遂に迫った時、明日にもなれば自分の海外遠征もいよいよ集大成を迎える事になるのだ。準備に1年、いざ駆け出す事1年。約2年の海外の舞台での戦いの幕が間もなく下りようとしていると思うと言葉も無い。そんな思いを抱きランページは夜景を楽しみながら空気をハーブシガーの紫煙で穢す。ある意味で最高の贅沢を楽しんでいる彼女は徐に空へと目をやった。
「良い空だ」
再び紫煙を吐き空気を穢す。この空の下で明日、自分は最強の相手達と戦う事になった、エーピーインディ、プレジデントターフ、ストライクゴルディオン、グランデノヴァ、自分と同じように海外G1を制した猛者が集って来ている。そこにリスフルーヴ、アームドリンクス、シュタールアルメコアと言ったドバイで覇を競い合った者達……ダートの最高のライバルのレディセイバーとアメイジングダイナが続く。自分も入れて11人、ドバイワールドカップと同じ人数での決戦となった。
『BCクラシックは11人でやる事になったそうよ』
『あれ、他にも出走登録してなかったん?』
『回避したそうよ』
本来はもっと大人数だったらしいが……自分という存在とレディとダイナといった面子の影響もあって回避する者も多かったとの事。逆に自分達が出走しないBCターフやマイルといった別のBCに出走ウマ娘が集中していたらしい。それだけ今の自分はとんでもない存在と見られているという事だろう、が逆に言えば出走を名乗ったのは紛れもない精鋭であり、まったく油断が出来ない相手という事になる。
「こんな所に居るんだから探しちゃったわメジロランページ」
振り向いてみればそこには黒い下着の上に黒のファー付き白コートを羽織っているウマ娘が居た。彼女とはBCクラシック出走前記者会見で顔を合わせただけだったのでこうして話をするのは初めてかもしれない。フィフティーマグナ、BCクラシックに出走する11人目のウマ娘。
「かの暴君はこんな舞台には慣れて緊張なんてしてないとばかり思ってたけど?」
「緊張はしてねぇよ、大統領にFBI長官とCIA長官と顔合わせた経験舐めんな」
ただ、感傷に浸っていただけに過ぎないので緊張していたなんて言うのはお門違いである。
「んで、俺に何の用かな」
「宣戦布告をしに来たわ、明日私は貴方に勝つ。そして世界中からの喝采を独り占めして見せる!!それを言いに来たのよ!!」
どうだいってやったぞ!!と言わんばかりのドヤ顔をする彼女に思わず呆気を取られてしまったが、噴き出してしまった。
「な、なんで笑うの!?面白い事なんて言ってないのに!!笑うな~!!」
「いやいや、悪い悪い……嬉しくてな、そういうやる気と挑戦に満ちたコメントは大好きだぜな」
「ホント!?ランページ的にポイント高い!?」
「高い高い」
「よしっ!!」
以前もこんな風に少しだけ気分がダウナー気味になった事があった、だが今回ばかりは違う。目の前にこんな元気いっぱいな挑戦者が居るのならば自分だって激気を出して行かなければならない。
「明日、楽しみにさせて貰うぜ」
「ええっ貴方を倒して世界最強になってみせるわ!!」
「はっそこは景気よく最速って宣言してみな」
帰っていくその背中にそんな言葉を投げかけつつも煙を吐く。世界最強、チャンピオンズカップでアンブライドルドとのレースの時は世界最強対世界最速というキャッチフレーズが使われていた事を思い出す。明日勝てば自分はその称号も手に入れる事になるのか……まあそんなものは正直言って如何でもいい、興味も無いし欲しい奴がいるならばくれてやってもいい、だが唯でやる程自分は優しくなければ慈悲深くも無い……自分は我儘なんだ。
「此処に居たのねランちゃん」
ハーブシガーを仕舞うと同時にスーちゃんがやってきた。少しだけ不安を帯びていたが、自分の顔を見るとそんなものは意味がなかったと悟ったかのように破顔してながらも自分を抱きしめた。
「元気がないならしてあげようと思ったけど、無用な心配だったかしら」
「そんな繊細なウマ娘でもないんでね」
そんな軽い口を叩いていると自分を抱きしめているスーちゃんの身体の方が少しだけ震えている事に気付いてしまった。緊張しているのは彼女の方だ、不安を感じているのはトレーナーの方だと理解する。これで自分が大敗でもすればその責任はトレーナーであるスーちゃんに向けられる、それに震える訳ではないだろうが……此処までの長期間の海外遠征、シリウス程ではないがスーちゃんも不安は隠しきれないのだろう。何せ凱旋門からのブリーダーズカップなのだ。
「スーちゃん、我儘言ってごめんな」
「何を言ってるんだか、子供は子供らしく我儘でいいのよ。ルーちゃんとシーちゃんが良い子な分、我儘で私は楽しいわよ」
「感謝してるよスーちゃんには……本当にさ」
「フフフッなぁに急に」
唐突に口にする感謝にスーちゃんは微笑んだ、だがその笑いと共に震えが止まっている事に気付く。何も変わらぬ自分を見て落ち着くを取り戻したという奴なのかもしれない。
「スーちゃん、日本に戻ったら俺やりたい事があるんだ」
「あら、貴方がやりたい事って何かしら。配信?」
「いつもやってんでしょうがそんなの……まあそれもいいか、日本に帰ったらまず盛大な配信でもやるか」
「良いわね~何だったらこれまで呼んだゲスト皆呼んじゃう?」
「出来る限り呼んでみようか」
傍から聞いたらとんでもない会話だが、二人の間の空気は極めて楽し気で軽かった。
「スーちゃん、今日一緒に寝ていい?」
「あらあらあらあらあら!!いいわよ勿論、私ね孫と一緒に寝たかったの!!ルーちゃんとシーちゃんってば恥ずかしがって中々してくれないだもの」
「まあこの年で一緒に寝るってのは中々な……」
そう言いつつもランページはスーちゃんの手を少しだけ強く握った。それに応じるようにスーちゃんも握り返しながら二人はホテルの部屋へと向かって行き、共に寝床に付いた。この時、ランページは不可思議な程に熟睡出来たと語った。そして―――遂に、その時が来た。
「さあいってらっしゃい、世界に立ち向かってきなさい、そして勝って来なさい!!」
「応よ、暴君の花道極めて来るぜ!!」
イスレ様よりフィフティーマグナを頂きました。有難う御座います!!
そして―――次回、BC開幕!!