貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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260話

第三コーナーを越えて尚、先頭を譲らずに駆け抜け続けているランページ。ドバイの二の舞にはならぬと言わんばかりの疾走にスーちゃんも手に汗握っている。あと少しで最終直線、本当のゴールが見えて来る。

 

『先頭はメジロランページだが、シュタールアルメコアとリスフルーヴも上がって来る!!アームドリンクスが2番手、レディセイバーとアメイジングダイナが3番手並んでおります!!エーピーインディ、フィフティーマグナも機会を伺っている!!間もなく仕掛けるのか、今第四コーナーへと差し掛かる!!』

 

終盤へと差し掛かったレース、その時に無数の重圧が圧し掛かって来るのを感じた。無数のデバフが飛んできた、それらを感じながらも前へと進む、警戒を抱く、気にしない、動じないとそれぞれの対応が見え隠れする。そのデバフの影響か、それぞれの走りが僅かに乱れてきている。それもその筈だ、ランページのペースはアルティメットハイペース、ツインターボのそれを更に磨きを掛けたかのようなとんでもないペースなのだ。玉砕する気しかないと言われても納得する程のペースに流石の優駿達も足元が覚束なくなってきているのかもしれない。

 

「こんな所でぇ!!」

「負けるかぁぁぁ!!」

 

間もなく最終直線、それぞれが切り札を切り始めていく。無数の領域とデバフが嵐のように乱れ飛ぶ、それは当然ランページもその影響を受けているがそれを捻じ伏せるかの如く、脚を動かし続ける。こんな事で脚を止めたらシンザンに何を言われるか分からない―――というのもあるが、止まりたくないのが素直な本音だった。だから自分は更に上を行く、暴君として、眼前に捉えたゴールへと激流と渦巻く気勢と共に更にギアを上げる。

 

『さあ最後の直線だ!!最終直線へと入ったぞ、此処でメジロランページが伸びて来るぞ、これが彼女の恐ろしい所だ。逃げて差すを体現するウマ娘!!』

 

賛美の言葉など耳に入らぬ、聞こえてくるのは肌から伝わる空気の流れと自分の呼吸音と心臓の音のみ。そんな中で背後から凄まじいものを感じた、そしてそれは自分に並び立ったのだ。

 

『こ、此処でフィフティーマグナ!フィフティーマグナがメジロランページに肉薄する!!半バ身まで迫って来る!!』

 

此処までやれるのか、いや違う―――自分のギアが一瞬、変更が遅れていた。同時に感じ取った身体の鈍く重い鉛のような疲労、彼女の領域が自分に影響を与えている……!!

 

「やっとの思いで此処まで来たんだから、全力を出さなきゃ、意味がないのよ!!死にものぐるいでやろうじゃないの!!!」

 

彼女の領域は確実に自分を蝕んだ、そしてリンクスとレディにも到達していた。レディは重苦しい息を吐き出しながらも疾駆する、一瞬の苦しみを飲み込んで走る。だがリンクスはそれを完全に弾く、彼女にデバフは通用しない。完全に自分で完結している、他者が干渉する隙間はない。

 

「くそがぁぁあああ!!!俺が、俺が勝つんだぁぁぁ!!」

「それは、私の台詞だぁぁ!!」

 

アルと共に上がって来ていたフルーヴも全力を出した。残った力を振り絞って一呼吸をする、呼吸を整えて加速してアルを追い越していく。更に向こう側へと走っていく彼女にアルは不甲斐なさを感じながらも必死に走る。

 

「俺は、俺はもう負けたくねえんだ、俺のこの走り方が一番つえぇんだ……トレーナー(あいつ)が見つけてくれたこの走りで俺は世界を掴むんだぁぁぁ!!」

 

その叫びと共に更にもう一歩を踏み出した時に―――後方から一気にもう一人が迫るとそれは一瞬で自分を追い抜かして行った。

 

『エーピーインディが一気に上がって来た!!一気に先頭集団にまでのし上がって来た!アメイジングダイナに迫る、リベンジを果たせるか!!』

 

ブリーダーズカップクラシック、それを駆けるウマ娘。アメリカの誇りを、いや自分に勝ったダイナに会いたくてこのレースに出たんだと言わんばかりに一気に行く。そして遂に追い抜い―――

 

直線に入った、ストレートこそ彼女が最大の力を発揮する本当の戦場。深々と地面を蹴り込む、蹴り込んだ地面はまるで爆ぜたかのように土を撒き上げながらもダイナは一気に加速していく。この時の為に、全ては勝つ為、いや勝負をする為。アメリカでの日々は強い自分を作る為だけ……名誉なんて如何でもいい、G1勝利なんて興味も無い。欲しければくれてやる栄冠、それらを糧にして走る走法こそ彼女の領域

 

「こっからが私の、本当の走り。貴方に見せる為の走り―――ストロング・ダイナァァァァ!!」

 

一瞬で最高速度にまで到達してそのまま先頭を目指す。そしてそれとほぼ同時に―――冷たい輝きと共に鎖が斬られた音がする。そこに居たのは砂の超特急に並び立つ砂塵の騎士。視線を低く、上半身が地面と平行どころか頭が地面に付きそうな程の前傾姿勢、ウマ娘の姿勢とは最早あり得ぬ程のそれは破滅をも恐れぬ彼女の意志の具現。全ては―――たった一人に勝ちたいがために。

 

そこに至るは無数の研鑽、あらゆる己を纏め上げ、修羅の道にて鍛えに鍛えたその刃……抜刀するはこの時を置いてはあり得ぬと、かの騎士は勢い良く、剣を抜き放った。

 

「受けて知れ、是が私の刃ァッ―――!!」

 

一閃のように美しく、切り裂かれた空気は唸りを上げるが如く力強い。砂塵の騎士はそのまま大地を切り裂けるほどの切れ味を以て疾駆する。その走りは間違いなく、ランページに並び立つに相応しい走り。最高のダートウマ娘二人が挑むは最速、己が認めた最高のライバル。追い付き追い抜くそれだけの為に走った。3バ身あった距離は縮まっていく、2バ身、1バ身と迫る。

 

『砂塵の騎士と砂の超特急が迫る!!日本のレディセイバーとアメイジングダイナが行く!!!なんという事でしょうかこのアメリカの地で勝利への名乗りを上げて今、最速のウマ娘に挑んでおります!!』

 

最早敵は一人のみ、たった一人のみ―――と思っていたが二人は思わず笑った。矢張り世界は広いのだ、そして素晴らしい。日本は世界へ行くべきだ、そう思える程の事があった。追い抜いた一人のウマ娘がまた迫って来た。

 

「アハハハッフフフッアアハハハハハ!!!」

 

彼女は何処までも晴れやかで底抜けの笑みを湛えながらも迫って来た。眩いばかりの閃光を纏いながら走るアームドリンクス、強者に理由などはいらないと言われる彼女は知った。ドバイで知った、ライバルは本当にいるのだ。無意識的な傲慢が最後の成長を止めていた、だがそれをランページが解き放った。そんなに強いのならば戦いに来い、そして受け入れてくれた、戦いに来てくれたそれに感謝を―――その証にと言わんばかりにリンクスは最高の走りを披露する。

 

『こ、此処でアームドリンクスが伸びて来る!!?何というウマ娘なんだ、彼女もまた逃げて差すウマ娘か!!?アメイジングダイナとレディセイバーに今、並び立つ!!そしてそのままメジロランページへと迫る!!暴君への挑戦者は最早この三人を置いては他に居ない!!砂塵の騎士、砂の超特急、白いイレギュラー!!独裁暴君、メジロランページに、間もなくその脚が届く!!残り100を切るぞ、メジロランページもう苦しいか!!?もう余裕がないぞ!!』

 

「今日こそ私が勝つんだぁぁぁぁ!!!」

「負っけるもんかぁぁぁぁ!!!!」

「うあああああああ!!!」

 

叫びは劈く雷となった。閃光の煌は後僅かで届く。世界最速のウマ娘に届く、そして勝てる!!そう思う中でランページは走り続ける、そして―――彼女も笑っていた。本当に自分は此処に来てよかった、ランページに感謝しなければいけない……このレースに出て欲しいという願いを聞いてよかった。

 

『ねっ今、楽しい?』

「ああ、最高に楽しいぜ……!!」

 

そんな出会いをさせてくれた三女神にも感謝を捧げたい……故に見るがいい三女神、いや刮目せよ世界。この最高の舞台に揃った優駿、その疾走は尊敬に値する。だからこそ自分は応えなければならないのだ、一人のウマ娘として最大の敬意を以て―――その疾走を神速に至る疾走を以て凌駕する!!

 

亡き魂よ、共に暴れよう。

 

到達した神速の脚。

 

このレースで発揮された悉く、重圧らを全て弾き飛ばした。そしてそれによって奪われていた本当の力が目を覚ます、そして封じ込められていた反動で高まった力が溢れ出し文字通りに暴れ狂う。それらを魑魅魍魎を踏破、到達した脚で我がものとする。そしてランページは……一瞬、姿がブレて消えて見える程の加速をしながら白く染まった景色へと駆け出す。

 

『抜かれ―――ない!?こ、此処で更に行った、メジロランページメジロランページが行った!!途轍もない、何だ何だ貴方は!?世界最速は最強なのか!?そんな問答はもう如何でもいい、貴方は一体何なんだ!!?その答えは決まっている、彼女は、彼女は―――王者だ!!!王者、メジロランページは王者なんだ!!』

 

誰もが思った疑問に答えが出た。あのウマ娘は一体何なんだ、メジロランページ。王者にしてウマ娘。それ以外の答えなんて無粋。

 

『メジロランページ今―――ゴオオオオオオオルイイイイイイインッッッ!!!!ブリーダーズカップクラシック、世界最強決定戦を今、日本の暴君が完全制覇ぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!凱旋門に引き続き、ダートの最強の称号を手にしたぁぁぁぁぁあああ!!!そして2着には―――えっレディセイバーとアメイジングダイナが同着!!?4着にアームドリンクス、5着にエーピーインディ!!凄まじい結果です!!そして―――えっう、嘘でしょ!!?』

 

刻まれたその時間に誰しもが言葉を失い、唖然とした。お前は一体何なんだ、その答えなどは出ている筈なのにそう思わずにはいられない。ダート2000mのワールドレコードはスペクタキュラービッドが叩きだした1:57.8、スーパーレコードとしか形容しようのないタイムだった。日本の最強ダート馬として名高いスマートファルコンでも2:00.4が最高のタイム。それを―――

 

【1:57:5】

 

『ワ、ワールドレコードだ……メジロランページが芝ダートでワールドレコードを達成ィィィィィィィィッッッ!!!これはもう、文句のつけようがない!誰であろうと反論の余地を許さない!!!貴方こそが、世界最速にして世界最強のウマ娘、メジロランページだぁぁぁぁぁぁ!!!!』

 

最早、その称号にそぐわないとは言えなかった。この瞬間より、彼女は世界の頂点に立った。完全制覇、完全統一。この二つを以て最強と最速を我が物とした。前人未到の大偉業を成し遂げたランページは空を見上げながら静かに微笑んだ。そして

 

「ランちゃああああん!!!」

 

走り込んできたスーちゃんを抱きとめながら、漸く顔を破顔させると大声で叫んだ。

 

「俺の、勝ちだぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

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