爆音染みた叫び声が周囲に木霊した。叫んだ場所は練習場、走っていたレディやダイナも吃驚した足を止めてしまう程の大音量。それを発したランページの元へと二人は駆け寄っていく、何故ならばランページは酷く疲れたように項垂れて頭を抱えている、何か問題が起きたのかと焦るのも当然だ。
「な、何かありました!?」
「というかどういう声してるんですか揺れましたよ!?」
レースやらウイニングライブやらで心肺機能が鍛えられるウマ娘と言えど此処までの大声を発せられる物はそうはいないだろう。周囲を警護していたSP達も何事かと緊急事態に備える中、苦笑いを浮かべているエリックによって大丈夫だと諫められる。
「『如何なったらアメリカのスリートップと会談する事になるんですか好い加減にしてくださいよ政府よりも余程外交してるじゃないですかぁぁ!!』……だと?ンな事、俺が知るかぁぁあああああああああああああああ!!!!!」
「「ああっ……」」
その叫び声を聞いてレディとダイナ、そして周囲も理由を察した。先日、ランページはエリックの顔を立てる為に三人と会談した、だがその三人というのがとんでもない面子だった。エリックの上司と言われた、確かに言われた……だがそれがまさかアメリカのBIG3とは誰も思わないだろう。大統領、FBIとCIAのトップが揃い踏みという頭が可笑しい状況に流石のランページも本気で頭が狂いそうになった。
FBIはまだ分かる、いや冷静に考えたら全然分からないけど無理矢理に何とか飲み込むは出来る範囲だった。南坂は元FBIだし、アンブライドルドはその長官の娘な訳だし繋がりがない訳ではないのだ。だが大統領とCIAはどっから生えて来た、この三人が揃うなんてアメリカの有事か定例の何か位な筈だろう、それがスケジュール調整してプライベートで自分に会いに来た?もうマジで頭が沸騰しそうだった。
「別に俺が仕込んだ訳じゃねえんだぞ!?俺ただエリちゃんの顔立てようとしただけだぞ!?確かにボスだよ、BIGBOSSだよ!!だけどこの組み合わせはねぇわ、何、何で俺大統領にサイン求められたの?CIA長官に握手求められたの?FBI長官にルドっさんとのスリーショット頼まれたの?その挙句、日本政府から好い加減にしろって如何すりゃいいんだザッケンナコラァァァァラァァァァ!!!」
これまで天皇、ドバイ首長、アイルランド国王と国のトップと会って来たランページだがこれまでは何とか心の準備は出来たのだ。ドバイだけが唯一の例外かもしれないが、首長の目は完全なファンの一人だったしお一人だったから何とか許容出来ただけである。
「理解出来る?アメリカのトップスリー、完全にウマ娘ファンのおっさんになってるんだぜ?もうどう対処したらいいのか分かんねぇよ……」
「それは、きついですね……」
「幾らプライベートって言われてもねぇ……」
大統領に至っては去年あたりから南坂にアメリカに遠征してくれない?と打診していたのにと軽く愚痴られた。ニュースなんかで見た事がある威厳ある大統領の姿はなく、唯のウマ娘ファンのおっさんだった。だからこそ余計に対処しづらかった。
「でもそこでエリックさんを責めないのは本当にランページさんらしいよね」
「そりゃエリちゃんを責めるのはお門違い。エリちゃんの立場から考えたら断れる訳がねえしその話を持って行った側を責めるしかねぇじゃん」
「無茶苦茶やってると言われつつもかなり理性的ですよねホントに」
兎も角、この事は早く忘れたい。BCクラシックも近くなっている訳だし練習に集中する事にしよう。
「こんな時は―――思いっきりトレーニングして気分を晴らすに限る」
「付き合いますよ」
「スッキリしましょう」
そんな二人の目の前でランページ鉄をシューズへと打ち付ける、二人はマジでそう言うの使うんだぁ……と言いたげな顔を作る。何だかんだで二人の前で特殊な蹄鉄を付ける所は初めてだったかもしれない。
「あの、マジでそれで走るんですか?というか走れるんですよね、じゃないと着けませんよね?」
「走れるというか時間を掛けたら走れるようになっちゃった。ウチのトレーナーマジ鬼畜」
「元FBI……なんでしたっけ、そう言われたらなんというか、自然と納得しそうになってしまいました」
いざ走り出そうとしたら自分の大声にも負けない位の叫び声が聞こえて来た。今度はSPが動き出す準備を整えていた、中には懐に手を入れている者も居る。が、そんな中でランページは聞き慣れたようにそちらを見た。まあこれで3回目なのだから聞き慣れるのも通りだ。その声を上げた者は妙に重い足音をさせながらも此方に迫ってきた。
『見つけたぜランページ!!今度こそ、テメェに勝つぜ!!』
『毎度毎度声でけぇなテメェは、そういう元気を他に活用しようとは思わねぇのか』
『うおっ何だお前ドイツ語行けるのかよ!?』
『余裕で行ける』
ワザとドイツ語で話して何を言ってるのか分からないといった顔を見ようと思ったのに平然と綺麗な発音で返されて驚くシュタールアルメコア。だが、彼女は直ぐに顔を切り替えた。
「フン、だが今度という今度はお前も終わりだぜ。何故なら、何故ならば!!」
自慢気に脚を上げてシューズを見せて来た。そこには普通に蹄鉄が嵌められている、嵌められているがランページは直ぐにそれが何なのか分かった。
「よくに手に入ったな」
「フフン!!俺のトレーナーがお前のトレーナーに交渉してくれたんだよ!!」
「という事は、もしかして……」
「ああ、シンザン鉄だな」
日本では中央の一部のウマ娘達が既に使っているシンザン鉄、ランページがこれを使って身体を鍛えたと聞けば欲しくなるだろうが簡単には手に入らない。何故ならばシンザン鉄は国が認めた職人のみが製造を許される一品であり、海外には基本的に出回る事はない。なのでアルメコアのトレーナーは南坂に直接交渉して何とか手に入れてきたのである。
「これがテメェの力の根源、つまり、それと同じ物で鍛えてる俺はもうお前には負けないって事だ!!」
「なら、試してみるか?」
「ハッ!!見てビビるなよ俺の走りを!!」
早速準備を始めるアルメコアにレディとダイナが少しだけ心配そうに声を掛ける。
「大丈夫なんですか」
「問題はない、さっきの音からして2~3倍だな。何時から付けてるからは知らんが大したもんと言えるが……その程度で俺を上回るなんて気が早いぜ」
「その数字だけでも私からすればもう異次元なんですけど……」
「聞いといてやるぜ、お前のそれ何倍だ?」
「何というかこれがオリジナルの重さだぞ、お前のは日常生活で使う用の軽量タイプ」
「……はっ?こんな重いのが日常生活……軽量……?」
「因みにオリジナルの重さは軽量の10倍な」
「―――ざっけんな苦労してこの重さを使いこなせるようになって喜んだ俺に謝れおらぁ!!」
「シンザンパイセン~言われてんぜ~」