かなきゃいけないんだ、最高のライバルが待ってる舞台によ」
ファインが自分を親友だと言っているように自分も彼女の事は親友だと思っている、確かに寂しくはあるが此処で立ち止まっている訳には行かない。
「なあファインよ、何時か日本のトレセンに来ないか」
「日本に……?」
「ちょっとお耳を拝借」
ファインは耳を貸した、そしてこしょこしょと内緒話をする。スーちゃんとピルサドスキーは必死に聞き耳を立てるが、相当に小さい声なのか聞こえてこない。その代わりにファインが吃驚しているようなか顔を作ったりワクワクしたような顔になったりと百面相をしているので何やらすごい話をしているのだけは察する事は出来た。
「という訳だ、Do you understand?」
「うん分かった!!じゃあ約束、破ったらアイルランドに嫁いでもらうよ!!」
「でけぇな代償!!?重すぎるわ流石に!!精々ラーメン奢る位だ!!」
「じゃあそれで!!」
何やら楽し気なやり取りをした後に、ファインは納得したように離れた。まだ心残りがある様だったが……それでも離れた。
「あの、何を話したのでしょうか?」
「んっ~ちょっちな、未来の姫殿下が日本留学してくれたら嬉しいな~って話」
「うんそういう話」
「「ねっ~♪」」
「何々~スーちゃんも混ぜて~♪」
「くぅぅぅぅっこうなったら私も日本に留学しない訳には行かないな!!」
そんな騒がしくも楽しいひと時を過ごした後、アイルランドでの最後の配信を行った。ファインは時折、寂しそうな顔を見せていたがそれでもそれを振り切る程に楽しい思い出になった。そしてランページは翌日、アメリカへと旅立った。親友が行った空を見上げながらもファインは胸に当てた手を握り込みながら、ランページが走ったコースを走った。
「しんゆ~が吃驚する位凄いウマ娘になるぞ~!!」