「あ~あ、日本って本当に過ごし易かったんだって実感するぜ」
「ですよね~やっぱり気になりますよね、あれ」
ダイナも使用している練習場、十二分に身体を休める事が出来たランページは練習を開始したのだが……アメリカという国の凄まじさを改めて理解する事になった。練習場に無断で侵入しようとするパパラッチの多さ、それをアメリカで合流したエリックが選別したSP部隊が締めだすと今度は遠距離からの撮影に切り替えたのか如何にも御高そうな望遠レンズで此方を捉えようとしている。
「あいつら俺に何かあったらアメリカ揺れるって事理解してんのかね?最悪でも日本とドバイ、アイルランドが敵に回るんだぞ」
「か、考えただけで恐ろしい……」
「いや凱旋門勝ったから多分ヨーロッパ全体だな」
「本当に貴方に喧嘩売れる人っているんですかね」
軽く呆れたような瞳を向けるレディだが、彼女らも彼女らで此方で走っている間はかなり絡まれた。本当にこっちの事情なんて露知らず、金になる事ならばなんにでも首を突っ込むと言わんばかりの勢いで参ったものだ。ランページからエリックを紹介して貰って本当に助かったと思っている。
「ある意味喧嘩売ってるようなもんだろお前らも」
「私らは良いんですよ、別に貴方を害する事が目的ではない訳ですから」
「そうそう、健全なスポーツ精神故です」
「道理だな」
元々この練習場に入場制限はなかったのだが、ランページも利用するという事もあってアメリカ政府が直々に制限を掛けた。入場するのも大変だが、無許可で周辺に立ち入るだけでも待機している警察に声を掛けられる。それ程までに現在のランページの影響力というのはエグいのである。BCクラシックに挑戦という事もあってアメリカ行きの航空券は何処も売れ切れ状態、宿泊施設はパンク寸前、ウマ娘関連グッズ販売店は異例の売り切れと入荷の奪い合いという事が起きている。
「しかし、ランページさんはBCクラシックが終わったらどうするんですか?」
「速攻帰国するけど、ライスの菊花賞に間に合わせないといけないから」
「ええっ……菊花賞ってマジで1週間しかないじゃないですか」
「エリ女からジャパンカップまで以上に時間があるな」
「それ言われちまったらこっちは閉口するしかないじゃないですか嫌だぁ……」
此処まで正しく無敵の戦績なウマ娘のランページ、そんな次の予定を聞いたらまさかの後輩の菊花賞の応援に行くというのだから驚くしかない。まあそれだけ優しいという事ではあるのだろうが……
「このアメリカでの引退もあり得ると?」
「ああ何だそっちか……」
「そっち以外に何があると思ってんですか」
「冗談だよ、さてな……ドリームトロフィーリーグに進む事も考えなくはないが、もうじき会長たちも引退するからなぁ……」
ドリームトロフィーリーグは文字通り夢の舞台、年に二回だけというのが気に入らないしまだドリームトロフィーのダートはまだまだ設置されていない。故か其方にはあまり興味はなく自分にとっては夢ではない。
「そうだな……実は一つ興味がある事があるんだよな」
「ほう?興味深いですね」
「どんな事なんですか!?」
「聞きたいか?」
「「勿論」」
「俺に勝ったら教えてやるよ」
悪い笑みを浮かべてから、知りたければ勝ってからにしろという彼女に自分達はならばその秘密を白日の下に晒す為にも自分達は走ろうじゃないかと笑みを浮かべるのであった。
練習を終えたランページは汗を流すとホテルの展望台にその姿を見せていた。夜景を彩る光の数々、そんな輝きを目に焼き続けながらも二人からも質問されたこれからについて少しだけ考える。配信でも好い加減にしてやれよと冗談交じりに言われたりもする。自分だって何時までも走り続ける訳じゃない、何時か立ち止まる時は来るのだ。
「走り続けてないウマ娘は意味はない、か……パンクな哲学だ事」
少しだけモヤモヤしてきた気持ちを落ち着かせる為にハーブシガーを手に取るのだが―――自分に迫ってくる影に気付いて振り向いてみるとそこには自分とは程遠い御令嬢という言葉がとても似あうような美しい所作で挨拶をするウマ娘が居た。
『お久しぶりね、初めて会った時と少しだけ被っているような気もするわね……』
『お久、ダートだからもしかしたらアンタも来るんじゃねえかなっと思ってたがやっぱり来たな』
ドバイワールドカップでもやり合ったフランス出身のウマ娘の一人、リスフルーヴだった。
『相変わらず流暢なフランス語だこと、此方に来ても通じるわね』
『お褒め頂感謝の極みってね、趣味が高じて本場に認められるなんざこの上ない称賛だ』
『何処までも非常識なウマ娘ね……んんっ!!「此方の方が楽、なのでしょう?」
少々拙いが、日本語に切り替えたフルーヴ。前々から一度日本に行ってみたくて勉強はしていたらしいがドバイで敗れてからはそれを更に推し進めたらしい。僅かに可笑しい所はあるが、それでも十二分に聞き取れる。
「そっちも随分とうめぇな」
「話すのは何とかなるのよ、読みと書きがまだまだでね……なんで同じ読みであんなにも意味が違うのよ」
それは自分も思う、日本に住んでいても読めなかったり書けない文字なんて無数に存在する。そう思っていると彼女は静かに頭を下げた。
「凱旋門制覇、おめでとうございます。私も出れる物ならばあの舞台に出て見たかった、ですが私は貴方ほど万能ではないので」
「俺だって別にそこまでなんでも出来るって訳でもねぇよ、これに関してはある種の副産物みてぇなもんだ」
「それでも、私はもう一度あなたと走りたかった。そしてその為に私はこのアメリカに来た」
その瞳にあるのは敗北によるでもなければ自らの不甲斐なさから来る怒りでもなかった、純粋な敬意と挑戦、もう一度走ってみたいという気持ちがそこにはあったのだ。
「条件は同じ、だけど私はあの時とは違う。それだけはご理解願うわ」
「上等だ、その挑戦受けさせて―――「私のも受けて~!!」どわっちょぉ!!?」
背後から誰かから飛びつかれた、思わず前のめりになるが飛びついて来たそれは背中に抱き着いて離れない。誰なんだと思って後ろ見るとそこにはフルーヴと同じく走った間柄の戦友が居た。
「リンクス、お前驚かせんじゃねぇよ」
「ごめんごめん!!ランページ見たらすっ飛んできちゃった!!フルーヴも久しぶり~!」
「相変わらず元気というか無邪気というか……ええ、久しぶりねアームドリンクス」
「リンクスで良いのに~」
同じく、ドバイワールドカップで共に走り2着の好走をしたニュージーランドのアームドリンクス。
「いやぁ~ターフに出るつもりだったんだけどさ、ランがこっちに出るって聞いてこっちに変えたの!!」
「おま、それ大丈夫だったのか?」
「トレーナーは分かった、って言って直ぐに手続してくれたよ」
簡単に言う上にリンクスのトレーナーもサラッとやってしまったが、色々と一悶着あったらしい。だがそれらを感じさせぬようにリンクスのトレーナーは対処したとの事。やはり一流のウマ娘のトレーナーは一流という事なのだろうか……。
「あっそうだねえねえ聞いて聞いてよ、実はね私も配信始めたんだ~」
「あっマジで?」
「うん、個人の奴だけど。今はACの配信メインをやってるよ、ランみたいにフロムから企業案件来たらいいな~」
「俺のは相当にあれだったけどな……」
因みにランページは現在も任天堂公認配信者として活動中、偶に発売前の新作ゲームのプレイ配信を頼まれたりもする。
「ねえねえ!!配信やろ配信!!フルーヴもいる事だしドバイ組再集結って事で!」
「―――サラッと私も巻き込まれてるんだけど、私は別に興味は……と言った所でリンクスが逃がしてくれるわけが無いか……やれやれ貸1よ、その内何か返して頂戴」
「いいよ~それじゃあ決定!!」
「肝心要の俺の意見はガンスルーですかそうですか」
尚、反対はしない。そしてドバイ組を名乗るのならばレディとダイナも誘わなければ……とリンクスに手を引っ張られながらも溜息混じりに眉間を揉み解すフルーヴと共に歩みを進めるのであった。