貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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259話

開幕したブリーダーズカップクラシック、ダート世界最強がこの一戦で決定すると言っても過言ではない。春のダート世界最強戦とも言われるドバイワールドカップ、それに勝利したランページが出走した事で名実ともにダート世界最強決定戦となっている。彼女が勝つにしろ負けるにしろ、今日決まるのは世界の頂点。そんな頂点の決戦であるが、スタートダッシュを決めたランページ、普段通りの大逃げ……をする筈だったがアメリカ、いや日本を除く世界では中々無い光景がそこにある。

 

『スタートしました!!先頭を行くのは当然メジロランページ……だけではない!!?レディセイバー、アメイジングダイナ、リスフルーヴ、アームドリンクス、シュタールアルメコア、フィフティーマグナ、……半数以上のウマ娘が大逃げを打つメジロランページの背中を追いかけるように逃げ戦法を選択しております!!』

『これは徹底的にマークをされていますね……』

 

ある意味当然の光景だ。此処まで勝ち続けている強者の実力は疑いようがないのだからその対策をするのは必然中の必然、その結果としてランページは半数以上のウマ娘から逃げのマークを受ける事になった。それをしていないウマ娘の戦法も先行とできるだけ前に出て距離が離され過ぎないようにしようとしているのが見て取れる。が、此処で大きな問題として立ちはだかるのがランページの脚質。単純な逃げではない、大逃げ。勝ちの定石などではない大博打とも言われる大逃げ。

 

大逃げはマークを受けたとしてもそれすら振り切ってしまう。逃げ以上に走る為にマークを振り切られて無意味に終わる場合の方が多い、マークを有効にする為には同じ領域、大逃げに脚を突っ込むしかない。だがそれを行う中でトレーナーからされた注意、あの大逃げと同じ場所に立つのは余りにもリスクが高い。自らの走りを逸脱して走らされるからだ。だが、勝つ為にはそんな注意なんて先刻承知だと多くのウマ娘が暴君の後に続いて行った。

 

「ハッそんなに俺が怖いと見えるなぁ―――ついて来れるか」

 

今の自分は最高潮、最高のパフォーマンスが出来るが故に最初からトップギア。ついて来れるのは一部だと思っていたが……その予想を裏切る様に多くのウマ娘が迫ってくる、それならば篩に掛けてやろうかと思い至りその言葉と共に土を踏みしめる脚に力が込めた。

 

「あの時と一緒だねぇ!!」

「ハッやっぱりお前は平然とついて来やがるなぁリンクス!!」

 

平然とついてくるリンクス、流石のフィジカルエリートといった所だ。他の連中はそれぞれがそれぞれを牽制しながらも離れすぎず近すぎすを維持している。既にデバフが飛び交っているのを感じるが―――そこを一気に突き抜けるように、切り伏せるかのように突破してくる二つの影が来る。

 

「やっぱり、貴方は速いですね!!」

「だけど、負けませんよ!!」

 

レディとダイナが抜けて来る、このアメリカ遠征で二人も明確に力を付けているのか加速力が段違い。やはり、このレースは楽しいものになる予感は正しかったと思いながらも駆け抜ける。

 

『先頭にはメジロランページ。その直ぐ後ろにアームドリンクス、アメイジングダイナ、レディセイバーが一塊。そこから2バ身程離れた位置でフィフティーマグナ、リスフルーヴ、シュタールアルメコア、エーピーインディ』

 

第二コーナーへと入る辺りでも矢張りというべきか直ぐにランページを射程圏内に収められる位置を維持しているのは対戦経験があったり特別に警戒をしている者達。エーピーは何方かと言えばダイナを直ぐに捉えられるようにしているというこのレースでは珍しい立ち位置ではある。先行に付くのはプレジデントターフ、ストライクゴルディオン、グランデノヴァたち。それを加味しても今回のBCクラシックは相当なハイペースになっている。

 

「分かっていた、分かっていた筈だけど……このハイペース……!!」

 

プレジデントターフが思わず毒づいた。あの暴君の戦法は何時も大逃げ、ハッキリ言ってしまえばワンパターン。時折幻惑逃げを用いると聞くが海外では全く使っていないと聞くので安定する大逃げを打つ事は読めていた。だから大逃げに対応出来るだけの脚と体力を作って来た―――つもりだった、だったのに……まだ半分も来ていないのに既に疲労が積もり始めて来ていた。

 

「だけど、ペースを変える訳には……!!」

 

だが、暴君はそんな内情など一切考慮などしてくれない。何故ならば彼女はライバルである二人の成長を肌で感じる事が出来てハイテンションになっている。故に―――更にギアを上げる。

 

「負けるかぁぁ!!」

 

アメリカの誇りを背負っている自分達が負ける訳には行けないという気持ちを発露させながらも必死に走り抜く。だがその視線の先で駆け抜けている影がある。

 

「今日の為に、色々やって来たんだぜ俺はよぉおお!!」

 

『第三コーナーへと入る、っと此処でシュタールアルメコア、シュタールアルメコアが上がってきているぞ!!ドバイで、イギリスでのリベンジを此処で果たすと言わんばかりの凄まじい気迫を放っております!!』

 

「走ることに囚われたウマ娘諸君、準備は良いか?……そんじゃ…ショータイム!!」

 

その言葉と共に世界に霧が走った。シュタールアルメコアの領域が展開された、異形の者どもが湧きだす中をアルは一気に突っ切るかのように加速していった。シンザン鉄を使う事で彼女も進化した、それは領域も同じだったのだろう。第四コーナーへと差し掛かろうとした所で一気にランページを射程圏内に収めようとした時に背後からの気配に気づく。

 

「良い走りだったわね、良い場所よ貴方」

「リ、リスフルーヴテメェ!?」

 

領域を使う事で文字通りに霧に巻いた筈だった、だが突っ切ったその背後に付いたフルーヴはスリップストリームの要領で共に領域を抜け出してきた。まったく油断できない女だとアルが汗を流す中でランページを見た。そんな事は如何でもいいんだ、自分達の目標はもう手が届くところに居るんだ、目指すほかない。

 

 

「強い、実に強い、素晴らしく強い」

 

そんな言葉を並び立てるのは一人のウマ娘。そんな彼女の視線の先にあるのは唯一人、先頭を走り続けているメジロランページ。瞳は鋭い、ランページの一挙手一投足を見逃さぬよう。

 

「如何かな、彼女の走りは」

「今更私などの言葉で飾り立てる必要などはない、するだけ野暮だろう」

「確かに」

 

そんな彼女の隣に一人の男性が立った。その言葉に応えつつも瞳は一切反らさない。

 

「君の走りとは違うな、あれだけのストライドで完璧なコーナリングだ」

「頑強で強靭だからこその技……やれやれ、好い加減に自重しようと思っていたのに身体は正直で困る。如何して現役の頃に会えなかったのかな」

「よく言う」

 

既に引退した身ではあるが習慣なのか、毎日トレーニングを欠かさなかった結果本格化は完全に終わり衰えていくだけの筈のウマ娘としての能力を維持し続けているという異様を見せている。ある意味でそれはシンザンとも似ている。

 

「レース後、話せるだろうか」

「だと思うが……話したいのか?」

「ああ、是非とも話したいとも―――彼女とね」

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