この大地に立って改めて思う事などは特にない。自分はすべき事をする為だけに此処に来たのだ、芝ダートの世界統一制覇だの最速と最強の両立だのと自称有識者が宣っていたがそんな事は自分の配信で全否定してやった。
「ぶっちゃけた話をすればさ、芝ダートの完全制覇だの偉業如何だのって喚く有識者の先生方いるけどアンタら全然俺の事分かってないな。名誉だの金だのそんなの俺は興味ねぇんだわ。世界最強?知るかンなもん、そんなの世間が俺に対する評価で感想なだけだ。俺は唯のウマ娘、ライバルとのレースを楽しみたいって思ってるだけのウマ娘。この舞台で、俺はレディやダイナとやり合いたいだけ。俺には崇高な目的も意志もねぇ―――ンなもんは勝手についてくるもんだ」
寒門のウマ娘が此処までのし上がって来た、その果てに彼女は暴君と呼ばれ果てには世界最速の称号すら手にした。名誉などは結果の後に勝手に付いてくる、そう断言するかのような言葉にコメントを打ち上げた有識者は顔を赤くした事だろう。日本の誇りを背負うつもりなどはない、重ねたければ勝手にすればいい。正しく暴君に相応しい横暴な振る舞いだが―――それこそが世間が名付けた暴君という呼び名に相応しい行い。
『砂塵の騎士、アメリカにおける初のG1勝利を飾った日本ウマ娘、レディセイバーが今堂々とした登場をしました!!此処までアメリカでの戦績はなんと連対率100%。日本からやって来た騎士の上陸にアメリカは震えました!!そして遂にもぎ取ったG1勝利の栄光という冠を携えて世界一へを目指します』
『続いて来たのは……砂の超特急ことアメイジングダイナです!!レディセイバーに続いてアメリカに上陸した彼女、戦績こそレディセイバーに劣りますが連対を外したレースでは3着と負けず劣らず!!日本のダートを引っ張って来た二人のウマ娘がこのアメリカの大地でリベンジに挑みます!!』
地下バ道を越えて姿を現したレディセイバー、アメイジングダイナに溢れんばかりの声援が向けられた。二人にはアメリカにも多くのファンがいるが今日ばかりは日本からやって来たファンの声がそれを凌駕していた。
「レディ頑張れ~!!!」
「今日こそお前が№1だ!!」
「砂塵の騎士の名を今こそ世界に轟かせろぉ!!」
「天から終いまで先頭だっぞ~!!」
「アメイジングな勝利を頼むぜ!!」
「気張れよダイナ!!!」
『ダイナ!!ダイナ!!ダイナ!!ダイナ!!』
『レディコールとダイナコールが巻き起こっております!!そうです、この二人は既に日本のダートを引っ張るだけではなく世界で通用する逸材なのです!!このコールにも納得です!!』
聞こえてくるコールに思わず笑みを零す、ライバルへと贈られるそれが酷く誇らしく思えた。そんな思いを携えながらも一歩一歩を噛み締めるようにゆっくりと行く。そして地下バ道から僅かに自らの姿が見えて来た時に騒めく、震えた。偶然巻き起こった暴風すらそのせいだと思えた、あの嵐の凱旋門を制した故の弊害だ、妄想、だと吐き捨てる事は出来ずにいる。
『―――28戦28勝、生きる神話の歩んだ勝利の軌跡のレコード。世界最速にして世界最強という称号を、この日を以てその手にするのか、何処まで駆け上がるのか。私達はその果てを見てみたい、その果ては今日なのか、はたまた果ては訪れないのか!!独裁暴君メジロランページ!!問答無用、説明不要の1番人気です!!』
『rampage!!rampage!!rampage!!rampage!!』
BCクラシックの舞台に一人、また一人のウマ娘が現れる度に巻き起こるコール。それは期待と願いの表れだった。此処に立つ全員のウマ娘が勝利を望まれている、そんな中でも一際巨大だったランページコール。無数の期待、夢、願いがいっぺんに押し寄せて来るのが分かった。日本、アメリカ、ヨーロッパ、ドバイ……自分が走ってきた舞台だけではない、正しく世界中からの視線が自分に集中している。小市民な自分にとっては重く、辛く、酷く、脆く、痛い。
「待たせたな」
―――そんなものを感じさせないほどに飄々とした態度でコートを肩に担いでそれに応えてやった。重圧なんて感じていないかのような姿に誰もが目を奪われた、あれこそ王の姿と幻視するだろう。王であっても自分は暴君、正しい王ではない、それに応えるつもりはなく……自分のやりたい事を貫き通すが為だけに此処に立っている。
此処に立つウマ娘は国の威信、誇りを掛けて望んでいる。自らの力に対する誇りを掛けて望んでいる、だが暴君にそれらは無く単純にライバルとの勝負の場としてしか考えていない。その考えはある意味で極めてシンプルで強く、彼女らにとってはどす黒く空を染め上げる不吉を齎す凶つ星。
「貴方が羨ましい」
と多くのウマ娘が思う事あろう、実際そう思うウマ娘ばかり。ゲートへと向かう彼女の姿は王者である、がその一方で純粋なウマ娘としての姿にも見える。レースを走りたい、ライバルとの勝負を楽しみたい、そんな物を感じさせる晴れやかな表情を作っている。
「ラン~今日は宜しく~!!」
「お前さんはいつも元気だねぇ……ああそうだ、お前さんの推しの会社から連絡が来たぞ。後で回してやる」
「マジ!!?やった~なんかもうこのレースの
「おいおい……」
「だけど私もウマ娘、身体はレースを求める……」
ゲート前に至っても、自然を崩さない。それ所かリンクスと雑談に興じる余裕すらある、最早それは異端の領域に到達する。異端なのはある意味当然なのかもしれないとランページ自身は思っている、故にその異端すらも利用する。
「ランページさん、今日こそ貴方に勝ちますよ。作り上げた刃―――貴方に届かせて見せます」
「それは私の台詞だよ、砂の超特急に恥じないチューニングを今日の為にして来たんだからね」
望んだライバルも自分との対決を待ち望んでいてくれた。それだけでも嬉しく思う、そんな自分達を見る中にダイナをライバル視するエーピーインディがいる。その光景だけでも自分が思うよりもずっと深いライバル関係なのだと悟るが、ライバルに時間は関係ないと自分を奮い立たせる。この場に居る全員がライバル、等しく対等な関係が作る門出が始まる。
『今ゲート入りが完了しました。世界のダート最強決定戦、ブリーダーズカップクラシック、勝利の栄冠を手にする王者は誰なのか、メジロランページが世界の王者となるのか、それともレディセイバーが暴君を討つのか、アメイジングダイナが勝利へ急行するのか。さあ今レースが―――スタートしました、BCクラシック開幕です!!』